お題:各々の推し 岩融はちいさくてすばしっこいものが好きだ。それは例えば小動物であるし、例えば短刀たちである。 猫などと戯れたいとは思っているのだが、馬にすらおびえられる体格のためか小動物にも逃げられがちで、非番の日の過ごし方の半分は短刀たちと遊ぶことだった。 この本丸の岩融は本丸初期に来ただけあって練度が高く、ほとんどの男士は所謂『幼稚園』の世話になっている。 その『幼稚園』に先日一期が加わることになった。とは言え、練度を上げ始めるのは明日からではあるが。 「岩融どの、貴殿の噂は弟たちからかねがね聞き及んでおります。明日から宜しくお願い致します」 「おう、こちらこそよろしくな」 「はい。――して、貴殿は何をしてらっしゃるのですか」 「これから短刀たちと遊ぶところよ!弟たちもよく参加しておる。見ていくか?」 「はい」 遊ぶ、とは何をするのだろうか。大柄すぎる彼が短刀たちの目線に立って何かをするのはずいぶんと難儀しそうだ、と思いながら、少し遠くからそれを見る。 そのうち今剣と秋田が岩融に駆け寄って来た。何か言い募る今剣を岩融は片手で制して、おもむろに秋田の両足をむんずとつかんだ。 いきなり何を、と固まったままそれを見る。すると岩融は秋田をそのまま吊り下げてぶんぶんと振り回し始めた! 「うわあああああああ!!!」 その驚くべき光景に驚いて一期が駆けよる。いきなりの闖入者に気付いた岩融は回転速度をさげて、ゆっくりと秋田を地面におろした。 「私の弟に何をしてらっしゃるのですか!!」 「何を、とな。見たまま遊んでいるのだが」 「あれが、あそび!!?」 暴力にしか見えなかった、とまではいいだせない。なぜなら、秋田が少し残念そうな声で、「あれだけで終わりですか?」と言ったからだ。 「おお、一期はこちらに来たばかりで短刀の身体能力を舐めておるのだな?子供と侮ってはならぬぞ。よし、今剣、見せてやれ」 「ぼくのばんですか?」 「たかいたかいをしてやろうぞ!」 そう言って今度は今剣の腰をわしづかみ、少し上下に反動を付けてから、思いっきり上空に放り出す。怪力で飛んでいく今剣の姿に、一期はひぃっと息を飲んだ。 「受け身、とれるな?」 「まかせてください!」 一番高いところまで飛んでいった今剣は上空で体を縮め、自由落下し、地面すれすれでくるりと回って見事に着地した。 「どうです?すごいでしょう」 「おお、すごいなあ今剣。――見たか、一期」 「は、はい……ですが、弟たちに危険なことはさせないでいただきたい!!」 今見た光景はしばらくトラウマになりそうだと思いながら一期はそう叫ぶ。 だが蒼褪めているのは一期だけで、残りの三人は不思議そうな目で一期をみつめるのだった。 最推しの岩さんでひとつかいてみました。 推しを宣伝するつもりで!って言われたけど全然宣伝になってない。 |
お題:鶴丸国永 いくつあるか政府しか知らないとも言われる本丸の中には、驚きを求めて落とし穴を掘ったり本丸を改造したりだとか改装ビフォアアフターに近いようなことをする鶴丸がそれなりの数でいるらしいが、ここの本丸の鶴丸はそれに比べて大人しい方であった。 具体的に言えば、人に何かを仕掛けるのではなく人を笑わせるような、ピエロ的な立ち位置を求めるタイプであった。 (余談であるが、そのことに関してその本丸の審神者は、お化け屋敷やホラーゲームが圧倒的に苦手で驚かされるのが大嫌いというタイプであったために、この鶴丸のあり方にほっとしていた) 人を笑わせるというのは真面目に考えるとなかなかに難しい。他人を巻き込まないという縛りがあるならなおさらである。そこで彼が考えたことのひとつが、仮装であった。 毎日同じ服で日々を過ごすのはおもしろみがない。とは言え奇抜な恰好ばかりなのも逆に飽きられてしまう。だから、不定期に仮装をするのだ。非番の日も、内番の日も、出陣の日も。 着物のひとつが選択係のミスで赤っぽく染まってしまって、そのまま出陣し、 「色うつりで赤くそまって、フラミンゴらしくなるだろう?」 と言って片足立ちをしてみせたときに部隊の面々に大うけしたのがきっかけだったのを本丸皆が知っている。 そこから鶯丸国永という一体誰なのだか分からない仮装をしたり、烏丸国永という未実装刀剣じみたようなことをしてみたりもした。 しかし、鳥の仮装もそろそろ品切れで仮装もそろそろ終いかな、と思ったころ、審神者のパソコンで鶴丸はおもしろそうなものを見つけた。 馬の頭の被り物をして望月にのって集合場所に行ったところ、部隊全員が笑い転げてしまって出陣どころではなくいなったので、馬の仮装は審神者の主命でお蔵入りになったという。 これを書いてる直前に何故か馬と鶴丸がフュージョンしたコラかなんかの話題が出てたので思いっきりひっぱられた感。 鶴はビレバンとかドンキとか好きそう。 |
お題:へし切長谷部 長谷部は主の願いを聞き入れたい男士である。それは、自分では納得していない自身の命名の血なまぐささを払拭したいという思いがあるからかもしれない。 とにかく、主の命をあらば手打ち焼き討ちをいとわないどころか積極的にやっていこうという気概があった。 しかし審神者として彼の主になったものにそのような命令はしないし、不必要である。そして、審神者の求める能力を彼は持ち合わせていなかった。 場所は刀装部屋。 「何故俺は、こんなに無能なんだ…」 四つん這いになりながら長谷部は、だん、と床を殴る。 その隣には山積した炭玉の山。その隣には同じように山積した緑の玉の山。その隣には銀の玉の小山。金の玉の山はない。それどころか一つとして金の玉はない。 刀装を作るのに向き不向きはあるらしいとはきいてはいるが、ここまでとは思わなかった。 炭玉を作っても審神者は怒らない。怒らないどころか、向いていない仕事をさせたことに関して申し訳なさそうな顔をする。だから、刀装づくりに関しても期待に応えようと練習をしてみたはいいが、資材を無駄に消費してしまった。本丸の経理は長谷部に一任されているから無駄遣いを責める者はいないが、自責の念で押しつぶされそうだ。 ぐすぐすと床にうずくまっていると、刀装部屋の扉を開ける音がした。『立ち入り禁止』と書いておいたはずだが、と思いながら振り向けば、そこには相変わらず派手な恰好(本人曰く雅)な影が見えた。 「君の向上心は認めるけど、ひとりで抱え込むのはいけないね。どのような学問でも師は要るものだよ。僕でよければ力になろう。なに、武具の拵えは得意だからね」 呆れたように笑う歌仙が、長谷部には輝いて見えた。 うちの長谷部は炭玉並玉職人なんです。 |
お題:兄キャラ 山伏国広という刀は、やたらと声が大きいからか修行修行とよく口にしているからか、騒がしい脳筋野郎という誤解をされがちだが、本当はそういう訳ではないというのを山姥切は知っている。審神者から山籠もりの許可をもらえなかった今日など、自室に籠って座禅を組んで瞑想している。そういうときの山伏は驚くほど静かだ。 いつもは眩しすぎるくらいに明るくて時々その光に押しつぶされそうになるが、こういうときの兄弟の近くに居るのは好きだった。コンプレックスをこじらせて欝々としているときに、瞑想中の彼の傍にいると、少し息をするのが楽になる気がするのだ。 瞑想の邪魔をするつもりはない。そっと同じ空間に居るのが好きだった。そしてそれを察しているのか、山伏から声をかけられることもない。 だから、山伏に声をかけられて山姥切は飛び上がりそうなほど驚いた。 「兄弟」 「……!」 閉じられていた緋色の瞳がまっすぐこちらを見つめている。 「兄弟」 「すまない、邪魔をしてしまったか」 「いや。修行よりも大事なことができたようなのであるから中断したのだ」 「大事なこと?」 「兄弟、拙僧に話したいことがあるのだろう」 「……」 図星を指されてぐっと詰まる。能天気に見えて、山姥切のことに関しては時々何故か察しが良い。 「何でも話すがよい。誰にも口外はせぬし、話して楽になることもあろう」 促されはするがせっつきはしない。その距離感が心地よくて、少し距離を詰めてからぽつぽつと話し始める。戦も仕事も失敗続きでへこんでいたのを、少しずつ吐き出せば、確かに少し楽になった。 山伏は相槌を打つのみで何も言わない。そしてそっと山姥切の頭を撫でる。 ここが一番息ができる場所だ、と思う。しかしそれを口にはしない。口にしなくても兄弟は知っているだろうな、と山姥切は思った。 兄キャラと言われてぱっと思い浮かんだのが、推しの一人である山伏さんでした。 山伏さんマジ太陽。 |
お題:物吉貞宗 「お手伝い」が大好きな物吉は、とても働き者な刀だった。 統率の高さを買われて練度の低いうちから敵の強い戦場に出されては二刀開眼や会心率で味方をサポートし、内番も最初は苦手だったようだが家事の得意な者に習ってにこにこしながら働いていた。 あまりに楽しそうにくるくると動き回るから、しばらくの間誰も彼の様子がおかしいことに気が付かなかった。 「物吉くん」 「青江さん!おはようございます」 「うん、おはよう。今日も誰かのお手伝いをする予定なのかな?」 「はいっ!今日は朝一で墨俣出陣したあと、畑当番のお手伝いをする予定です!」 「そうかい……じゃあ、それは全部僕が代わってあげよう」 「えっ」 それを断ろうとした物吉は、それを口に出せなかった。青江の表情はいつものにっかりとした笑みなのに、何故か言い知れぬ迫力があった。 「君、自分の体調がおかしいことに気付いていないだろう」 「体調、ですか?元気いっぱいで、おかしなことなんてないですよ」 「人の身にまだ慣れていないんだろうねえ。疲れで熱が出てるようだ。元が白いからなかなか気付かなかったけど、顔が赤い」 「ええっ!?」 「ちょっと失礼」 そう言って青江は物吉の額に触れ、そしてやっぱり、という表情をした。 「僕たちも気付いてあげればよかったんだけどね。ここ数日思い返したら、君、長谷部君より働いているよ?そこまで頑張っていたらいつか本当に倒れてしまう」 「そうなんですか!知りませんでした」 「だからね。僕が代わってあげるから今日は休んでくれないかな」 「……わかりました」 見るからにしょんぼりという反応をされて、青江は困ってしまった。長谷部や博多とはまた別の方向で働くのが楽しいのだろうけど、それを取り上げられたことがそんなに悲しいのか。 「1日ゆっくり休んで、本当に元気になったら、まためいっぱい『お手伝い』するといい。体調管理も仕事のうちと思ってくれないかな」 「……!そうですね!わっかりました!」 元から赤かった頬をさらにぱあっと赤らめて笑顔になる物吉に、青江はほっとする。でもまた無理をするような予感がして、こんどこそはちゃんと見てあげようと思うのだった。 ものくんは長谷部や博多とは別な方向にワーカーホリックなんじゃないかなと思ってます。 |