短文まとめ

鶴丸+蜂須賀+今剣
歌仙+長谷部
ソハヤ+小狐丸
歌仙+小夜
博多+日本号


鶴丸+蜂須賀+今剣



基本的に刀剣男士は人好きのする気の良い者が揃っている。人と共に逸話や歴史を重ねてきた刀たちが具現化した姿なのだから当たり前と言えばそうなのかもしれない。
だが彼らにも適材適所というものがあって、向いてないことを命じれば当然嫌な顔をする。戦嫌いで有名な江雪に出陣やその準備をさせれば溜息ばかりなのがその好例である。

この本丸の鶴丸はそんな「向いてない仕事」をさせられている者たちにささやかな驚きや喜びをもたらすのが好きな、そんな性格をしていた。
今日はちょうど面白い物を審神者から貰ってうきうきとしていたところに、沈んだ顔をした2人が縁側でひと休憩しているのに遭遇したため、これは幸いと声をかけることにした。
「やあやあお二人さん。どうもお疲れのようだな」
「ごきげんよう、鶴丸殿。やはり俺には畑仕事は向かないよ」
そう言うのは、土仕事だというのに高級そうな着物に身を包んだ蜂須賀だ。
「こまかいしごとはにがてだっていってるのに、なんでこんなことばっかり!」
そう憤慨しているのは長い髪が汗でぺたりとはりついている今剣だ。
「ははははは、疲れている二人にいいものをやろう」
鶴丸は露骨に文句を言うふたりのさまにからからと笑ってから、手元の袋を漁って小さな黒い塊をひとつずつ、ふたりの手のひらに置いた。
蜂須賀はそれをまじまじと見、今剣はつまんで光にかざした。
「まっくろですね!なんですかこれは」
「失敗した刀装…というわけでもなさそうだけど」
「まさかそんなものわざわざ渡す訳ないだろう!それはな、飴なんだよ。美味しいから食べてみてくれ」
言いながら鶴丸は袋から出したものを口にぽいと放り投げる。
口に入れた鶴丸の反応を見て、それが怪しい物ではないと確認した二人はおそるおそる貰ったそれを口に入れた。
途端、二人の瞳かくるりとまるくなって眦がやさしく下がる。
「君達のその顔が見たかったんだ。どうだ、おいしいだろう」
「ああ、これは良いものだね」
「おいしいです!つかれがとれるかんじがします」
「さっき主に貰ったものでね、黒飴といって黒糖を煮詰めて固めたものらしい。甘いもので疲れをとったら続きの畑当番も頑張ってくれよ」
そう言って去ろうとする鶴丸の腕を蜂須賀が掴む。
「え?」
綺麗すぎるほどのにこやかな顔が鶴丸に向けられている。
「甘い物もいいけれど、ねぎらう気持ちがあるなら当番を変わってくれたら俺たちはとーっても元気になるし癒されるのだけど」
「そうですよ!ぼくたちのしごとてつだってくれたら、ぼくたちとーってもうれしいです!」
「い、いや……畑当番自体は嫌いじゃないんだがな、俺がいると何故か光坊が参加しようとしてきて――」
「人手が増えるならいいことだろう?さあ一緒にやってさっさと終わらせてしまおう」
「やったあ!これではやくすみますね!」
「そういうことじゃなくて―――頼む!俺の話を聞いてくれ!」



そして鶴丸が言ったとおりに何故か燭台切が畑仕事に途中参加してきた。
そのことによって彼らが地獄をみたかどうかは、当事者とお天道様だけが知っている。




某所にて三池キャンペで爆死した人の推したち3振で慰め(?)短文。
はっちの内番する気のない内番服好き。
16.8.20





歌仙+長谷部



長谷部は賢いしだいたいのことはできる、と本丸の面々に思われてはいるが、一部の者はそうでもないことを知っている。
そのうちの一人である歌仙はちらりと隣を見てひとつため息をつく。
視線の方向には、むむむと唸りながら眉間にしわを寄せている長谷部と、その目の前にある台には惨憺たる有様の米の残骸があった。そうしようとおもってできたものではない。おにぎりの失敗作である。
今日も今日とて夜遅くまで仕事をする予定らしく、当たり前のような顔で夜食を依頼してきたものだから、「個人的な都合で食べるものぐらい自分で用意したまえ」とすこしの意地悪心で言ってみた結果がこれである。
長谷部が不器用で料理を苦手をしているのは知ってはいたが、ここまで悲惨だとは思わなかった。おにぎりが作れない者がいるなんて思ってもみなかったのだ。
まず不用意に米を掌のよそってやけどをする。少しさましてからにしろと指導し握らせれば今度は仇でも殺すかのような馬鹿力で米を握りつぶし飛び散らせる。もっと弱く握れと言えばどうにか形を保っているかのような緩い握り方をし、のりを貼る段階で形を崩す。そんな失敗作の結果だった。
出来心で言ってしまった言葉を歌仙は後悔し、心のなかで米農家の方々に謝った。そしてさすがに長谷部にストップをかける。
「これ以上米を無駄にするのはやめるんだ、まったく……。雅ではないから好きではないんだが、不器用な君でもできるやり方を教えるから僕の真似をしてみてくれ」
「あ、ああ……」


数分後、自作したおにぎりを目の前にかざして目をきらきらとさせる長谷部がそこにいた。
「雅ではない」やりかたとは、茶碗に米をよそいその上にもう一つ茶碗を逆さにかぶせて振る、というやりかたである。そうすると米が丸い塊になるのでそれに具を入れるなりのりを貼るなりすれば丸おにぎりの完成、という手順であった。歌仙としてはおにぎりは三角であるべきという考えなのであまり好きではないのだが、さすがに長谷部の惨状は目に余ったのだ。
「俺の初おにぎり……」
感慨深げにつぶやき、次の瞬間はっとした顔でがたがたとエプロンを取り払った。
「これは!主にお渡ししなければ!!」
茶碗に入ったままのおにぎりを抱えて自慢の機動で長谷部は飛び出していく。
それは君の夜食になるはずじゃなかったのかい、とつっこむ間もなく歌仙はそれをぽかんと見送るしかなかった。




岩さん絵とのトレードで書いた短文。お題は「長谷部とおにぎり」でした。
自分のかく歌仙さんはだいたい料理してる気がする。
16.8.26





ソハヤ+小狐丸




今日の出陣は終わったけれども夕飯までには間がある。そんな中途半端な時間帯にぼーっとしていると、なんとなく眠気が襲ってくるものである。
ソハヤはそのまどろんだ状態で自室の縁側でぼーっとしていると、日の光が当たらない場所故かとろとろと瞼が落ちてきた。

夢の中でソハヤは、腹に石をつめられていた。
つい先日短刀部屋で読んだ本の中にこういう話があった。子供たちを食べられた母ヤギが、狼の腹を裂いてそこに子供の代わりに石を詰め、井戸に誘導してその石の重みで溺死させるという童話だった。
童話がときとして残虐なのは海の東西や時代にとわずよくあることだが、食物連鎖の通りに従った狼が残虐な刑に処せられるのはあんまりだと思った記憶がある。その当事者となればなおさらだ。
夢の中でさえ動けず、ずん、ずん、ずん、と腹が重くなる。これでは井戸に行くまでもなく動けないまま餓死する。ああ腹が減った。
母ヤギは狼のことを妖怪か悪魔かといった形相で石をつめていたが、ソハヤにしてみれば母ヤギの方こそよほど悪鬼のようである。

「や、やめ……くそ、やめろ……っカハッ」
息が詰まるような心地で思わず目を開ければ、そこには白くもふもふとした何かとぴょこんと左右にはねた耳が見えた。
「ぎゃああああああああああああああああああ」
「う、うわああああああ」
ソハヤの叫び声に驚いたその白い何かが飛び退る。飛び退ったその何かを見れば、大食堂なんかで時々目にする太刀であった。
「な、なにしてるんだ、あんた、えっと小狐丸、だっけ?何してんだ?」
「その腹は何かを詰められる待ちなのかと思うてな」
「腹ァ?」
言われて視線を下せば、がばっと広げた防具の中に玉鋼がこんもりと積まれていた。かの悪夢の原因はこれなのだろう。うんざりした気持ちで防具の中のものをざらざらと落とす。
すると小狐丸はわざとらしいくらいの演技じみた声音で、
「われらの子供たちになんという仕打ちを!」
というものだから、ソハヤが一瞬ぎょっとした後苦い顔をして、小狐丸をひとつぽかりと殴るのだった。




安価でソハヤと小狐が当たったのでそれをもとに即興短文。
ソハヤのあの鎧に何か詰めたいのは主に筆者の心情。
16.8.26





歌仙+小夜



からっと晴れた秋空の下で、ぱたぱたひらひらと洗濯物がはためく。
衣ほすてふ天の香久山、なんていう下の句が思い浮かんだがあれは初夏の歌だったなあと歌仙は考えるが、別に初夏じゃなくともこういう光景はどこか気持ちがいい。最近どうにもぐずついた天気が多かったからたまった洗濯物を干せるのは気分がいいのもある。
審神者が言っていた豆知識によると、海外の都市には洗濯物を目に見えるところに干してはいけないという決まりがあるという。このような気持ちのいい光景を禁止するなんて雅ではないね、と思いながら取り込む作業にはいった。

すっかり乾いた洗濯物とはいえ、50余りの人員の布団のシーツともなればかなり重い。それをいったん縁側近くの部屋に取り込めば、たたむ前のそれは空気を含んで随分とこんもりとした白い山になった。
皆の服は生活リズムや場所が足りないのもあって乾燥機で乾かすことが多いのだけど、やはりこうやって天日に干したものは特別な何かがあると思うのだ。
故に、大量のシーツの山の誘惑に勝てず歌仙はその山に体重を預ける。すると乾いた音とともにシーツは沈み込みその体を柔らかく包み込んだ。
歌仙は初期刀なだけあってこの本丸で真っ先に錬度が上限に達し、新入りや極の錬度を上げることを優先したいという審神者の意向により歌仙はすっかり本丸の中の仕事が多くなってしまった。刀らしい働きはついこのあいだ江戸享保にすこし出陣したきりだ。そのときに話した相手である小夜も4日間の修行を経て強くなって帰ってきて、今同じ地へ出陣している。極になってからの初陣だ。
歌仙はもちろん極のための修行などしたことがないから、その差異をきいてみたいなあと思う。しかし疲れて帰ってきそうだなあとも思う。疲れて帰ってきた小夜のためにも布団の支度は整えておきたいのだけど。
シーツからかおるお日様の匂いに歌仙の瞼はとろとろとおちる。この匂いが魔性であると、洗濯をやるようになって知っていたはずなのに。



ふっと瞼を開くと、気付けばあたりはかなり暗くなっていた。日付と暗さから算出して夕餉の時刻よりは前であるだろうと推測する。
身を起こした瞬間、近くに体温があることに気付いてそちらを見れば、歌仙の胸元近くの位置に小夜が寝転がっていた。彼もまたお日様の匂いにつられたのか穏やかな寝顔をしているが、いつ帰ってきたのだろう。そして軽傷ではあるものの、なぜ怪我をしたままここにいるのだろう。
状況をつかめずにいる歌仙のもとに、小夜より先に極になっていた前田が訪れた。
「小夜君はいますか、丁度手入れ部屋があいたのですけど」
「ああ、埋まっていたのかい。いるのはいるけど寝てしまっているねえ」
「おや、そうですか。……どうしましょう?」
「怪我をさせたままにはいくまいよ。僕が手入れ部屋まで運んでいこう」
「ありがとうございます、それではおねがいしますね」
そう言ってたたたっと駆けていく彼は、審神者に戦果や手入れ部屋状況を報告するのだろう。
「極になってからの初陣はどうだったんだい」
答えがないと知りつつ問うた言葉は、案の定返事はない。
しかし軽くけがをした体、しかしより一層ひどいけがをしたらしい他の隊員、そしてなによりも眠っていながら眉間に寄った皺が言葉よりも雄弁に語っていた。
強くなって初めての戦でうまく戦果をあげられなくて不安に思ったのだろう。そのときに頼る相手が自分であることにどこか妙な充足感を感じながら、歌仙は小夜を横抱きにして手入れ部屋へ向かった。




唐突に「ほわっとしたのが読みたい」と無茶ぶりされてぱぱっと書いた短文。丁度小夜を極にしたころだった記憶。
16.9.24





博多+日本号



槍部屋の障子がスパンと開けられて獣のような何かがぴょーんと飛び込んできたのを、日本号はとっさに受け止めた。
「おいしゃん、トリックオアトリート!」
受け止めた何か――獣耳と尻尾をつけた博多が唐突に言った掛け声は、聞きなれないものだった。
「とり、なんだって?」
「今日はハロウィンやるっち、聞いてなかったと?」
「あー、短刀連中がなんかやるって言ってたなあ。何だったか」
記憶を探っていると、部屋の奥の方にいた蜻蛉切が言葉を引き継ぐ。
「子供が妖の仮装をして、お菓子をくれねば悪戯をするといって菓子をもらってまわる異国の祭りだそうだ。だから各々菓子を用意しておくようにと通達があったはずだが」
「げ、そんなのあったっけ」
うめき声をあげたのは御手杵だ。
「その、とり何とかは俺たちにも適用されてる?日本号だけじゃなくて?」
「勿論!俺は槍部屋担当やけんね!」
「うぇー……あ、今食ってる団子の余りでいいか?」
「しょんなかなぁ。とりあえずもらっておくばい」
「自分からはこれを」
きちんと話を聞いていた蜻蛉切は菓子を用意していたようで、金平糖が入った小さな包みを持ってきた。大太刀でありながら子供の枠組みに入る蛍丸や、面白がって参加しそうな鯰尾や鶴丸あたりの分も数えているのだろう、短刀全員分より少し多い数を用意しているあたりが抜け目ない。
「こんぺいとう!さすが蜻蛉切やね」
「用意しておかないこの二人がおかしいだけではないか」
「うるせえ」
「で、おいしゃんは?」
「……もののついでで聞くが、悪戯ってぇのは何をする気だ?」
「ふふふふふ、これを使う時がきよったかいな」
眼鏡の奥の目がきらっと光らせてポケットから取り出したのは、極太の油性マジックだった。
「うわ何するか容易に想像できたぜ……おいやめろ!まだ出さねえって言った訳じゃねえだろ!」
「でも用意してなかったんやろう?」
「探せばあるかもしれねえ。ちょっと待て」
そういって顔に落書きをしようとする博多をひっぺがして日本号は自分の私物が入った棚をあさる。
とはいっても基本的にその中は酒とつまみくらいしか入れていないためめぼしいものはない。その中からおやつになりそうなものをかたっぱしからかき集めて、博多のもとに持っていった。
「ほら、これでどうだ」
「……なんね、これ」
「菓子じゃねえけどおやつくらいにはなるだろ」
「するめ、ジャーキー、ナッツ、チー鱈……どう見てもこれ酒のつまみじゃなかか!」
「こんだけしかなかったんだよ!あるだけマシだろ!」
「しょんなかなぁ……顔は勘弁しちゃる」
「あっこら!」
博多は瞬く間に日本号の手をとってその甲にマジックで「酒」と落書きした。
「まあ十分収穫できたけん、よか!ありがとうな」
団子と金平糖とつまみを手早くまとめて籠に入れ、博多は嵐のように去った。ごきげんに揺れる尻尾を日本号は恨めし気に見送った。


後日記念に撮ったという写真を見せてもらうと、収穫物の中に自分が渡したもの以外にも酒のつまみの類があって、自分だけではなかったのだと日本号は内心ほっとしたのだった。




おいたんでハロウィンネタ書いてって言われたので、即興40分で博多湾回想コンビ、初期槍を添えて。
博多弁はジェネレータに頼ってみた。
16.10.31