お題:三日月宗近 どたどたと足音が聞こえ、審神者の部屋の障子が壊れそうな勢いですぱんと開いた。 「主、これは一体なんだい!?」 日課の加持祈祷に行くと言っていた石切丸だ。お椀の形にした手のひらにはにはちんまりとした何かが乗っかっている。 「はっはっは、石切丸にしてはなかなかに早かったな」 朗らかに笑うそれは、小さい三日月だった。 それを見て審神者は、あー、と気の抜けるような声を漏らす。祈祷所の主ともいえる彼に説明するのをすっかり忘れていた。 「それはね、ねんどろ三日月だよ」 「ねんどろ……?粘土の泥なのかい?」 「違う違う、ねんどろいどっていう人形みたいなものでね。動いて喋るねんどろいど三日月をこの間買ったんだよ」 「人形……ということか、これは刀剣男士ではないということかな?」 「そうだね、残念だけど」 はあ、と石切丸が溜息をつく。本物の三日月のいないこの本丸で、厚樫山捜索隊の主力の一人が彼であった。 「では、何故このねんどろとやらが祈祷所にいたのかな?」 「このこが『飾ってよし、拝んでよし』っていうものだから」 「そうなのかい」 石切丸が掌の中のものに向かって問えば、ちいさなそれは口を開く。 「いいぞいいぞ、飾ってよし、拝んでよし。ただ、ご利益は、ない」 「ご利益はないのか」 「でもねえ、鰯の頭も信心からっていうし」 「君の口からそれを聞くととても複雑な気分だよ」 神職のようなことをしている石切丸がやや不服そうに口を曲げる。 「まあ、拝んでよしって言ってるから祈祷所においてやって」 「わかった」 来たときとは対極的に静かにゆっくりと石切丸は去っていく。 その3日後、本物の三日月を厚樫山で見つけ、 「ご利益がないなんて、嘘をつくものじゃないよ!!」 と半ば脅しのようにねんどろ三日月に言い募る審神者と石切丸の姿があったという。 じじいネタ何回か書いたしなあ、と思いながらwikiで台詞一覧見てたらねんどろ景趣の台詞がかわいかったので。 |
お題:粟田口(の誰か) 本丸の馬は名だたる武将の愛馬にちなんだ名がつけられていることが多い。そしてその能力も面白いものが多かった。 乗せた男士の打撃を上げるもの、統率を上げるもの、偵察を上げるもの。様々な役割がある。 それらと触れる馬当番は、厚の気に入りのひとつだった。まあ、嫌いな内番などないのだけど。 「どうどう、大人しくしてろよー」 そう言って撫でているのは、この本丸に一番新しく来た青毛だ。最近来た武将の愛馬の名前がついてない3頭のうちのひとつである。なんとこの馬は、乗っても機動が上がらないのだそうだ。馬とは一体、と思わせる性能である。 それを反映してなのか、この青毛という小柄な馬は実に行動がゆっくりしていて、餌を食べる速度も実にのんびりとしている。他の馬の部屋を掃除して、戻ってきてもまだ食べている。そのさまがまた可愛らしい。野生でこんななりだと生き残れないだろうなあと思いながら、それでも生きているこの馬の生きざまがこの本丸の平和さを象徴しているようで和むのだった。 ゆっくりゆっくり食べ、動き、眠る。戦をする身であるし戦うのは好きだけども、平和なありさまをみるのもまた楽しいということは、この本丸に来て知ったことだ。 小さな馬の頭を撫で、笑む。 「いっぱい食べて強くなれよ」 共に戦う友にそう言えば、食べている口を止めて、厚の顔が舐められた。 「ははっ、やめろって、くすぐったい」 やめろとは言いながら親愛の表現であろうそれは嬉しくてしばらくじゃれていた。 楽しくて聞き逃していたのだろうか。声に気付いたのはかなり後だった。 「厚……厚!!助けてくれ!」 ようやく気付いて振り向けば、手綱を結び直そうとしているのに馬自身に阻まれている薬研の姿が見えた。 薬研が挑んでいるのは望月、この本丸で一番大きい馬だ。その馬にべろべろと舐められて薬研の顔はべたべただし眼鏡は歪んでいる。 好かれすぎるのも考え物だなあと思いながら、あまりにもその光景が愉快で厚は助けもせずにけらけらと笑っていた。 たまたまその時の明石捜索隊隊長があっくんだったのであっくんメインで。 台詞見たらどの内番嫌がらないみたいで、いいこだなあって思いました。 |
お題:防寒具 現世に冬が訪れ、本丸の景趣も秋から冬に切り替わった。 常にしんしんと雪が降り、日本家屋らしく夏向きである本丸は開放的なつくりで、あちこちから寒風が吹く。 扉をしめ切って暖房をつければしのげないわけではないが、それでも寒いものは寒い。それが冬というものだ。 そんな季節の変化にひときわ反応を示したのは脇差たちであった。 彼らが寒さに弱い訳ではない。彼らのうちのひとり、浦島が寒さに弱いのだ。特に服装のせいで。比較的露出の低い脇差の中で、浦島だけ和服ベースでかつ露出の多めな服装をしている。それでも厚着をするつもりはないらしく、大きく胸元をはだけた格好で本丸をうろついてはくしゃみをしているのを、他の脇差は知っていた。 脇差という者たちは、その特性もあって偵察にすぐれ気遣いに長け思いやりの厚いところがある。故に、他の5人が浦島を助けようと思うのは自然なことであった。 冬になって浦島がさむがっているね。風邪をひきそうです。刀剣って風邪をひくのかな?どうだかは分からないけど、予防するに越したことはないだろう。今は人の身だからね。厚着させなきゃ。でもあの格好ってポリシーがあってしてるんでしょう?どうする。僕らが何か防寒具をプレゼントすればいいんじゃないですか?それだ!優しい子だから、あげたものは使ってくれるだろうしね。より想いがこもるように手作りとかどうです?作れるかな?主に頼んで指南書を買ってもらおう。簡単にできるものがいいよね。 そんな脇差会議(一名除く)がなされた何日かあと、脇差たちお手製のマフラーが出来上がり浦島にプレゼントされた。 それを浦島はいたく気に入り、毎日つけるようになった。 首を温めるより先にほとんどむき出しの腹をどうにかした方がいいんじゃないか、とは他の皆が思ったが決して口に出さなかったという。 そねさんとか浦島くんを近侍にして冬の景趣に置くとすごく寒そうで楽しい。 |
お題:推しの最高にかっこいいorかわいいと思う表情 「はっはっはっは!俺が恐ろしいか!」 戦場に高笑いが響く。誰よりも先手をとった彼の会心の一撃で、敵は皆なぎ倒され起き上がる者はいなかった。 「がはははは!俺が功績を狩ってしまったようだな!」 誉が誰なのかの通告が出るころに、他の隊員がようやく戦闘場所に追いつく。練度の低い彼らは練度が高い岩融に機動がかなうことはなく、着いた頃には戦闘が終わっているというありさまだった。そのことによって彼らに疲労がたまっていくのだが、それが『幼稚園』の宿命である。 すこしばかり彼らに同情しながら、『幼稚園』の副園長たる今剣は岩融に視線をむける。 今剣の役目は岩融が打ち漏らした敵の後始末だ。戦に出たからには誉をとりたいとは思うが、この副園長の立場も案外嫌いではなかった。それは昔なじみである彼の生き生きとした姿が見られるからだ。 戦の方が得意だろうに遠征にも嫌な顔ひとつせず向かう姿、内番や買い出しで力仕事を率先していく姿、休みの日に短刀や一部脇差と愉快に遊んでいる姿。それら全てを今剣は傍で見てきたが、やはり一緒に出陣するのが一番好きだと思う。 馬に乗って真っ先に駆け、夕陽のような瞳をぎらぎらと輝かせ、大薙刀を一気に振るう。誰も立つ者がいなくなった戦場を見回し、尖った歯を肉食獣のようにぎらりと見せて高笑いする姿は鬼のようであった。この鬼が我々の味方であることが救いだ。 そんなさまを見ると今剣は、この大薙刀はぼくのむかしなじみでなかまできょうだいなんですよ、と大声で誇らしく主張したくなるのだ。他人の武功を自分が誇っているようだから実際に言いはしないけれども。 再び駆けて岩融の次にその戦場にたどり着けば、岩融の攻撃を受けてなお生存がわずかに残った敵の大太刀が立ち上がろうとしているのが見えた。 そこをすかさず、首に刃を突き立て息の根を止める。 誉は勿論岩融だったが、その大きな手が今剣の頭を撫でた。 「俺の失敗の後始末をしてくれてありがとう、今剣」 失態を反省しながらねぎらう、その笑みも好きだから今剣は副園長の役職を退く気はないのだ。 やはり岩さんは戦闘中の高笑いしてるときが楽しそうで一番好きです。 |
お題:幕末男士 「なにかと俺をガキ扱いするの、やめてくんねえかなあ」 和泉守はそうごちることがある。 この本丸に実装されてる刀の中では最年少で、それを知っている他の男士たちは最年少なりに扱うからである。 とはいえ、見た目年齢で言えばもっと幼い者たちはいるし、和泉守より余程年長である粟田口短刀たちは打刀以上の者たちに年少者として扱われ、子供なりの恩恵を受けている。そしてそのことに否やを唱えるものはない。 そして、その「子供なりの恩恵」を和泉守も受けているのが彼にとっての不満だった。 その場にいる人数で割り切れなかったプリンなどは、優先的にこちらにまわされるような気さえする。 「最年少だから」「元太刀なりに燃費は悪いだろうし」 そんな理由だ。 別に悪い気はしない。悪い気はしないが、なんとなくいい気もしない。 「どうしたらいいとおもう?」 そんな話を相棒である堀川に言えば、 「僕も本丸の中では若い方だからねえ」 そんな毒にも薬にもならない返答がかえってきた。そもそも新撰組の刀は、大名の宝物であるような刀とは色々と一線を画する。ということは新刀の祖の作とされる堀川も『こちら側』なのかもしれない。新撰組刀の中では一番年嵩だとは言われているけども。 「俺はかっこよくてつよーい刀なんであって、かわいい奴とは思われたくねえんだよ」 「だよねえ」 「どうにかして『可愛い』枠から逃れらんねえかなあ」 「年齢っていうのはどうしようもないからねえ」 「でも長曽祢さんは浦島から兄ちゃんて慕われてるだろ。浦島の実年齢は長曽祢さんより年嵩のはずだぜ」 「確かにそうだね」 そんなことをぐだぐだと話している土方の刀たちは今、誰もが出入りするような洗面所で、和泉守はぼーっと座っていて堀川は和泉守の髪の手入れをしている。 幼い容姿の者に自分の世話をさせている和泉守が、そのことによって幼くみさせていることに、二人とも気付いていなかった。 幕末っていうか土方組になった。 何気に彼らを一緒に書いたことはなかった気がする。 |