お題:化粧・推し短刀 それはいつものように墨俣へ出陣する少し前のことだった。 毎度毎度加持祈祷をし始めて集合に遅刻する石切丸を、審神者がちょうど近くにいた今剣に呼びにいかせたのだ。 「石切丸ー、入りますよ」 「はいはい、どうぞ」 居室の主に許可を貰って今剣が障子を開けると、石切丸は鏡台に向かっているところだった。 「なにをしているんですか?」 「戦化粧、かな?」 「そういえばいつもめもとにべにをひいていますね?なにかいみがあるんですか?」 「魔除けだよ」 「まよけ?ごしんとうなんてじぶんのちからでしりぞけられそうなものですけど、わざわざするんですね」 「まあね。信じる者は救われる、じゃないけどゲン担ぎみたいなものかもしれないね。それにこれをすることによって気持ちも切り替わるんだ」 「へえ?」 「寝起きに冷たい水で顔を洗うと目が覚めて気分が切り替わるだろう?あれみたいなものだよ」 「そういわれるとなっとくできるきがします」 説明をうけてもなお今剣の視線は紅に向いている。 「興味があるのかな。今剣もやってみるかい?」 「いいんですか?」 「もちろん」 「ではおねがいします!」 そう言って今剣は目を瞑って顔をつきだすように向ける。自分でやるのではないかと少し苦笑して、石切丸は手に紅を救って今剣の瞼にそっと乗せた。 「この紅が君を魔から守ってくれますように」 柔らかく祈りも込めてみれば、くすぐったかったのか今剣がくすくすと笑う。 「ごしんとうがみずからほどこすまよけなら、とってもこうかがありそうです」 「そうかな?夕方から池田屋に出陣だろう?これで君を少しでも守れるといいね」 「そうですね。ありがとうございます」 「ではそろそろ私は集合場所に行かなければ」 「いってらっしゃい!石切丸もきをつけてくださいね」 「わかったよ。では、行ってくる」 そう言って二人は手を振って別れた。 その夜、今剣が少しの怪我もなく京都から返ってきたのを人伝にきいた石切丸はそっと笑った。 男士で化粧いったらやっぱ戦化粧が勇ましくてすてき。 何気に2番目推しのぱっぱをここで出演させれてよかった。 |
お題:推しの意外な一面 岩融はは短刀たちの遊び相手や内番の手伝いをすることが多い。ちいさくすばしこいものを見るのはとても小気味よく楽しいからだ。 非番の彼らを相手していて昼もだいぶ過ぎた頃、小腹がすいたところで厨子に行くと、いつもは燭台切が作っておいてあるおやつが全く見当たらなかった。そういえば今日は久しぶりに出陣するといっていたなあと朝のことを思い出す。午前に出陣してからまだ帰ってきてないとなれば中々の難敵なのだろうなあ、と予測し、自分も行きたかったなどとは思うがそれを考えて目下の問題が解決するわけではない。皆おやつを楽しみにしているのだ。 岩融は料理が苦手だ。理由としては、大半が鋭く長い爪に由来するところである。しかしこれを切ってしまうと今度は戦いに支障が生じるので切れない。 だが彼にも出来る料理がないわけではない。食材を直接触る作業がなければいいのだ。 そういう訳で、一番手前にいた前田を手伝いに読んで久しぶりに厨子に立った。 用意するのは厨子に常備して卵とホットケーキミックス、そしてマヨネーズ。作るのは材料が示すとおりにホットケーキだ。マヨネーズは隠し味として入れるとふっくら焼きあがると燭台切が言っていた。 彼が言っていたことを思い返しながら分量を量り、混ぜ、焼く。卵を割る時や飾りつけの果物を取り分けるときは握りつぶす可能性があるため前田に頼んで、それ以外の大方の作業を聞いた通りにこなせば、きれいにきつね色に焼きあがったホットケーキが人数分できた。 盛りつけもお手伝いにまかせて出来上がった短刀たちに振る舞えば、皆一様にきらきらした笑顔で礼を言った。こうしたさまを見るのは楽しいし嬉しい。徹だってくれた前田も満足気な顔をしているから、この気持ちを共有しているのだろう。 しかし岩融にはこれしか作ることができない。毎日こうやって作るのはお互い飽きてしまうだろう。 自分の爪をまじまじ見ながら、厨子を預かる燭台切や歌仙の苦労を思うのだった。 お題うろ覚えです。メモってなかった。 岩さんのあの爪日常生活に支障出ないのか気になります。 |
お題:沖田組 50人近いを人数を収容する本丸という施設には、人数分の風呂や厠があるわけではない。各々の居室はあるものの、かなりの部分で共有になっているものがある。そのひとつが大浴場だった。 「今日久しぶりに加州の真剣必殺見たけどさ」 かぽーんと音のする浴場で、タオルを頭に乗せた大和守が言う。 「あー、やったねえ」 同じようにタオルを乗せた加州が間延びした声で答える。 「『俺の裸を見る奴は…死ぬぜ…!』って言うじゃん」 「言うなあ」 「ってことはお前の裸現在進行形で見てる僕も死ぬの?って思った」 「えっ、今更?」 「うん、今更」 「えー……あれはその場のノリみたいなもんだし」 「知ってる」 「知ってるのかよ」 「なんとなく言いたくなった」 「そうかよ」 何の実りもない会話が始まって終わる。風呂というのは血気盛んな者も心まで緩める魔力がはたらいているのだ、となんとなく思う。 「化粧とかさ、しなくても可愛がってもらえるだろ」 「何、突然」 「気合入ってんなあ、って見てて思う」 「気合入れてるからねえ」 「でも化粧しなくても可愛がってもらえるだろ?」 「いいじゃん、俺がやって納得してるんだからさ」 「いいけど」 「お前も興味あんの?」 「ちょっとね」 「爪くらいならデコろうか?」 「いいね。――あっ、今日は無理、厨当番ある」 「明日」 「それなら大丈夫」 「じゃあ用意しとく」 「わかった」 少しだけ実りのある会話がなされる。 いつもきゃんきゃん喧嘩してるように見える二人だが、風呂に入っている間だけは休戦協定が結ばれたかのようなのんびりしているのは、意外と他の誰も知らない事実である。 沖田組初書き。 どーでもいい話をずーっとだらだらしてる二人という印象があります。 |
お題:ハンバーガー ジャンクなものがたべたい、と審神者が言った。 その日の近侍である長谷部が聞いたのが間違いといえば間違いだった。 すぐさま手元の端末で「ジャンクなもの」と検索して(主の仕事の手助けになればと言って長谷部はすっかり現代機器を使いこなしている)、それを探し当てた。 ジャンク:「屑」「がらくた」の意味 ジャンクフード:単に食感や満腹感を目的とする食品の総称 審神者が言っているのは下の意味だろう、とあたりを付けるのは容易だった。 確かに厨子当番の作る料理は本丸印の栄養満点野菜をふんだんに使った和食が中心だ。満腹感だけを目的とするようなものは決して供されない。だがそれを主が望んでいるのなら、と長谷部は厨子に駆けた。 「ジャンクフード……代表的なものはハンバーガーなのかな?」 同じように端末を操作して燭台切は言う。同じ厨子番の歌仙などは頑なにレシピ本を信仰しているが、燭台切は近代機器を積極的に操作する者のひとりだ。 「はんばーがー?」 「パンに具材を挟んで食べるやつみたい」 「前作ってたさんどいっちとやらとは違うのか」 「そこまでは僕には分からないな。でも主が食べたいっていうなら、協力するよ。食べたいものを食べたいときに食べるのが一番おいしいからね!」 燭台切はにこっと目をつむってみせた。それはウィンクのつもりだろうとなんとなく長谷部は察した。 数時間して。 長谷部に呼ばれて食堂に向かった審神者は、長机にずらっと並んだ大皿を見た。それぞれに野菜をきったもの、肉を焼いたもの、魚を揚げたものが山になって盛られている。その隣にマヨネーズやソースなどもおかれている。そしてそれらを、列になって順番に受け取ったバンズに思い思いに挟んで食べていた。 相性の悪いものを選んでしまった者は渋い顔をしているが、だいたいのものが笑顔でそれを食べている。 「主が『ジャンクなものが食べたい』とおっしゃっていたので、今日の昼食ははんばーがーです!」 隣でにこやかに長谷部が言う。 ジャンクってこういうものだっけと思いながら審神者はありがとうと言えば、とても満足そうな笑顔を返された。 なんとなく手巻きずしパーティのようだな、と思いながらもいい匂いには抗えなくて審神者と長谷部はいそいそと列に並んだのだった。 みっちゃんなら洋食も難なく作ってくれると信じてる。 |
お題:ホラー 「―――ということがあってね。だから誰もいないと思って油断してはいけないよ。今も君の後ろにそっと近づいてるかもしれないからね」 そう締めくくって青江はふっとろうそくを拭き消す。 消す直前ばっと後ろを振り向いたのが何人かいたのをきちんと見て、にっかりとした笑みでほくそ笑んだ。 暑い盛りには怪談を聞けば涼しくなると言い出したのはいつの時代だからだろうか。少なくとも審神者がそう吹き込まなければこう毎夜毎夜青江が呼び出されることもなかったはずだ。 しかしこうやって必要とされるのも悪くないと思っている。幸い語る怪談には事欠かないくらいの怪異には遭遇しているし、見聞きもしている。 真っ暗になった粟田口部屋で一期が寝るように声をかければ、皆そろそろと布団の中に潜り込むのが夜目にも見える。誰かが悪夢を見そうだと言ったのが聞こえたが、怪談を聞きたくて呼んだのはそっちの方だろうと答えればむっつりとした沈黙が返ってきた。 怪談をした日はその部屋で眠るということが青江にはよくある。退魔の刀としての信用があるからだ。 今日も今日とて粟田口部屋に泊まることになり、そして案の定夜中にそっと起こされた。声の主は五虎退だった。 「厠についてきてもらえませんか、あの、ちょっと、こわくて…」 「ああ、いいよ」 またか、と思いながら布団を抜けだす。 厠へ向かう途中、今剣と石切丸とすれ違った。 「こんばんわ、君たちも厠かい」 「そうだよ。どこかの誰かがとびきり怖い話を寝物語に聴かせたものでね。こうやって邪気を払うために呼び出されたんだよ」 なんでばらすんですか、という今剣の言葉を無視し、あくびをかみ殺した石切丸は言う。 遠回しに非難するような台詞を温厚な御神刀から聞いて、青江はくすくすと笑った。 「それは災難だったねえ」 「そう思うならほどほどにしてくれないかい」 「僕は求められたままを返しているだけだよ」 「……」 じとっと睨まれるのをかわして五虎退の手を引いて青江は厠に向かった。 「す、すいません、僕たちのせいで石切丸さんに責められてしまって」 「いや、いいんだよ。僕がすきでやっているのさ」 何も宥めるだけで言っているののではない。にっかり青江という刀は、誰かに必要とされて使われるのが好きなだけなのだ。怪談の語り手としても、退魔の刀としても、厠への付き添いとしても。 それを全部説明できるとは思ってはいないから、とりあえず思いを笑みに託せば、何のことか分からない五虎退は首をかしげるだけだった。 ホラーといえば青江!と思ってメインに据えたはずなのにホラーどっかいった。 |