三名槍+村正 「村正は悪いやつではないのです……」 夕日色の瞳をどこか遠くにやりながらそういう蜻蛉切を何度となくみてきたし、村正が来てからも「不意打ちでここに来るかもしれないからどうか警戒しないでほしい」とは聞いてきた。 とはいえ、こんな形で初対面になるとはさすがに御手杵も日本号も思ってはいなかった。 「どうするよ、これ……」 「どうしような、これ……」 ただでさえそんなに広くない槍部屋、ガタイのいい槍男士3人が寝る大きな布団を敷けばそんなに余裕もないような部屋で、いつのまにか眠っている人が増えていた。 布団で眠る蜻蛉切の隣で寄り添うように畳の上に眠る、これまたガタイのいい見知らぬ男が一人。すうすうと寝息を立てている。 それだけでも充分驚きなのに、かの男は裸だった。自分で持ってきたらしいブランケットのような小さな布は腰にかけられているが、それ以外はほぼ裸だ。 これで蜻蛉切まで裸だったら、寝ている間に何かよからぬことでも起こっていたのではないかと思うようなこの現状。寝るときはきちんと着こむ派で良かったと、若干現実逃避気味の二人は思った。 夜遅いころに村正が鍛刀されたとは噂で聞いたいたから、きっと裸の彼がその村正なのだろうとは予想がつく。が、挨拶さえされてない胡散臭い初対面の男士を起こすのは流石に気が引けて、しばらく遠巻きに観察したが村正は起きる気配もない。 「……とりあえず蜻蛉切の方起こすか」 「そうだな」 日本号が視線で指示し、御手杵はちょっと苦い顔を作ってから眠る二人に近づいた。 そして、蜻蛉切の肩をゆさゆさとゆする。 「おーい、とんぼー、おきろー」 ここで先に村正(?)が起きられては逆に困るので、起こす声は控えめに、ゆする手つきは若干乱暴にする。 元々寝起きの悪いほうではない蜻蛉切はそれでうっすらと目を覚ます。 「ん、どうした……」 「とんぼ、反対側のそいつ、どうにかしてくれよぉ」 弱り切った声音でそう言えば、蜻蛉切は促されるままに村正(?)のほうに向き直る。 「ああ……」 見知った、というリアクションを蜻蛉切がとって安心したのも束の間、 「村正、それでは風邪をひくぞ」 と寝起きでまわらない口でそう言い、ブランケットを肩まで引き上げて、またストンと眠った。 (あっ、ちょ、なにしてんだよばかーーーーーーーー!!!!あ、ふんどしははいてた!よかった!!) 起きてる二人が心の中で叫ぶ。 「あっ、ちょっと、おい待ってって、こいつどうにかしてくれよ!」 小声ながらもちょっと声を張って再び蜻蛉切を再びゆするが、村正実装の話を聞いてからずっと心配で眠れない日々を過ごしていたからかさっぱり起きる気配がない。 「どうするよ、こいつら……」 「どうしような、こいつら……」 結局のところどうしようもなくて『刀剣男士間のトラブルは極力当人同士で解決すること』と言い渡している審神者に泣きつくことになった。 朝っぱらから主直々の説教を受け、蜻蛉切は恥じ入って俯いていたが、当の村正はふんどし一丁のままきょとんとした顔で首をかしげていた。 蜻蛉切の胃の平安が訪れる時は遠そうである。 村正来た記念に。とはいえ一言もしゃべってませんが。 なんだかんだ仲いい三名槍がわーわーしてるのがすきです。 |
源氏兄弟 ※ 女装ネタ注意 自室のちゃぶ台の横、膝から崩れ落ちる影がひとつ。 「僕のしゅーくりーむ……僕の……」 それを見、おろおろと慌てる影がひとつ。 「す、すまない兄者!遠征帰りにいつも出してくれるおやつかと思ったのだ!ほんとうにすまない……」 「こんなに早く帰ってくるなんて聞いてない」 失意体前屈でめそめそとしだす兄に、確かに言ったのだがなあ、と膝丸は思うがさすがに口には出さなかった。机の上にあったシュークリームを兄に了解も取らず食べてしまった自分に一方的に非があるのは十分知っている。ひとつの皿に二つあったのを両方とも胃袋の中に入れてしまったのもまた悪かった。 「ああ、俺が買い直してこよう。どこの店のものだ?」 「万屋の近くの、週1限定100個のやつ……」 それを聞いて喉の奥が詰まったような心地になる。該当する洋菓子屋は値段は高いが味は確かで有名で、件の限定シュークリームが売られる日は朝から長蛇の列が並ぶことでもまた有名だった。 「本当に悪かった、兄者……それに代えられるものがあるとは思わないが、俺にできる埋め合わせならなんでもしよう」 慕う兄が自分のせいで悲しんでいるのを見るのは心が痛く、そう申し出れば、しばらくしくしくとしていた兄がふとぴたりと動きを止め面を上げた。 しくしくめそめそしていた割には目に涙の跡はない。 「今、なんでもって、言った?」 「え、ああ、言ったが……」 何か嫌な予感がして膝丸は後退るが、後退った分だけ髭切が詰め寄る。 「今、なんでもって、言ったよね?」 そう言ってにやぁと笑う兄に、無力な弟は冷や汗をたらしながら「兄者のそんな顔、初めて見たぞ」と小声で言うしかできなかった。 「これをすれば、ほんとうに、兄者は許してくれるんだな?」 『ほんとうに』のところにアクセントを置いて言った遠回しの抗議は、動かないでという兄の言葉に遮られ強制的に止められた。 膝丸は座したまま目を閉じ、されるがままになっている。目の前にいる兄が楽しそうで何よりだと思うが、そろそろ顔を弄り回すのをやめてはもらえないだろうか。 「うん、初めてやったにしては上出来かな。動いていいよ。はい、鏡」 手渡された鏡を受け取って恐る恐る薄眼で見れば、薄くおしろいをし目元と頬と唇に紅をさした自分自身と目が合った。醜くはないとは思うが、見慣れた自分ではないことが妙に気落ちさせる。 髭切が意気揚々と次郎太刀から借りてきたという華やかな着物を渡され、それに身を包んでいるのも、また見慣れない自分という感じがして嫌になる。普段は彩度の低い服しか来ていないからギャップがひどい。 「兄者がそうしろと言うのなら今更俺が文句を言える立場ではないが……こんなことをして何が楽しいのだ」 「え、すっごく楽しいよ?可愛い弟が可愛い恰好してるの見たいなあって前から思ってたからね」 「そうか……」 「ねえねえ、立ってちょっとくるっと回ってみてよ」 「ああ」 はああああ、と長くため息をついて膝丸は立ち上がる。余るはずの裾が帯で上手く調整されてぴったりの丈になっているが、普段洋装している身からするとどうにもまとわりついて動きづらい。くるりとターンをすると、裾がふわりと小さく広がった。 「うん、いいこいいこ。きれいだねえ」 「褒められてこんなに嬉しくなかったことはないぞ、兄者……」 「そう?――じゃ、買い物いってきてね」 「本当に行かなければならないのか」 「勿論。『こんびにすいーつ』とやらでいいから、しゅーくりーむ買って来てね」 「………………承知した」 垂れ布の付いた笠を深くかぶり、はああああ、と再びため息をつく。門の手前まで進みちらりと振り返ると、満面の笑顔でいってらっしゃいと手を振る兄の姿が見える。こんなことをさせて何がそんなに楽しいのか本当に疑問だ。 労力で考えてみれば限定シュークリームを買うことよりも女装でコンビニスイーツを買うことの方がよほど楽なはずなのに、この1歩を踏み出す足がすこぶる重かった。 言いつけられた任務は無事達成され、髭切の機嫌も直り、兄弟間にわだかまりが残ることもなかった。 しかし、「今、なんでもって、言ったよね?」と言った兄のあの笑顔が忘れられず膝丸は1週間夢に見て魘されたという。 にやぁと笑う兄者というテーマ?フリ?でぱぱっと書いたブツ。 お膝は不憫にしたくなる病です。 |
三条+五虎退 本丸の中でにわかに怪談が静かに流行した。 曰く『出陣から帰る際、首元を冷たい手で撫でられる』という。 歴史遡行軍をさんざん斬ってきたあとだから、それらの幽霊でも憑いているのではないかという考えが真っ先に立ったが、幽霊切で名を上げた青江が霊の気配に気付いていないという時点で、幽霊の仕業である可能性はほぼ消えた。 しかし依然としてその怪異はなくならない。幽霊でなければなんなのか。妖怪か?妖怪首おいてけならぬ、妖怪首冷やせでも現れたのか。そんな荒唐無稽な噂までたつ始末だった。 噂で皆がざわめくなか、そんなことを意にも解さなかった一団があった。三日月を筆頭にマイペースであることに定評のある三条派の面々だった。 怪談に惑わされないその堂々としたふるまいに他の面々は「さすが三条」などと言われることもあったが、単に噂話にさして興味がないだけである。さして霊力がどうこうということでもないし、レア度詐欺以外他の男士と変わりはない。 しかし「特に気にしない」が功を奏したのか、怪談の影響を受けて出陣を渋る者が出る中、参陣が遅かった分の巻き返しを図ろうと積極的に戦場に出たがるのがその三条であった。 「もうすこしで錬度上限だな、お二人よ」 岩融が桜を散らしながらそう言う横で、疲労の色濃い太刀二人は猫背気味で文句を言う。 「ならば誉を譲ってくれると嬉しいのだがなあ」 「まったくです。もう何本団子を食らったのか、10より先は数えておりませぬ」 「がはははは、悪い悪い、だがこればかりは俺にもどうにもできんのよ」 そんなたわいもない話をしているさなか、岩融の首筋にひやりとした何かが触れた。 「何者だ!」 ばっと振り返っても誰もいない。そして先ほどまで話していた三日月を小狐丸もその『ひやりとした何か』に触れられたらしく首をぱっとおさえ振り返る。しかしやはるり誰もそこにはいない。 それを見た石切丸が訝しむ。 「霊的な何かがここにうろついている気配はないのだけど――ひゃっ」 石切丸も首をおさえ振り向くが誰もいない。 先の4人の動向を見て警戒をしていた今剣は、あたりを警戒し、何かが近づく気配を瞬時に察知した。 「つーかまーえ……あれっ?」 今剣がとらえたのは冷えた手でもましてや幽霊でもなく、金糸に縁どられた小さな軍帽だった。 結果を先に言えば、犯人は五虎退だった。 曰く、ひとのからだは首元を冷やせばほてりが収まると聞いた。厨番をしているときに冷蔵庫にいれたこんにゃくがひんやりとしていることに気付き、それを首元に宛てれば早くほてりがおさまるのではないかと思った。出陣から帰った後は皆暑そうだから、それで少しでも楽になればと思ってそうした――のだそうだ。 「そしたらいつの間にか、僕のやったことが幽霊のせいになってて……僕のしたことだって言えなくて……でも暑いのって辛いだろうから、早く楽になってほしくて……ごめんなさい、うう、ふえええん」 涙ながらにそう語る少年を誰が咎められるだろうか。か弱く見えるその少年もこの本丸第一の極であり、2番目の極である今剣が帽子を捕まえなければ件の幽霊騒ぎの正体の欠片も見つけられないほどの隠蔽の高い実力者なのだが。 「正直に言えば誰も咎めたりしないよ」と一期がなだめて一連の騒動が収まった。 その後五虎退は審神者から「食べ物で遊ぶようなことをしてはいけないよ」と叱られた後、本丸全員分のネッククーラーを配る権利が与えられたという。 こんにゃくでひとネタという謎の無茶ぶりから生まれた話、だった気がする(ウロ) 久しぶりに三条が書けてなんかテンション上がった。 |
薬研+今剣 馬当番というのは、男士の中でも好き嫌いの分かれる仕事のひとつである。 遡行軍との戦いに直結する手合わせは乗り気でこなす者は多いが、畑当番や馬当番はそうではなく、且つ生存も偵察も上がらない馬当番ははずれ扱いする男士も多くはない。 内番を厭わないことの多い短刀である薬研もまた『はずれ扱い』をするひとりであった。 「あいつら、舐めるんだよなあ」 肩を落としながら馬小屋に向かえば、同じ馬当番である相方は既にそこに立っていた。 「悪い、遅れちまったか?」 「だいじょうぶですよ、薬研。でははじめましょうか」 そう言って先導する今剣は、畑当番よりも馬当番の方を好む男士として一部では記憶されている。薬研からすれば畑当番の方がまた気楽に思えるのだが、彼にとってはそうでもないらしい。ならばそのコツをつかんでみようと今剣の動向を見守ることにした。 古い飼い葉を掻き出す作業をしながらちらりと横目で見れば、今剣は平然と馬のブラッシングをしている。すっすっと通る櫛は気持ちよさそうで、薬研がいつも苦労する作業とは別物に見えた。 「今剣、ひとつ聞いてもいいか」 そうぽつりと問えば、かの平安の短刀はにこりと笑みの形を作って応える。 「はい、なんでしょう」 手を止めてさえ懐く馬の所作をちらりと見つつ、少しの恥ずかし気を抱えながら薬研は言う。 「馬に侮られないようにするにはどうしたらいいんだろうな」 すると今剣は目を閉じ、むうと悩んでくるくるとあたりを見回した。 「ぼくは、すでにしたしいうまがいたから、ここになじめたようなきがします」 今剣がちょいちょいと手招きすれば柵越しにかの馬が近づき、待ち構えるように広げた今剣の腕の中に顔を寄せた。顔を撫でられて心地よさそうに目を閉じている。 「ああ、青海波は義経公の馬だったか」 「ええ。ぼくのいっとうのおきにいりですよ!でも、うーん……?薬研がうまにきらわれてるようには、みえないんですけど」 「そうか?馬たちみんなにべろべろ舐められてそりゃあもうひどいめにあうんだが……」 「はははは!それはあなどられたりきらわれたりしてるんじゃなくて、すかれてるんですよ。あいじょうひょうげん、ってやつです」 「好かれてるなら結構だがちったぁ手加減してほしいぜ」 愛情表現ねえ、と思いながら青海波の動向を観察してみると、鼻先を今剣の頭のてっぺんあたりに押し付けているのが見えた。間に挟まった柵のせいなのか、顔がそこまでしか下がらないようにも見える。 「今剣、もしかして青毛とか白毛にはよく舐められたりするか?」 「ん?そういえばそうですね。とくにきにしたことはなかったですけど」 こてんと首をかしげて肯定され、薬研は内心で深くため息をつく。薬研ばかりやたらめったら舐められるのは身長のせいらしい。薬研の顔は大きな馬たちが舐めやすい位置にあるようだ。こればかりはどうしようもない。 結局その日は、大きな馬の世話は今剣に任せ、薬研は小柄な馬を中心に世話をすることで、今までよりは被害を少なめに当番をこなすことができた。 が、やはりゼロとまでは行かず、髪はくしゃくしゃになるし眼鏡はゆがんだ。 「心頭滅却すれば……いや、柄じゃねえなあ。諦めるしかねえのか」 眼鏡を拭きながらぶつぶつとそう呟く声を、当事者の馬がとぼけた顔で聞いていた。 馬当番するニキというお題でした。 いまつるちゃんを巻き込んだのは趣味。 |
薬研+大和守 本丸は基本的に閉鎖された空間で、外界と本丸をつなぐ門は2つしかない。 そのうちのひとつは出陣や遠征で使用する時間遡行用の門、そしてもう片方は万屋や現世や政府の施設をつなぐワープ用の門である。 時間遡行用の方は政府の方が厳重に管理しているのか異分子の行き来を厳密に監視しているようなのだが、ワープ用の門は管理が甘いのか、よその本丸の刀剣男士が間違えて別の本丸に入り込んで迷子になることがしばしばあった。 そして刀剣男士以外も知らず本丸に紛れ込むことも、時折あった。 「よーしよしよし、うりゃりゃりゃー!」 刀装部屋裏の木陰でそんな声が聞こえて丁度そこを通りがかった薬研が不審に思いひょこっと覗くと、腹を見せてごろごろする黒猫と満面の笑みでそれを撫でまわす大和守の姿が見えた。 「おお?どこからのお客さんだ?」 「薬研か。なんかいつの間にかここにいたんだよ。主が飼い始めたのかな」 「そうだとしたら事前に俺らに知らせるはずだぜ。ってことは、どこからかの迷子ってことだな。大将、また"門"開けっ放しにしたみてえだ」 「そうなんだ。きみ、どこからきたの?」 後半を黒猫に向かって言えども、勿論返る言葉はない。ごろごろと喉を鳴らして撫でろ撫でろとねだるばかりだ。 「よく見たら首輪してんじゃねえか。名前とか住所が書いてあるかもな」 そう言って薬研が黒猫に近づくと、猫は油断しきった体勢から瞬時に身を起こし薬研に向かって警戒する姿勢をとった。 「え?」 「んん?」 猫の行動の理由が分からず二人して首を傾げたが、猫が警戒を解く様子は見えない。薬研が1歩近づくと猫は大和守の影に隠れ、もう1歩近づくと大和守を中心にその反対側に動く、という1対1のかくれんぼが始まっていた。 「薬研、この子に何かした?」 「なにかもなにも、今が初対面だが」 「そっかあ。……ん、もしかして」 「心当たりでもあったか」 「この子、もしかしたらお医者さんが嫌いなのかも」 「医者?」 「ほら、薬研の服、それっぽいじゃない」 指摘されて見てみれば、確かに今の薬研は内番着、つまり白衣を着ていた。ついでに言えば先ほど出陣で軽傷を負って帰ってきた兄弟の応急手当をしてきたので、薬品や消毒の匂いは染みついている。 「じゃあちょっくら着替えてくるぜ」 出陣用の服に着替え、ついでに五虎退からマタタビも拝借して再度挑めば、黒猫は薬研に見事に懐いた。 そして薬研と大和守と黒猫の木陰でのじゃれあいは、血相を変えた審神者の「いたーーーーーーーーーー!」という叫び声が響くまで安穏と続けられた。 結果から言えば、やはり根本の原因は審神者の門の管理の不行き届きで、別の本丸の審神者が現世の獣医にその黒猫を診せた帰りに黒猫が逃げ出してしまい、うっかり門を抜けてこの本丸に迷い込んだという経緯だったようだ。 猫を抱えてぺこぺこと頭を下げ門から去っていく別の本丸の審神者を見送ったのは、猫の第一発見者である大和守と薬研だった。 彼らを見送る大和守の笑顔の下に陰りがあるのが気にかかって、門が閉じたあと薬研は口を開く。 「寂しいのか?」 「……まあね。あの猫、沖田君が飼ってた子に似てたんだ」 「黒猫を飼えば労咳(結核)が治るって言われてたやつか」 「そうそう。その子もお医者さん嫌いだったんだ。沖田くんに嫌なことばっかり言うのに気付いてたんだろうね。薬研のこと避けるの見て、余計に思い出しちゃって。あの子も可愛かったなあ」 愛する元主の姿を模するまでに敬愛する彼は、そう遠くもない昔を懐かしむ表情を浮かべている。その心情を深く理解することまではできないながらも、言葉を選ぶ。 「そんなに気になるなら、大将に猫飼いたいって言ってみるか?」 「うん?ううーん……それはいいかな」 「そうか」 「今の医学なら、黒猫に頼らなくても結核って治るんでしょ?それに、うちの本丸にはもう優秀な御典医さんがいるし」 そう言って微笑まれて、薬研はくるりと目を丸くし、笑う。 「そこまで信頼されちゃあ、医学の腕を上げないわけにはいかねえなあ」 「頼りにしてるよ」 「おう、任されたぜ」 その日から薬研の机の上に一輪挿しが置かれ、そこには不似合いの猫じゃらしが1本活けられている。 それの意味を知る者は二人以外にいなかった。 やっさだと猫というお題で書いたもの。 ニキの内番着は消毒くさくて動物に避けられそうとか思った。 |