BW インエメ





駅長室のソファで仮眠をとっていたエメットは、起きて早々に兄に問う。
「インゴ、何やってるの」
「何やってるって、見て分かりませんか」
「いや、見えないから訊いてるんだけどね?」
インゴが居るのはエメットの背後、頭か背中あたりをごそごそといじりまわしているらしい。
気配がそばにあるのが当たり前すぎる唯一無二の半身が相手といえど、仮眠用のアラームが鳴るまでこれに気付かないのもどうなんだ、とエメットは心中で反省した。
「お前の襟足も随分伸びたなぁと思いまして」
「忙しくて散髪に行けてないからねぇ」
「面白そうだったので三つ編みに挑戦してました」
「ちょっ、何やってんの!変な寝癖つけないでよね!」
「ついてませんよ。できなかったので」
「ならいいけど……いや、よくないよ!なんか編み込みみたいになってんじゃん!」
インゴが触っていたあたりに手を伸ばすと触り慣れない感触がして、手探りで慌てて解く。幸い手櫛で全て解けたし、鏡を見れば少し跡は残ったものの、制帽を被れば全く違和感のない位置だった。
「まあ、いっか。そろそろ切りにいかなきゃなぁ」
「ねえエメット、伸ばしてみる気はありませんか」
「髪?」
「ええ」
「編み込み気に入ったの?」
「それもありますが、髪伸ばしたらキスマーク隠れるでしょう」
「うわぁお、なんて真っ直ぐ歪んだ理由!」
「ワタクシお客様以外に嘘はつかない主義です」
「うん、知ってる」
エメットは鎖骨に届くまでになった襟足を引っ張りながら、インゴの言葉を反芻する。うーん、と唸って数秒考えた後、
「却下」
ばっさり切り捨てた。
「理由をお聞きしても?」
「えっとね、キスマークが隠れるのは魅力的だけどさ、そうするとインゴはバックからしたがるでしょ?」
「そうですね」
「でもボクは向き合ってシたいから、そのあと絶対正常位でやるでしょ」
「……そうですか」
「そうすると必然的に回数が多くなるでしょ?ボクの腰がやばいでしょ?だから却下」
論理的に達した結論を述べても、インゴはまだ名残惜しそうにもごもごと何か言いたげにしていた。
「インゴのせいでアーケオスの腰タックルに耐えれなくなったら、1カ月口きかない」
「降参です」
『降参』のポーズで両手をひらひらさせるインゴを見遣り、エメットはインゴの髪も少し伸びてることに気が付いた。最近はダブルのほうが立て込んでいてエメットの方が忙殺されていたが、多忙なのはインゴも一緒だ。
「髪いじりたいなら、自分で伸ばせばいいじゃない。っていうかボクが見たい」
そう言えば、インゴは実に憮然とした顔で口を曲げた。
「何言ってるんですか。お前だからいいんですよ。ワタクシがやっても、不機嫌な根暗みたいになるか、せいぜい『ぼうそうぞく』の仲間になるのが関の山です」
「そんなこと言ったらボクだって、またチャラさに磨きがかかったね!っていい笑顔でクダリに言われるだけだと思うけど」
言いながら、エメットは夢想する。
髪を肩まで伸ばしたインゴが、『ぼうそうぞく』と同じようにハーレーに跨っている姿。彼らと同じように服装は、上は裸に革ジャン、下は派手なベルトにダメージジーンズ。ヘルメットを小脇に抱えながら長い前髪を後ろになでつける仕草まで想像し、衝動的に叫んだ。
「こんなイケメンな暴走族が居るか!!」
「は?」
「いや、こっちの話」
空想の中の思いつきがなかなかに面白そうで、エメットは口をにやつかせたまま提案した。
「ねえ、今度の休みにちょっとロックな格好してバイクに乗った姿で写真撮ろうよ」
「コスプレですか」
「たまにはいいじゃない」
「乗るならバイクより電車の方が好きですし、それ以前に二輪の免許なんて持ってないの知ってるでしょう」
「あ、そっかぁ……残念」
いつもほとんどコスプレみたいな制服を着ているからか、プライベートでコスプレするという発想には至っていなかった。だからこの考えは新たな発見だ。二人の関係をマンネリだなんて思ったことはないが、新しい喜びを見つけるのはいつだって楽しい。
「じゃあさ、今度探しておくから『ウェイター』の格好してみてよ。絶対かっこいい」
「エメットがウェイトレスの服を着るなら、検討しましょう」
「えー……うーん……」
「せっかくならプレイのシチュエーションにもこだわりたいじゃないですか」
「普段と違うインゴ見たかっただけなんだけどなぁ」
それを自身の羞恥心を切り売りしてまで得たい刺激なのか悩んだエメットが、肯定を示すのにさほど長い時間はかからなかった。






海外マス長髪祭に触発されたっきり放置してたブツ。
我が家のインゴさんは元不良だけど、族ってより番長系。