マギ マス(+)モル





森の生き物たち喧騒と昼食の咀嚼音以外のない不思議な沈黙を、静かな少女の声が破る。
「師匠は、なんで剣をやめたんですか」
無口な二人の間に私的な会話は殆ど無いから、師匠と呼ばれた方であるマスルールは表情には出さず少しだけ驚く。そういえば以前にも誰かにこんなことを訊かれた気がする、とも思いながら。
マスルールはしばしの間考えた後、傍目には冗談の一言も言わなさそうに見える無表情のまま答えた。
「剣奴の剣技は他人を屠り自身だけを生き残らせる剣だから、それが染みついている俺に『人を守る』剣は振るえない」
「……」
「というのは嘘で」
「嘘ですか」
モルジアナの眉間が僅かに寄る。ファナリスというのはそういうものなのかはマスルールも知らないが、この少女もあまり表情が動かない。それでも少々気分を少々損ねたことだけを見受けて、マスルールは続けた。
「身体能力の高いファナリスは身軽である方が強い」
「へぇ」
「という訳でもなくて」
「違うんですか」
モルジアナの頬が少し膨れた。
「目の前にあまりに上手い人が居て、越えようとする気を失くした」
「はぁ」
「というのでもなくて」
「……」
モルジアナの頬が更に膨れ、もう鞠のようになっていた。からかうのもそろそろ限界か、と判断する。
「結局のところ、剣の鍛錬が面倒だった」
「……それも嘘なんですか」
「半分くらい本当だ」
「なんですかそれは」
『師匠』である立場の人間が、鍛錬が面倒、などと言い出すとは思ってなかったのか、モルジアナの表情が不機嫌から困惑へ変わる。
普段無表情な少女が表情を変えるこういった瞬間が、マスルールは好きだった。本当はもっとプラスの方向への動態を見てみたいのだが、人心に疎い彼に出来る芸当でもなく、また自身よりも他の誰かがするべきことのような気もしていた。
「まあ、どうでもいいだろう。そんなことは」
嘘だと言った諸々のことは、どれも少しずつ嘘で少しずつ本当だ。でも全部を語るつもりはない。語るには些か長く、面白くもない話だ。
彼らにしては随分と冗長になった会話を切り上げるべく、マスルールは立ち上がった。
「俺は今のままが一番自分に合ってると思うし、お前も今のままがいいだろう」
「まあ、そうですけど」
それでも釈然としない様子で座ったままでいるモルジアナをじっと見下ろす。
「師匠のことを知ろうと思ったのに、余計に分からなくなりました」
不本意げに呟く彼女がなんとなく愛おしくなって、再び屈みこんで頭を撫でれば、少しだけ頬を染める。その様子にマスルールの胸の奥が一瞬不可思議に揺れた、気がした。それが何であるのか分からずに心中で首を傾げる。
「ほんと、よくわかんないです。――もう修行再開する時間ですよね?行きましょう」
さっと立ち上がり軽快に駆けていくモルジアナを追い、マスルールものそりと続く。
自分と揃いの色をした髪の少女ともう少し話せば、今の揺れの意味が解るだろうか。






マギを心友に借りて、彼女の予言通りマスルールが好きになりました。モルさんも好き。っていうかファナリスが好き。
公式がアリモル推しっぽいので、ファナリスでカップリングはしない方がいいのかなぁと思ったり思わなかったり。