テンドロまとめ

お題:堀川国広
お題:羽
お題:花
お題:夢
お題:こたつ


お題:堀川国広


刀剣男士は、自分らの父にあたる刀匠のことを覚えているものはほとんどいない。使う者がいて、名刀だと伝承されて、そこで初めて付喪神と為るのである。自分のなりたちを示すものは刻まれた銘と伝承が頼りだ。
だから、本当に自分の刀派が合っていると確信をもって言えない男士は何人かいる。
堀川もそのひとりだった。

本日の近侍である堀川は、審神者が席を外しているうちに審神者の持ち物である刀帳をぱらぱらとめくっていた。そこにはそれぞれの自己紹介や刀派や立ち姿が記録されていて、そこで改めて発見することも多い。
その刀帳の99番の頁を見つけ、眺める。誰よりも知った自分自身の頁だ。
自分のアイデンディディは土方の脇差で兼定の相棒であったことだ。それだけは確かで、しかし刀派は確証とはいえない。だけど自分はこの本丸で『堀川』と呼ばれることが多い。真贋定かではないのにそれでいいのか?と思うことがある。局長の刀のように『刀派:堀川…?』にしなくてもいいのか、と。
「……やっぱり、この『刀派:堀川』って消してもらったほうがいいんじゃないかなあ」
自分の頁を見つめてそうつぶやくと、後ろでがしゃんと音が聞こえた。
振りむけば、後ろで山姥切が蒼褪めて立っていた。その足元には湯のみがころがっていて、茶がこぼれている。
「兄弟……いや、堀川、は、俺の兄弟でいるのが、嫌になったのか……?こんな写しと同じ刀派でいるのが……」
零れた茶からは湯気がでているのに、足元の熱さなどはまったく気にならない様子で、堀川の発言のほうにショックをうけているようで、呆然と立ち尽くしている。
「え、えええ!そんなわけないじゃない!そういうことじゃなくで、えっと、説明はあと!火傷してない!?大丈夫!?」
言われてようやく湯呑を落としたことに気付いた山姥切は、のろのろと片づけ始める。
堀川は手元にあった布でそれを拭きながら、こんな反応されたら、『刀派:堀川』と削除してもらうなんてできないなと思う。それがなんとなく嬉しくなった。



堀川といえば兼キチっていう印象が強いですが、堀川派の一員なんだよ!と主張したかった。
15.11.24





お題:羽


宗三は自分のことを例えるときに、しばしば『籠の鳥』という表現を使う。それは自分の来歴をかんがみた結果の表現であるし、この本丸ではあまり戦に出してもらえないから、というのもある。


「どうせ僕なんて籠の鳥なんですよ」
いつも通りそうつぶやく。自分を納得させるために。つまりは独り言だ。
「あなたはかごのとりなんですか」
いつのまにか近くまで来ていた少年がにっこりとそう言う。三条大橋攻略隊長である今剣だ。
「おや、おかえりなさい」
「はい、ただいまかえりました。――宗三は、じぶんをかごのとりだと、おもっているのですか」
「……だって、そうでしょう。刀なのに戦に出してもらえない。あなたと違って」
「しっていますか、宗三。かわれているとりは、にげださないようにかざきりばねを、きられてしまうのだそうですよ」
かざきりばね、風切羽のことだろうか。それがないと鳥は飛べないと聞いたことがある。
「話には、知っていますね」
「あなたは、いくさにはでなくても、えんせいやうちばんをしているでしょう。うごけないわけではない。それはかごのとりですか?」
「さあ、どうでしょうね」
「ひとのみでかざきりばねをおとす、というのは、そうですね、あしをきりおとされることとおなじでしょうね」
それを想像して宗三はぞっとする。
「うごかせるからだがあって、じゆうとはいわなくてもそとにはでられて、かえるばしょがある。そのことをかんしゃしなければなりませんよ」
「そんな……」
血の色のような瞳が弧を描く。こどもの笑顔なのにこんなに怖いものは初めて見た、と宗三は思う。

「というのはじょうだんですけど」
「は…?」
「つぎのおおさかじょうでうちかたなの『れべりんぐ』をするとあるじさまがいってました。宗三もそのいちいんですよ!よかったですね、ねんがんのしゅつじんですよ」
「……!だったら、脅すようなことを言う必要がありましたか!」
「はははははは!」
けらけらと笑って跳んでいく小天狗の後ろに烏の羽が舞い落ちたようが幻覚が散る。
そして自分の足を見下ろす。いつも通りにそこにある細い脚が、とてもありがたいもののように何故か見えた。



うちの本丸では低レベル帯のひとりである宗三ごめんね、という気持ちもこめて。
15.11.24





お題:花


刀剣男士は、気分が高揚すると桜を吹雪かせることがある。それの最たるものが、戦闘で誉をとったときに現れるものだ。
しかしそれ以外にも、顕現したときに現れる桜や、単純に嬉しいことがあったために思わず吹き出す桜というものもあるらしい。

例えば、八つ時や夕餉などで好物が出たときなど、感情の上下をよく表す短刀が特に桜を散らしている。かといって大人の姿をした者も桜を出さないわけではなく、夕餉にきしめんが出たときの太郎太刀は顔は無表情のままにはらはらと桜を舞わせていて厨子番を驚かせた。
他には、兄弟や縁者が本丸に来たときもその桜が出るときがある。岩融が来たときの今剣などは、誉を取ったとき以上じゃないかというくらいに桜を吹雪かせていたし、光忠が来たときの大倶利伽羅ですら「慣れあうつもりはない」と口では言いながら背後に数枚ちらりと桃色が散っていたのを審神者は発見した。
気分の上下ででるそれは実にほほえましいもので実に良いものだなあ、と思っていたのだ。そのときまでは。

目の前には半壊した鍛刀場と、慌てる鍛冶妖精。それらを覆い尽くさんばかりの桃色の山。
後ろには半泣きの粟田口短刀と、申し訳なさそうな顔をしている鯰尾と骨喰、困惑している鳴狐と、狼狽えている一期。
原因は、三日月や小狐丸どころか、後藤よりも来るのが遅かったこの本丸に、鍛刀で一期が来たことだ。
噂を聞きつけた粟田口が鍛刀場に押し寄せ、皆歓喜し、桜を舞わせた。それはみるみる桃色の山となり川となり溢れ、みしみしっと音をたてて鍛刀場が壊れた。そういうことだった。

こんなことを起こした本丸がかつてあっただろうか。
そんなことを考えながら、審神者は修繕費を考えて頭を痛めるのだった。


15.11.26





お題:夢


何も見えない闇の中。
警報のような音が聞こえる。ぱちぱちと何かがはじけるような燃えるような音が聞こえる。
四方八方から耐え難い熱が迫る。
逃げ出したいのに、微塵も動けない。動けたとしてどこにいくのだろうか。わからない。
あつい。あつい。あつい。
あついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあつい


かはっ、と喉の奥が詰まったような息を吐いて御手杵は目が覚める。
ここはどこだ。まだ夢の中に居るような心地であたりを見回す。
外は夜なのか暗いけれど室内に明かりがある分、夢の中の闇よりは見えやすい。ここは手入れ部屋だ。手入れをされている間休憩がてら眠っていたのを思い出した。
「ああ、またあの変な夢か」
部屋の気温はそこまで高くないのに、びっしょりと汗をかいている。シャツがべったりとしていて気持ち悪い。
何度も見る夢だが、何の夢なのか御手杵には分からなかった。自覚はないが自分も何かしら記憶が欠如していて、その記憶の断片なんだろうか。
はあ、とため息をつく。気分がいいものではない。
心配そうな顔の手入れ妖精が心配そうな顔で、しぼった手ぬぐいを差し出してきたので、礼を言ってなでてやってから顔を拭けば、ひんやりとしていて気持ちがいい。
汗を流しがてら、水浴びでもすればこの体にまとわりついたような熱はぬぐえるだろうかとちらりと思った。こんな冬空の下そんなことをすれば風邪をひくと怒られるだろうけど。



夢といえばぎねくんの消された台詞しか思い浮かばなかった。
絵でテンドロ参加してたひとはファンシーなの上げてたのに、文章参加してたひとはみんな薄暗いの上げてたのが印象的でした。
15.11.26





お題:こたつ


冬になった。
日本家屋というのは基本的に夏に向くように作られているらしく、全体的に開放的で、冬は冷え込みが厳しい。
昔の人ならばそれを我慢して火鉢にあたるなどでしのぐのだろうけども、現代から来た審神者にはどうにも耐え難い。
そんな理由で近侍と仕事をする執務室にだけこっそりこたつを用意した。さすがに本丸全員分が入れるこたつなど用意できないからだ。

今日の近侍は、先日この本丸に来たばかりの三日月だった。
とりわけ仕事が忙しいわけでもないので、簡単な書類整理だけ任せてこたつにあたる。
「主よ、そのふとんのかかった机はなんだ」
「こたつっていう暖房器具だよ。足元を温めて身体全体を効率的にあたためるって原理。三日月も来な」
「ふむ、それではお言葉に甘えて――おお、これはよいものだな」
「でしょー」
「俺は体が冷えるたちでな。内番の中に冷え取りの『いんなー』とやらを着ていたら、笑われた」
「あれは……まあ、ださいからなあ」
「そうか?」
「まあ、好きなもの着ればいいと思うけど。はい、この書類整頓してくれる」
「あいわかった」

足元があったまってほっこりした気分でいたことと、三日月のマイペースなオーラに流され、のんびりと書類整理をしていたことが仇になったと後に審神者は思う。
口止めをするのを忘れていたのだ。

トイレにいくのに離席し、帰って来たときには執務室は満員の様相を呈していた。
三日月はさきほどと変わらない位置でうたたねをしているし、その隣の席では石切丸がどこからか持って来たみかんをそろそろとした手つきで剥いている。それをうけとった小狐丸がその筋を取り、岩融がそれを房ごとに分け、膝にのった今剣の口に運んでいる。
一名を除き180を超えた大の男がこたつを占拠していて、逆にその脚がよくそのこたつに入っているなあと感心するくらいだった。
ぱちりと三日月が目を覚まし、にこりと笑う。
「おお、主。そんなところにつったってどうした」
「口止めしなかったのは確かに自分のミスだけどさー……どうしたもこうしたも、入れる場所ないじゃん。誰か出てってくれる」
だめもとで問いかければ、皆しらっとした顔で目をそらす。
日本家屋らしくあけはなたれた構造のこの本丸で、秘密なんて無理な話なのだった。もっと早くに気がつけばよかったと審神者は天を仰いだ。


こたつにぎゅうぎゅうに入る三条可愛いと思う。
15.11.27