お題:堀川国広 刀とは戦いの前線で使われるものである。銃や大砲では近すぎて使い物にならない間合い、一番血なまぐさく、そして一番血が騒ぐ、そんな場所にいるのだ。 だからこそ、自分が主役!という心持ちになっていいものだが、と同田貫は思っていた。 刀種が太刀から打刀に変わって、初めて赴いた京都池田屋。彼が初めて二刀開眼をした相手が堀川だった。堀川が刀装を剥ぎ、敵の正面からぶっすりと敵を突き刺し屠る。何にも邪魔されないその瞬間は、実に気持ちがいい。 だが誉をとったのは、大将首をとった同田貫ではなくより多く敵を倒した堀川だった。よくあることだ。別に気にはしない。夜戦に向いた脇差はほんとうに誉を多くとる。それでいいと思う。戦えれば戦果はさほど気にしない。 だが「兼さん、やったよ!」と、この場にいない相棒を逐一呼ぶ彼には常々疑問を感じていた。 「お前、ほんと兼さん兼さんばっか言ってるな」 「……そうだけど、あ、うるさかったならごめんなさい」 「いやそういう訳じゃねえ。でも誉のときくらい自分を主張してええんじゃねえの」 「うーん、よくわからないなあ」 「自分が主役になろう、って気はねえのか」 「ない、かな」 「……」 「そんなに驚くことかなぁ。僕は堀川国広という名前だけど、刀匠国広が作ったものかはわからないって言われてて、僕のアイデンティティは前の主の脇差ということ、そして兼さんの相棒ということなんだよね。だからきっと僕という刀は誰かがいないと不安定なんだ」 「……よくわかんねえな」 「きっと脇差にしか分からないよ。いや、悪い意味じゃなくて、そういう同族意識というものがあるんだ」 「じゃあ、二刀開眼の相手、和泉守の方がよかったろ」 「え?そんなことないよ。兼さんに限らず誰かのお手伝いをするのは楽しいからね」 不思議な考え方をするこの脇差の気持ちは脇差でないと分からないのかもしてない。集合体である自分の記憶にも脇差としての同田貫があるのかもしれないと思って記憶を探ってみようと思ったが、次々を現れる敵に意識をとられてその思いは霧散してしまった。 決まった本差しがある堀川は一番脇差らしい脇差なんじゃないかなあと思う、というのを何度もネタにしている気がする。 主にテンドロで堀川お題が何度も出るせいで。 |
お題:髭切 源氏の重宝と自称してはいるが、源頼朝の刀という印象が強いのは、先に今剣や岩融が本丸に来ていたからだろうか。先に膝丸が来ていればクッション役として、もしくは世話焼き役として間に入っていたかもしれないが、幸か不幸かこの本丸では兄の方が先に来ていた。さらに悪いことに、今剣も岩融も本丸の古株で大きな影響力をもっていたため、髭切が来たときは大なり小なり警戒されていた。 ……というのを、髭切はあまり気にしていなかった。なぜなら、千年も生きていれば大抵のことはどうでもよくなっているからである。 伝承として生きて消えた二振りは当時のことをすぐ最近のことのように思うのかも知れないが、髭切としてはあの壮大な兄弟喧嘩は過ぎてきた時代のひとつにすぎない。その受け止めかたの違いは、自分がどうにかできるものではないと思っていた。 「私の仲間が君にどうも冷たいようだね。代わりに私が詫びておくよ。すまない」 「え?ああ、気にしてないよ。えーっと……宮司さん」 「相変わらず名前を覚えないね。私は石切丸という。私も源氏の出でね、一応縁があるといえるかもしれない」 「おや、そうなのかい。じゃあきちんと覚えておこう」 「はは、弟の名すらあやふやな君が私の名を覚えたら弟君が泣いてしまうよ」 「そうかな?まあとりあえず、よろしくね」 「うん、よろしく」 握手をした手の大きさに髭切は驚く。 「君、大きいねえ。とても力が強そうだ」 「分かるかい?私はこの本丸で一番力が強いらしくてね、それを頼りにされることもあるし迷惑がられることもあるよ」 「難儀だねえ」 「だから、あの二人が君に何か敵意を向けるようなことがあったら私に相談するといい。源氏のよしみとして仲裁に入れるだろうし、ひどい場合は仲裁(物理)を行使するからね」 「ははははは、いいね。頼りにするよ」 大太刀ジョークを聞くのは初めてで、その新鮮さに笑いながら、髭切は内番をしようと鍬を持つ。平安刀らしくのんびりとしていながら面白味のある彼とは仲良くなれそうだなあと思った。 だが同じく別の鍬を持った石切丸がすぐさまその柄を折った瞬間、彼だけは怒らせないようにしようと思うのだった。 ぱっぱも源氏刀!という気持ちで夢を見てみた。 兄者の何事にも鷹揚な感じはどこまでの範疇で寛容なんだろうか。 |
お題:薬研藤四郎 時期は年末。大掃除の時期である。新しいイベント・連隊戦があるとかで早めに年末の色々を済ませておけと審神者から名がくだった。 主命大好きな長谷部は張り切って大掃除の指揮をとっている。長谷部の既知である織田勢・黒田勢は特にそのはりきりを目にしていて多少ウンザリしているところであった。 その織田勢のひとり、薬研は自室で途方にくれていた。長谷部から散々言われて自室の掃除をしぶしぶながらしようと思ったはいいが、目の前には高くそびえる本棚と、それに入りきらなかった高く平積みになった本の塔が複数。そして鴨居につるされた生薬の数々。 身長153cmの薬研がどうこうできるものではないものが文字通り山積されていた。何故ここまで積んでしまったのか、むしろどうやって積んだのか、過去の自分に問いたい気分ですらあった。そのあたりは、趣味の物品をしまうにあたって不可能を可能にするだけの高揚があったのだろう。 さて、大掃除をするにあたって、高い場所から進めるのは鉄板である。床を掃除してから天井を掃除しては、床が再び汚れるからだ。 とはいえその高所こそが鬼門であるので、ひとつ溜息をついて脚立をたててから、生薬を全て廊下に移動させ、次いで本棚の一番上の棚の中身をおろす。本棚の裏を掃除する際には誰かに手伝ってもらって移動させなければいけないが、本棚を軽くするまでは自分でやらなければならないだろう。 「よっと……うわ、埃…ゲホッ―――」 本棚には予想以上にほこりがたまっていて、本を抜いた瞬間盛大に舞い散り薬研の気管に入った。そしてむせた瞬間、足場の悪い場所から足を滑らせ落ち、その衝撃で本の山が半分以上薬研に降り注ぐ。 「あっ―――痛え!くそっ!」 あがこうにも紙の束は重く、なかなか抜け出せず、死すら覚悟する状態だった。 幸い、その音を聞きつけたのが背も高く力もある蜻蛉切で、薬研はすぐに救出された。 それどころか丁度手の空いた彼に自室の掃除まで手伝ってもらってしまった。 「お困りのことがありましたら、気兼ねせず自分に申し付けて下さい」 笑顔でそう言われてしまっては気恥ずかしさが先にたつ。後藤が言う「でっかくなりてえなあ」という言葉に心の底から同感した瞬間だった。 かっこいい子のかっこわるいところを書くのがすきです。 蜻蛉さんをゲスト出演させたのは完全に趣味。 |
お題:一期一振 刀剣男士というものは刀種によって兄弟が決められる、というのが流れである。たとえば短刀であれば弟に、打刀や太刀は兄に。 その流れで言えば、一期一振は間違いなく兄であった。それも弟を多く持つ兄であった。 しかし彼は不幸にも、所謂レアであった。つまり人の身体を受けてからの日数が浅く、若輩者ともいえた。 弟たちに内番を教えられ、人の身がどんなものかも教えられ、なのに兄として慕われる。年長者としてできることなどほとんどないというのに。 自分ができないことと自分に求められていることに板挟みにさていた。それを決して表に出すことはなかったけども。 ふう、と息をついて縁側に座る。弟たちと居るのも楽しいけども、こうやって太刀部屋で静かに過ごすのは喧噪から離れた気がして楽になれる。 ぼーっと月を見上げていると少し遠くから足音が聞こえ、そちらを見やれば同質の山伏が歩いて来るのが見えた。 「どうした、一期殿。浮かぬ顔をしているな」 「い、いえ、浮かぬなどと……」 「カッカッカ!無理に隠しだてなどぜすともよい。ここにはおぬしと拙僧しかおらぬ」 「いや……」 「『兄』という立場の楽しさや難しさ、共有できることもあろう」 にかっとした彼の笑みにほだされて、一期もまた笑む。兄として、そして太刀としての先輩である山伏に、少しは頼ってもいいかもしれない。 自分の心境を吐露すれば、山伏は静かに聞き、そしてそれがいかに些細なことかと言わんばかりに笑い飛ばしてくれた。 なるほど、兄に頼りたくなる弟の気持ちが分かった気がして、少し楽になった。 どうにも山伏さんを本丸のカウンセラーにしたくなる病。 あといつも頼られる人が誰かに頼るという構図が単純に好き。 |
お題:同田貫正国 誉をとると何かしら報酬が貰えるというのがこの本丸の取り決めであった。 あるものは着物を、あるものはなにかしらの道具を、あるものは食べたいものを審神者に買ってもらえるのだという。 その中で同田貫は「食べたいもの」を選ぶ男士のひとりであった。 夜戦に出れるようになって、金投石兵をもたせてもらえるようになって、彼はよく誉をとるようになった。その誉の報酬として、特に意味もなく団子を所望すれば、食べきれないほどのものをもらうことになった。 非番の日、縁側でぼーっと桜の咲く庭を見ながら団子を頬ばる。美味いとは思うがそろそろ飽きた。なにせ食べきれないほどの量がある。味くらい変えてもらえばよかったと思うが後の祭りだ。 放っておけば固くなってまずくなるだろうことは予想できたが、だからといってこれ以上食べる気にもなれない。そもそも甘味はそこまで好きな方ではない。 そこにふらっと御手杵が現れた。 「あー、つっかれたあ。お、同田貫、いいもん食ってんじゃねえか」 「ああ」 「貰っていいか」 「飽き飽きしてたとこだ。好きなだけ食えよ」 「まじで!あとで文句言うなよ?」 言うや否や、御手杵はがつがつとそれを食べる。山のようにつまれてた団子は、燃費のすこぶる悪いかの槍の胃袋に消えていった。 それがあまりにも愉快でくつくつと笑えば、御手杵は何がおかしいのかとこてんと首をかしげる。それがまたおかしくて笑った。 無用組が!好きです!! あと槍の大食いネタが!好き! |