一血卍傑 アマツミカボシ他





○月×日
今日も俺はまつろわなかった。
この手帳を開いたとき残り頁がかなり少なくなっていることに今気付いた。
思えばこうやって日記をつけ始めたのは、慣れ合ってくる奴らが鬱陶しくて苛々していた俺に、頭(かしら)がこの手帳をくれたのが始まりだった。勧められたとおり「思っていること、考えたことを文章にして書きだしてみる」のは案外と楽しくて、今日まで欠かさずつけている。頭はこれが俺に合っていると知ってこの手帳をくれたのだろうか。今度訊いてみようと思う。
備忘:街に新しい手帳を買いに行く

○月■日
今日も俺はまつろわなかった。
次の手帳を買いに街に行くと、アシュラとオシチと行きあった。無視して通りすがろうとしたが、アシュラが声をかけてきた。どうやら以前から噂では聞いていた料理王決定戦とやらが近々あるらしく、それに使う食材や道具を買いに来たのだそうだ。
荷物持ちになれと指示され、もちろん断ったのだが、
「困ってるかよわい乙女を助けようと思わないの?」と言われて、思わず「どこに乙女がいるって?」と応えたら、ブン殴られた。なんて言ったか忘れたが、あの広範囲のやつでだ。
全身が割れそうに痛いし、実際頭が地面にめりこんだし、すわ悪霊かと街の人間が騒ぎ出して非常に屈辱で恥をかいたし、散々だった。
結局荷物持ちはさせられた。手帳は買い忘れた。

△月☆日
今日も俺はまつろわなかった。
もう一回街に出ようと思ったところで、昨日されたことが思い出されて苛立ってしょうがなかったので、アシュラに復讐しにいくことにした。
だが、毎回先に気付かれて避けられるか反撃をくらってしまった。不意打ちを狙っているのにもかかわらず。
5度ほど試して次の策を練っていると、最近一緒に討伐に行くことが多いヤマトタケルが「何してるんだ」と聞きに来た。昨日の詳細は適当にごまかして事情を説明すると、
「そりゃあ、あっちは速度4でこっちは5だからな。後手に回るのはしょうがない」
当たり前といった顔で言われたが、何の話なのかさっぱりわからなかった。そしてヤマトタケルは少し離れた場所に居たスサノヲを指差して「喧嘩売るならあっちにしとけ、鈍足だから」と言った。関係ない奴を巻き込むのは少しだけ気が引けたが、八傑仲間のあいつが言うならいいかと思い殴りに行った。
背後からだったのがいけなかったのだろうか。俺の渾身の拳を受けてなお「ん?小石でも降ってきたか?」と言われ、心が折れた。
そういえばこいつ、陽転身のLv99だった。

△月◆日
今日も俺はまつろわなかった。
手帳の最後の頁にこのことを書くのは敗北感のようなものがあるが、あまりにも不可解だったので記しておきたい。
本殿を歩いているとこの手帳と同じものが落ちていて、一瞬俺の日記を誰かが盗みだしたのかと驚いて拾うと、別物だと分かった。
そこにマガツヒノカミが通りがかった。どうやら俺が拾ったのはそいつのものだったらしい。そいつも俺と同じく、数日前に頭から手帳をもらって、ちょうど今の本殿の様子を書きとめていたらしい。
俺も日記をつけていると言うと、マガツヒはなぜか嬉しそうにして喋りだした。
あのときの体験を表現する力を俺は持たない。
俺と同じ言語・同じ温度で喋っているのに、途中からだんだんと何を言っているのか分からなくなるのだ。厄災・闇・罪・混沌……そんな単語が頻出していたように思う。そして会話が終わってから言葉を反芻すると、「こんなことを言おうとしていたのか?」となんとなく分かるようになるのだ。なんなんだあれは。
おそらく「日記をつける楽しさを教えてくれた頭への恩義は、悪霊をより多く倒すことで報いたい」と言っていたように思う。推測だが。
毎日日記をつけるようになって多少は表現力が身に付いたと思っていたのだが、たった数日であれほどまでに言葉を操る奴もいるのだと思うと、正直に言って悔しい。
さきほど頭に新しい手帳をもらったので、1頁目に頭への感謝の言葉を記してからまた続けていこうと思う。






デイリーバンケツで2人目のミカボシが来て、お前1人目のときもデイリーだっただろ!って思ったところからの、デイリー≒ダイアリー好きなミカボシくんの話でした。
仕事が暇すぎてGmailでぼちぼち書いてうpしたのですが、思った以上にイイネがもらえたちょっと嬉しいお話です。