BW インゴ+クダリ





「失礼しました」
退室際にぺこりと会釈した年若い鉄道員をインゴはじっと見送る。
彼に何か思うところがあるのかとクダリは声をかけた。
「インゴ、どうかした?」
「こちらの方は本当に若く見える、と思いまして」
「そうらしいね?逆にぼく達はそっちの子ども見て大人っぽいなぁって思うけど。こないだこっちに来てたユノヴァの歌手、どう見ても大人だったのに16歳って聞いてびっくりしちゃった」
「やはり人種の違いでしょうか…。今回こちらに来てすぐの頃。先程の鉄道員に会いまして。ワタクシ達がサブウェイボスのコートを着ていたからでしょうね、目が合って第一声が『すいません、ギアステーションまでの道教えてくれませんか』でした」
「ははは、なにそれっ!そのときあの子どこいたの」
「ビッグスタジアムの前でした。イッシュ生まれイッシュ育ちの人間を異国の者であるワタクシが道案内するなんて、あんなシュールな体験は初めてです」
「だろうね!」
「そして、ギアステーションに着くなり彼は年嵩の鉄道員にひっぱって行かれ、しばらくして鉄道員の制服を着て出てきたときは、エメットと一緒に心底びっくりしたものです。『あれで社会人だったのか』と」
「まあ、普通の大人は職場の場所いつまでも覚えられないとか、ないよね」
「それもそうですが、それ以上に見た目の若さが。うっかり迷子センターまで連れて行くところでした」
「そっちか!そういえばそんな話だったっけね」
「ローティーンだと思ってました……」
「はは、またすっごい勘違いだね!彼、一応20歳だよ?」
「なんですって!!20……20って……ワタクシと同い年じゃないですか……」
「ええっ!!むしろそっちにびっくり!インゴまだ20なの!」
「え、ええ先日20歳の誕生日を迎えたばかりですが……あの『まだ』とは……、結構今更ですがクダリ様のお歳は?」
「ぼく?ぼくは今年30」
「Oh,MyGod……」
「一体いくつだと思ってたの」
「せいぜいハイティーンかと」
「あのね、ぼく達運転士免許持ってるの、知ってるでしょ?運転士免許は20歳から」
「そういえば、そうでしたね。……クダリ様が30歳ということは、あの、バトルサブウェイ系列でマルチの路線ができたのはイッシュが初めてで、10年ほど前と聞いたのですが、もしや……」
「サブウェイマスターが2人になったの、ぼく達の代から。それどうかしたの?」
「……ワタクシ達、貴方がたへの認識を新たにしなくてはならないようです」
「……?」

あどけない仕草でこてんと首を傾げるクダリを、伝説のポケモンに遭遇したような心持でインゴは見つめた。
10年以上前、バトルが鬼のようにつよい2人の鉄道員が彗星のごとく現れ、瞬く間にそのトップの座を掻っ攫っていったというおとぎ話のようなサクセスストーリーをインゴは人づてに聞いたことがあった。更に、当時世間はマルチバトルに関心を寄せていて、当時のトップがそれに対応したトレインを試験的に走らせたところバトルサブウェイの業績は上がり、それを受けてマルチトレインが全世界に展開された、と。
つまりバトルサブウェイ系列の改革の基礎となった、言ってしまえば伝説の人が、まさか目の前の彼、いや彼らだったとは。まさに人は見た目によらない。
自宅の物置に放置したままの『バトルサブウェイの歴史』を今度しっかり読んでおこう、とインゴは気が遠くなるような思いで決意した。






これのエメット+ノボリの会話のアナザーサイドのつもりだったんですが、思いの外長くなりました。
イギリスの16歳の歌手見て大人だと勘違いしたのはSKYの実話です。アーティスト誰だったか忘れたけど。