BW エメクダ





自宅ではないクダリの家でも『帰宅』すれば「ただいま」と言うエメットは、その日ばかりは「ただいま」と言いかけて、口を開けたまま止めた。キッチンの方から歌声が聞こえたからだ。
誘われるようにその声のする方へ足を進めれば、クダリが鍋に向かって喋るような声量で歌っていた。
「ぐるぐるわかれて ぐるぐるまざって まわるまわる まわってねじれて……」
ぼんやりと宙を見ながら鍋をかき回しているものだから一体何を錬成しているのかと戦々恐々としながらのぞき込めば、見た目も匂いもごく普通のビーフシチューで、エメットは心底ほっとした。
「……あれ、帰ってたの?」
「あ、うん、ただいま」
「おかえり、エメット」
覗き込んだ体勢のままクダリの腹を抱えるように抱き着くと、エメット邪魔ー、と口だけの抵抗が返ってきた後にまた童謡を歌いだした。
「クダリって歌ったりするんだね?」
「え?……あっ!なんか癖でやってた。ちょっと恥ずかしいな」
「ボククダリの声好きだからいいけど、なんか意外」
「そう?僕結構家でだと歌うよ?時々ノボリ兄さんがハモってくる」
「なにそれ」
「それで、自然にパート分けしてサビの終わりまできっちり歌いきったあとに『これ何の曲でしたっけ』って訊いてくるよ」
「分かってなかったんだ」
「うん。僕が歌ってるのに乗っかってただけだから」
くすくす笑い合いながらクダリは残りの具材を入れて、また火をかける。
「いいなぁ、仲良いって感じで」
「エメット達も仲いいでしょ。ハモったり輪唱したりしない?」
「君たちほどじゃないよ。それにインゴ音痴だもん」
「そうなんだ?」
「楽譜読めるし音程は分かるのに口に出すとハズれるから歌うの嫌なんだって」
「そんな彼にわざマシン48」
「ははっ、人間もわざマシンで『りんしょう』覚えれたらいいのに!あっ、でも楽器はできるっていうのがね、不思議」
「へえ、インゴさん楽器なにやるの」
「サックス。スクールの授業サボってたときの暇つぶしにやってたんだって」
「授業受けようよ……でも、管楽器できるのってかっこいいね!今度聞かせてもらえるかなぁ」
「………」
「なに、どうしたのエメット」
子供が愚図るような仕草でエメットがクダリの肩に頭を押し付ける。それだけでクダリは彼が何を言わんとしているのかを悟った。
「もう、そっちが話振ってきたんじゃん。はいはい、エメットもかっこいいよ。僕の恋人は世界一かっこいいよ」
「何で僕の言いたいことわかったの」
「だって分かりやすいもん」
「なんか複雑ぅ」
「さいですか。あ、皿とって」
「できた?」
クダリはいつのまにか火を止めて味見をしている。鍋一杯のビーフシチューは、明日帰ってくるノボリとインゴの胃にも収まるだろう。
「うん。我ながらいい出来だよ。ルー系のって作り過ぎちゃうから君たちが来たときくらいしか作れなくってさ」
「外食するのすら面倒臭いくらい忙しいと、カレーとか大量に作って何日も食べるとかするよね。シチュー皿はこれかな、はい。――あっ、クダリ、ひとつお願いしていい?」
「内容にも依るけど」
「えっとね、今日なんか疲れちゃったからクダリの声聞きながら眠りたいなぁって」
「うん?子守唄とか、そういうこと?」
「別に子守唄でもロックでもポップスでもいいけど、クダリの爽やかで心地いい声聞きながら寝たら、良い夢見れてすっきり起きれそうだなと思ってさ。だめ?」
「だめじゃないけど……うーん、まあ、君のきかん棒が今夜は大人しくしててくれるんだったら別にいいかな」
「えっ」
「えっ、じゃないよ。疲れ切ったあとに掠れ声出すのとか、普通誰だって嫌だろ」
「そ、そうだけどさ、うん、ゼ、ゼンショシマス」
「是非ゼンショしてね。どっちの意味で寝るのでもいいけど、とりあえず食欲の方を満たそうか」
「はぁい」






我が家のアニクダちゃんはクーデレ(暫定)  アニクダちゃんとエメットくんはほんと書きやすいというか、動かしやすいです。
サックスできるド音痴はリアル友人に居ます。不思議。