BW エメクダ





桜の名所で知られるその公園は、娯楽都市ライモンのそばにあることもあって沢山の人で賑わっていた。
「うわああ!これがイッシュの桜かぁ!写真で見たことはあるけど実際見るとすごいね!」
初めて見る見渡す限りの桜並木に、エメットのボルテージは上がりきっていた。クダリ自身も楽しみにしてはいたが、同行者が自分以上にハイテンションだと逆に落ち着いてしまうものである。
「毎年来てるからそこまでの驚きはないけど、そんなに違うかな?」
「ユノヴァにも桜はあるけど、一カ所にこんなにたくさん植わってないし、2カ月くらい咲いてるよ」
「そうなんだ?」
「あとこんなにいっぱい人居ないしね。今日お祭りなの?」
「違う……とも言い切れないなぁ」
夜桜のライトアップ用のぼんぼりがつるされ、公園内の道には屋台が立ち並んでいる。花も見ずに酒を飲んではめをはずしている人がいるのはご愛嬌だ。神輿や舞台がある訳ではないが、花見というのは桜が咲き誇ってる短い間の祭りのように見えるのかもしれない。

エメットは、やはり花が気になるのか上を見ながら歩いていろんなものに躓きそうになっている。クダリはその腕を引いて諌めながら、歩調を合わせてゆっくりと歩いていた。この季節に来るのだったら紹介したい場所だったから、ここまで喜ばれたならこちらも嬉しくなった。
屋台の列が近くなって、風に乗ってふわりとはちみつの匂いが漂ってきた。
「クダリ、あれなに?!」
「あー、あれはベビーカステラだね。縁日だとよく見るお菓子だよ」
「買ってきていい?」
エメットのはしゃぎようがあまりにも子供っぽくて笑みがこぼれる。
「うん、いってらっしゃい」
許可を得てエメットが駆け出した瞬間一陣の突風が吹き、桜の花びらが一気に舞い落ちた。
あちこちで悲鳴が上がる中、クダリはその光景に暫し見惚れた。

風の中に靡いて煌めく、やわらかな日差しのような金髪。
晴れた空のような碧眼と、若草色のピアス。
白い肌に桜色に染まった頬。
淡い色の上着がはためいて、そこに花びらが舞い落ちた。
一幅の絵のような幻想的な光景はまるで。

「――春の妖精みたいだ」
真っ直ぐエメットの方を向いてクダリが呟いた言葉は、あまりにも虚を突いた。
「えっと……『妖精』ってボクのこと?」
暫しの沈黙。そして我に返ったクダリは大げさなほどに狼狽えた。
「あれ、今僕何言った?!」
「春の妖精って」
「うわ、うわわ、うっわああああ恥ずかしい!!いくら春だからって!ぼーっとしすぎ!!思ったことそのまま口に出すとか!」
羞恥心のあまりクダリは両手で顔を覆ったが、真っ赤になった耳までは隠せなかった。その様子に、エメットがにたーっと笑ってつつく。
「えーっと、クダリが天使なのは前からだけど?ボクが妖精?こーんな図体のでかい男捕まえて、随分とファンタジックだね、ボクたち」
「もう、ほんとやめて!はずかしい!そもそも『天使』だって兄さんしか言ってないからね!」
「ボクも言ってるよ。クダリ=天使説には全面的に賛成してるもん!」
「堂々というな!」
「恥ずかしい台詞言って顔真っ赤にしちゃうところとかすっごくかわいい!ボクのクダリがこんなにかわいいわけが、ある!」
「それ以上言うともう置いて帰るよ」
羞恥心がひと回りして怒りに変わったクダリは、エメットの向う脛を容赦なく蹴飛ばした。
「ちょ、痛い痛い痛い!ごめんって。もう言わないからぁ!――クダリ見かけによらず、時々すごくバイオレンスだよね」
「エメットにだけだよ」
「え、どういう意味?」
「さあね?ベビーカステラ買うんじゃないの」
「買うけどさ。じゃあ、いってくるね」
「ここで待っとくよ」

再びエメットは屋台に向かって駆け出し、お土産の分も含め2袋買った。そして元の場所へ駆け出そうとする足を少し緩め、遠目からクダリを眺めた。
帽子を片手で抱え、銀の髪を風に揺らしながらはらはらと散る桜を見上げている。奇しくもその日は制服に似た白いコートを羽織っていた。
先程のクダリの言葉に寄せた表現をするならば、その様子は『春を見たくて居残ってしまった雪の精』のように見えた。
しかし、土地勘のない場所でクダリに置いていかれるのは避けたかったので、その台詞は今のところ胸の中にしまっておくことにした。






こちらのWebアンソロに寄稿したものでした。
なんでツイ嫌いなのにツイ企画に参加しようと思ったんだか……という若干の疑念と後悔がないでもない。
あと、大体タイトルは直感で付けてるんだけど、書きあがったあとこれを思いついた頭のファンタジックさに泣ける。