P3 真荒





心の端がちりりと焦げる音がする気がした。
ペルソナはもう一人の自分だというから、己のペルソナ・カストールを今度召喚した時もしかしたらどこか火傷しているかもしれない。もしそうなら些か申し訳ないと思いながらも、荒垣の意識はラウンジに居る旧友の方へ向けられていた。己を好きだと繰り返す彼の方へ。
理由はごくごく単純である。真田が荒垣を熱心にSEESへ誘った穏やかな笑顔と同じ表情を他の寮生に向けている。ただそれだけのこと。
まっすぐな好意と熱意に絆された部分もあって戦線に復帰したというのに、それが自分だけに向けられている訳じゃないと知って苛々する。あまりに子供じみた、益も無い嫉妬だ。此処に戻るんじゃなかった、と思いながらも戦線復帰した今は寮から離れるわけにもいかず、せめてもの打開策としてリーダーからの指示が出るまでラウンジの隅で待機することにした。喧騒から少しでも離れて視界に入れないように。



「皆さん、今晩はタルタロス行きはなしです。各自自由に過ごしてください」
石田がそう言って、表情に出さず内心胸を撫で下ろす。手持ち無沙汰なまま苛々し続けるというのは結構な心労で、荒垣は早速己が集団生活に向いていないことを痛感しつつあった。
号令で各々部屋に戻っていく流れの中、同じように戻ろうとすると腕を引かれた。
「シンジ」
荒垣を引き止めたのは真田だった。ラウンジには既に二人しか居らず、真田は部屋に戻るそぶりを見せない。
「何だ。俺は帰るぞ」
「シンジ、言いたいことがあるなら言え」
荒垣の心臓が大きく跳ねる。
気づかれていた。嫉妬で焦げ付いた視線に。
真田の本性は闘争心をおさえきれていない有能な戦士なのだ。気配や視線に気づかないはずがない。そんな簡単なことにすら気づけなかったことが恥ずかしくて情けなくて、掴まれた手首を振り払って逃げ出したくなる。
「無理やり連れ戻したのが、そんなに嫌だったのか」
見当はずれな推測に荒垣はぽかんとする。気配に聡くても好意には鈍感という器用なことをするのも、また真田という男だった。そんなことすら忘れていたことに心の中で舌打ちしながらも胸をなでおろしていた。醜いところは見られたくないと思うのが当然の反応だった。
「なんでもない……大人数は苦手だと、思ってただけだ。お前みたいに明るい人付き合いはできないからな」
「難しいことじゃないし、慣れれば楽しいぞ」
「俺は器用じゃねえんだよ。…もういいか」
「ん、まあな。そうだ、今から俺の部屋に来い」
「は?」
「シンジに話したいことがたくさんあるんだ!こっちに移ってから全然喋ってないぞ」
言いながら荒垣の手首を握ったままぐいぐいひっぱっていく。有無を言う暇もない。
しかし真田が誘うのは荒垣だけだという特別感とこの強引を思えば、痛いくらいの握力がむしろ心地よかった。






タイトル拝借元:創作者さんに50未満のお題
ガキさん加入後ラウンジを見回して、あまりにも端っこすぎるところで佇んでいたのを見て。P3Pだったからそんなに自分を隔離しておきたいのかと思いました。