携帯獣BW ノボシャン





だいすきでたいせつなあなたのために、なみだすらながせないの
せめて、わたしがもっと、いきものにちかいかたちだったらよかったのに

悲しげに目を緩く伏せたシャンデラから、初めて言葉で想いが伝わってくる。これは自分が彼女に近い形になっているということだろうか、とノボリは思う。
シャンデラに近い形――ゴースト、霊体に。ノボリの命の刻限はもうそこまで来ている。

「今更貴女自身を否定しないでくださいまし。わたくしが生涯をかけて愛した貴女を」
想いが伝わったことに驚き、シャンデラははっと伏せていた目を見開く。無機質に輝く金の瞳から二粒、輝くものがこぼれ落ち、ベッドの上に跳ねた。ころころと転がったそれは、透明度を上げた真珠のような小さな球体だった。ノボリはそれを拾い上げて、そっと握りこむ。
「ああ、貴女は涙までも美しい」
ノボリがあまりにも幸せそうに笑むから、シャンデラは何も言えなくなる。
「シャンデラ、貴女を愛して生きると誓ったときの約束、覚えてますか」
シャンデラは頷くように揺れた。しかしやはりその眼は物憂げに伏せられている。
「わたくしのいのちが終わる時、魂が体から離れたらわたくしの魂を燃やしてくださいまし」
ほんとうに、やらなければいけないの
「ええ、ぜひとも」
てんごくでゆっくりねむるのではだめなの
「……わたくしね、余命宣告されたとき。確かにショックは受けたんですけども、死が怖くはなかったんです。あの約束があったから」
ノボリは傍にいたシャンデラを抱き寄せた。
「貴女の輝く炎の糧になれる。愛した方とひとつになれる。素敵なことでしょう?――それにね、クダリにも許可とってあるんですよ。私の魂は『眠る』つもりはないので覚悟しておいてくださいまし、って」
ノボリの腕の中で金の瞳がきらりと見上げる。またひとつ、透明な真珠が落ちた。
「さすがに生まれてからの仲だからですかね、それだけで全てを把握してくれまして。『ええっと、お幸せに?でいいのかな』って笑ってくれたんです。だから安心して燃やしていただきたいのです。ねえ」
おねがいします。と低く囁くように言えば、シャンデラの身体が一瞬燃え上がるように熱くなって、ノボリはくすくすと笑った。
「ああ、もうすぐみたいです。わたくしは、貴女を愛せて幸せでした。どうかこのあともあなたとともに」
ふっと静寂が落ちて、シャンデラを抱えていた腕が力を失った。



その夜、とある病院の一室で魂のみを燃やす紫の炎が大きく燃え上がった。
そこに残された『抜け殻』にぱらぱらと落ちていた透明な粒が、涙だと知るものはもう居ない。






無機物がモチーフのポケモンが涙を流すとしたら、それは液体なのだろうかと思ったらこうなった。ミュウツーの逆襲では無機物ポケ出てなかったし。
下上のと対のようなタイトルになってるけど、ノボリが死ぬ話ってところ以外に関連性はありません。