BW 下上





『拝啓 サブウェイマスター・クダリ様
突然の手紙失礼致します。密かに募る想いに耐えきれず、筆を執りました。乱文故に見るに堪えないとお思いでしたら捨てて頂いて構いません。』



そんな出だしで始まった手紙は、年に何回か増える可愛らしい封筒の山に紛れていた。手紙自体は便箋も封筒もごくシンプルな上に文字は全て印字で、ともすると業務連絡のようですらあるが、端にあるセンスの良い箔押しがそうでないことを告げている。
貰った手紙はクレームもファンレターも一通り目を通しているが、その手紙に一際惹き付けられたのは、文体は堅苦しくも「サブウェイマスターの白い方」ではなく「クダリ」個人へ宛てた率直な愛の言葉で溢れていたからだ。

笑顔が好きなこと。
ポケモンや、彼らと共に戦うバトルが好きなこと。
クダリが白いコートを翻らせて、トレインの最終車両へ向かう時の軽やかな足取りが好きなこと。
バトルのときのぎらついた瞳が好きなこと。
他人もポケモンも思いやれる優しいところが好きなこと。
初対面の相手でも緊張をほぐすことに長け、すぐに打ち解けれる社交的なところが好きなこと。
言葉と行動を裏切らない素直なところが好きなこと。
余裕を見せながらも一生懸命で、努力を怠らないところが好きなこと。
落ち込んでも立ち直りが早く、仕事に影響を出さないようにしているところが好きなこと。
好奇心が旺盛で博識なところが好きなこと。
それと――。
次に――。
自分でも知らなかった美点を淡々と挙げられるのを読み進むにつれ、クダリの頬は紅潮していった。

ラブレターやファンレターは山ほどもらったが、これほどまでに響くものがなかったのは、ここまで「好き」のあふれた手紙がなかったからだろうか。それとも、それら全てが表面的なものについてにか書かれていなかったからだろうか。この手紙の書き手は気付いていなかったかもしれないが、クダリが他人には秘密にしていた内面まで書かれている。つまり、それほどまでにクダリを理解している人。
そう考えるながら読み進むクダリの胸の内には、確信と疑念がぐるぐると渦巻いていた。

ここまでぼくを理解している人なんてひとりしかいない。
だけど、そんな都合のいいことが。
だって、きみは決められたレールをはずれたくない人だから。

『ほかにもまだまだ好きなところは沢山ありますが、随分と長くなってしまったのでここで終わりにします。
 あなたの全てを愛しています。
 もし僅かな望みを持てるのならば、貴方を愛する数多の言葉の中のひとつにこの手紙が心の片隅に残ればと思っております。
 あなたの未来に幸多からんことを祈って。
 あなたを愛する一人より 敬具』

そう締められた手紙の送り主の記名は無く、雑多に積まれた手紙に埋没させることが目的のようにすら見えた。
でも、女の子が選ぶにしてはやや無骨なデザインのそれは上手く紛れなかったようだ。もしくは華やかなレターセットを店頭で手に取ることができなかったのだろう。そんな不器用なところも、クダリは愛しているのだと思う。

「手紙に返答するなら手紙で書くべき、かな?アーケオス、あとでこれ、届けてね」
クダリは引き出しの中にあった絵葉書を見せると、アーケオスは合点承知とばかりに元気よく鳴いた。便箋でなく絵葉書を選んだのは、彼ほど言葉を紡ぐのが得手ではないからだ。その代り、活字ではなく肉筆で、込められるだけの想いをクダリらしく綴る。
「だって誰が書いたか分かるようにとどけたいもの」
でも、恋文ですら堅苦しい彼に合わせて文頭だけでも彼に倣ってみたかった。そしてクダリはペンを執る。


『拝啓 僕の好きな人』






「下上へのお題は『残された希望・猫が見ている・拝啓、僕の好きな人』です」
ってお題ったーに言われたので、前から書きたかった手紙モチーフで書いてみた。
1時間半で書いた割には我ながら綺麗にまとまった気がする。