携帯獣BW 上下上
※ ノボリが死んでます





「クダリは本当に天使ね」
いろんな人に言われてきたことば。ノボリには言われなかったことば。
ずっと笑顔でいたらそういう風にいわれてきたけど、そんな違いは気にならなかった。
ぼくと同じところも、ぼくと違うところも、ノボリの全部が好きだったから。ノボリも、ぼくと同じようにぼくの全部を好きって言ってくれた。
だからずっとずっと一緒に居ようねって、小さい時に約束したんだ。



なのに、なのに。ねえ?
「なんでノボリは死んじゃったの?なんでぼくは死ねないの?」
部下のみんなも親戚の人たちも、つらそうに目を伏せて答えてくれない。
線路に落ちそうになったポケモンを助けようとして、ノボリは電車に轢かれて死んじゃった。
ノボリが一緒に居ないなんてぼくには信じられなくって、耐えられなくって。
だから次の日の同じ時間同じホームでノボリと同じように電車に轢かれてみたのに、息の詰まりそうな衝撃をくらっただけで、ぼくは傷一つなく生きていた。
生きていたぼく自身が一番驚いていて、とても人間とは思えなかった。そう、それはまるで。
「ねえ、なんで?ぼくは人間じゃないの?ほんとうにぼくは『天使』なの?」
あんなに一緒だったノボリと、いのちの在り方自体が違うなんて信じられない。でも同じように死ねなかったのは、まぎれもない事実だから。

神様、ぼくは本当に神様の仲間なの?だったら神様、ぼくのお願い聞いてよ。
「ぼくからノボリをとらないで。はなればなれにさせないで。ぼくの心は死にそうの痛いのに、ぼくは死ねないなんてどんな地獄よりつらいよ」
ねえ、ねえ、ねえ!きいてよ!
『本当にその願い叶えてほしいかい?』
誰もいないはずの空から聞こえた声に、ぼくは何の疑問もなくこたえた。
「叶えてくれるの?」
『ノボリくんをそっちに返すんじゃない。君が今の充実した生活から全部切り離されて、こっちに来るんだ』
「みんなと離れるのはつらいよ。でも、ノボリと離れてる方がずっとずっとつらい。生きながら死んでるのって、きっとこんな気持ち」
『そうか……君ならそう答えると思ってたよ。だって君は僕と同じいのちだから。――さあ、おいで』
見えない手がのばされた気がして、その手を取るように腕を上げると、足がふわりと地面から離れたのが分かった。

綺麗にな青空がかききえて、目の前にあんなに会いたかったノボリが見えた。夜空の中でぼろぼろと涙をこぼしている。
「ノボリ、やっと会えた!ねえ……なんで泣いてるの?」
「貴方には来てほしくなかったんです。こんな、光と闇しかなくてただ広いばかりの空虚な場所には。クダリには、地上で楽しく笑っていてほしかった。――でも、貴方が来てくれてこの上なく嬉しいわたくしも確かにいるんです。貴方に会えて、嬉しくて、悲しくて」
ノボリの涙は堰を切ったように流れ続けている。つられてぼくも泣いてしまう。頬に熱いものが伝うのを感じて、初めて気付いた。ノボリが死んでから、ぼくは泣くことすらできなかったんだ。
「ノボリ、悲しまなくていいよ。ノボリがいなきゃ、ぼくは地上にいたとしてもずっと笑えなかった。ノボリさえいれば、ここがどんなにさみしい場所でも笑っていられるよ」
「ああ……クダリ、約束を破ってしまい、申し訳ありませんでした」
「あれはしょうがないことだもの。気にしないで。それにぼくがここに来たから、約束はずっと続いてるよ」



何もさえぎるもののない満天の星の中で、ぼくたちはずっとずっといっしょにいられる。
それはとってもすてきなこと。
それはとってもしあわせなこと。






双子座の逸話をサブマス変換してみた。ゼウス役はアニクダさんで。
P3的に兄のカストールが黒、弟のポリデュークスが白だと思ったらなんかもう書かずにはいられなかった。
タイトルをノボシャンのと対にしてみたけど、死にネタってとこ以外に関連性はありません。