テンドロまとめ

お題:前田藤四郎
お題:花束
お題:鬼
お題:堀川+洗濯
お題:ケーキ


お題:前田藤四郎


この本丸の審神者の気に入りの近侍と言えば、前田藤四郎であった。
締めるときはしめ、主をおもんばかり、出陣したときはさらに気を引き締める。
「おやすみなら、床を整えましょうか?」という気遣いに落ちた審神者は多いという。

そんな彼にだって気が緩むときはある。
馬当番を任されたとき、それぞれの体調を見て顔を緩めるのを、同じく馬当番をしていた彼は見逃さなかった。


「何か用でしょうか、叔父上どの」
刀匠の兄の作である鳴狐を彼らは叔父上と呼ぶ。同じ粟田口なのにその距離感を少し寂しく思ったが、今はそれを言及するときではない。
鳴狐は正座した膝をぽんぽんと叩く。
「え?」
「鳴狐、自分で言わないのですか!」
お供が甲高く言い募るが、面頬に覆われた口は動かない。
「前田殿!」
「は、はい!」
「鳴狐はあなたを膝枕したいのです!」
「え、ええ!?」
「いつも気を張り詰めてがんばってるあなたをねぎらいたいのですよう」
「張りつめてるなんて、そんな」
おろおろとしながら鳴狐の方を見れば、じっとこちらを見つめている。その眉が少しだけ下がっていて寂しげに見えた。
「……」
その表情と無言に、前田は折れた。
「では、お言葉に甘えまして」
つつ、と彼に寄り、そっとその膝に頭を乗せる。見上げた鳴狐の顔は戦化粧に彩られながらも柔らかにみえてほっとする。
ゆっくりと目を閉じれば温かい手のひらに目を覆われて、前田はゆっくりと午睡にまどろんだ。



短刀ちゃんマジイケメンタル…!って思ったきっかけが前田君と平野君でした。
いつもがんばってる前田君を甘やかしたい。
16.02.13





お題:花束


審神者という者は家族と隔絶されて、歴史修正者と戦うことを政府に任命されているのだという。そのことに意義を唱えるつもりは、主にはないというけども。

「おや、君にしては珍しく雅なものを飾っているね」
歌仙がそう言えば、審神者は特に興味もなさげな顔で受け応える。
「私の家族から、と担当の役人が持って来た」
花束の状態でそこに置かれたそれは、部屋の片隅に青い小さな花弁を開いている。
「気に入ったなら持っていっていいよ」
「そうかい?それではありがたく」
審神者が雅を解さないことは知ってる。ならば自分の部屋で出来る限り生かしておこう。そう思って花束を持って自分の部屋に向かい、花瓶にさす。
そうすれば少しだけその花が上を向いた気がした。
どんな名の花か知らずに部屋に飾るのも無礼かと思い、審神者から与えられた端末で調べる。
『わすれなぐさ  恋人のためにこの花を摘もうとした青年が河へ落ち、花を恋人に投げて「私を忘れないで!」と叫びながら、流れに飲み込まれてしまった…花の名前もこの伝説から生まれたそうです』
なるほど、外界から隔絶された審神者に対して家族が送るのにふさわしいものだろう。そしてそれを無意識に拒絶したということは、つまりそういうことなのだろう。

刀という意識に置いてこの花の意味を考察する。
自分の主だった彼にこの花を贈ることを考える。たったひとりの妻にひどく執着した彼はこれをどう思うだろうか。少なくとも、後世に残るほどには自分を大切にしてくれてたとはもうのだけど。



花と言えば歌仙さん!という安直な発想。人寄りの感性をもっていそうな彼は動かしやすい子のひとりです。
16.02.13





お題:鬼


現世ではばれんたいんとやらで賑わってるなか、本丸では初めての節分の季節である。
炒り豆を鬼にぶつけ、年の数だけ豆を食べれば自分の内にある鬼を退治できるという、そんな習わしを、この本丸ではおこなっていた。

鬼を退治する役目は短刀と任意の脇差で行い、鬼の役は長いこと彼らの保護者や監督役をやっていた岩融がやることになった。なにせ、なにもせずとも本丸随一の背丈をもち、お面をかぶらなくとも鋭い牙と爪をもっているのである。彼以上の適任はない。角の被り物を与えられ、それを装備すればまさに鬼であった。鬼が袈裟を着ているというのは不思議な構図ではあるけども。
ある種のごっこ遊びであり習慣であると知っていればそれを断る理由もなく、岩融は鬼役として短刀たちがいる部屋に向かった。そこには升に入った炒り豆を手にした子供たちが待機している、はずであった。

がらりと障子を開ければ、困った顔をした短刀ら。そしてその中央で殺気に満ちた眼差しを向ける太刀が一人。ご丁寧に抜刀までしている。
「さあて…鬼退治の時間だね」
そうつぶやく彼の眼はぎらりと光っていて、普段の温厚なところなど微塵も見えない。
角の被り物をしているだけなのに何故そこまで本気でたたっきる気でいるのだろうか。その理由にはすぐに想像がつく。何せ弟のことすら忘れているのだから、同じ源氏の出であるといえど岩融の顔も名前もまだ把握していないのだろう。
こんなところで怪我をしてはたまらない――彼は自分の治療に資材が莫大にかかるのを理解している――ので、さっさと撤退することにした。
「これはこれはつけいる隙もない。とっとと退散するとしよう」
言いながら今剣に目くばせすれば、全て了承したように笑顔をむけられて、背を向けることにためらいなどなくなった。



後日髭切に謝罪されたが、相変わらず顔と名前が一致しないようで、岩融は豪快に笑った。



岩さんのあのギザ歯と鋭利な爪ほんとすてき。人外感たまらん。あいしてる。
16.02.13





堀川+洗濯


堀川は人の手伝いをするのが好きな脇差である。そして家事が好きな男士でもある。
料理に関してはもっと適任がいるのでその者たちに任せているが、洗濯は主に堀川が仕切ってやっていた。
汚れたものが綺麗になって、お日様のにおいにそまるのはとても気持ちがいい。

今日はずっとじめじめしていた梅雨がようやく明け、からっと晴れている。洗濯物日和だ。堀川が張り切らないわけがない。
その彼が実に苦い顔をして居座っている場所は、彼の兄弟の部屋であった。
「なに…これ…」
部屋の主たる山姥切の許可は、出陣中のためとっていない。むしろいない今の隙にためこんでいるであろう汚れ物を回収しようと思って立ち入ったのだ。
案の定汚れ物がため込んであった。山姥切が日頃被っているボロ布には替えがあるのは知っていたが、その替えが全て出陣や内番の汚れをまとったまま部屋の片隅に積んである。一部にいたってはカビまで浸食しているさまだった。
ひごろ「汚れているくらいがちょうどいい」とはいっているが、それにしたってひどい。
堀川の掃除魂が燃えないわけがなかった。

手にした籠にぎゅうぎゅうとボロ布を詰め込んでいると、幸か不幸か部屋の主がかえってきた。
「…!?兄弟、そこで何をしているんだ」
驚いて硬直する山姥切まとっている布も、勿論堀川の標的になった。
「悪い、僕も邪道でね!」
「!!?」



本丸の庭に白い布がたくさん翻る。
堀川はやりきった、という満足感でにこやかに笑んでいる。
その傍にいた歌仙は「春すぎて 夏来にけらし 白妙の」と百人一首のひとつをそらんじている。
その爽やかさとは裏腹に、布をはぎとられた山姥切は部屋の隅でしくしくと三角座りをしていた。



一度はやっとけまんばの布ひっぺがしネタ。
16.6.20





お題:ケーキ


この本丸では何か大き目の祝い事があると、夕飯のデザートとしてケーキが供される。
それは万屋近くの通りにある有名洋菓子店のもので、審神者のポケットマネーから全男士分出される。有名店のものだけあって、勿論とても美味しいものだから、大半の男士がそういった日を楽しみにしていた。

そして今日はその『ケーキの日』である。祝い事の内容としては、この本丸の全員の練度が上限まで達したことを祝して、であった。
かなり大きな祝い事として、いつものケーキよりも一回り大きいものが夕飯の膳の傍でつやつやと光っていて、みなにこやかにそれを口にしている。
その中でひときわ大食いかつ早食いな御手杵が、膳を片付けがてら仲良くしている脇差グループの席で色々話している。
何事か交渉して、鯰尾と骨喰からケーキを半分ずつ分けてもらっていた。粟田口の中でもさほど甘いものが好きではない二人だから、食べきれない分のケーキを引き受けているのだろう。何かしらの労働力と引き換えに、という交渉だったのかもしれない。

それを夕陽色の瞳が見つめていた。
その、じーーーーっと音がしそうな眼差しに、隣に座っていた日本号が気付く。
「蜻蛉切、どうした」
「え、あ、いや、なんでもない」
「なんでもなくねえだろ、今の」
言って、蜻蛉切が熱心に見ていた方を見、蜻蛉切の空になった膳を見る。
「ああ、あれが羨ましいのか?」
「い、いや、そんな……む、まあ……」
もごもごと言いながら蜻蛉切は恥ずかし気にひとつ頷いた。
大方、こんな大の男が甘いものが大好きで、与えられたもの以上を食べたいと思っているのを恥ずかしがっているのだろう。そしてそれが出来る御手杵の無邪気さが羨ましいのだろう。そんなことを簡単に察せるくらいには一緒に過ごしている。
「俺のやるよ」
「へ?」
「ケーキ、欲しいんだろ。あんまり甘いもの食う方じゃねえし、今回のは見るからに俺の好みじゃねえからな。美味しく食ってもらえるやつの腹に入る方がずっといい」
「な、なんと…!!日本号、恩にきる」
深々と頭を下げる蜻蛉切に一瞬ぎょっとしてから、日本号はへらっと笑う。感謝されるのは嫌いじゃない。
「べつにいーってことよ。こんど晩酌に付き合ってもらうってことでチャラにしようぜ」
「その程度で良ければ是非」
そう言ってケーキを受け取って2個目をにこにこと頬張る蜻蛉切を見ているとどうにもつられ笑いをしてしまって、交換条件なんて出さなくてもよかったなと思うのだった。



蜻蛉さんみたいな硬派な人が甘いもの大好きでそれを恥ずかしがってるってすごく可愛いと思う。
16.6.20