BW クダエメ

※ エロくはないけどシモいのでR-15



僕がエメットと友人として以上に付き合うようになった――もっと言えば恋人同士になったのが3か月前。
告白してきたのはエメットの方。想いを受け入れた理由は、僕も彼に恋愛面は抜きにしても好意的な感情を持っていたから。だけど、エメットの必死な表情に気圧された部分は大いにあった。
僕がユノヴァ滞在中のことだったから、それから先のデート(だと思われるお出かけ)は土地勘のあるエメットが全部リードしてくれた。もちろん彼がイッシュにいたときの外出は僕が案内してたけど、それは友達同士としての付き合いをしてた頃のことだ。そのときに別段思うことはなかったのに、エメットと二人、恋人として行く場所はどこもきらきらしてるように見えた。
こっそり手をつないだりカフェで触れるだけのキスをしたり、そんなささやかなことにティーンみたいにどきどきして、そのときはそれ以上のことは何もできずにイッシュに帰ってしまった。
そこから3か月、お互い連絡をとりあってはいたけど会えない日が続いて、今度はエメットがイッシュに来ることになった。
デートスポットのリクエストを聞けば、エメットからの返答は「クダリの家でのんびりしたいな」だった。以前来たときはミュージカル行ったり遊園地行ったりしたからという理由らしい。(そういう場所で男友達二人で連れ立って遊ぶなんて、しょっぱい絵面だったのはもう気にしないことにしている)
家なら下調べも要らないと思い快諾して約束を取り付けた後、はたと気付いた。
恋人同士でおうちデート、ということは、要するに、セックスする、ということじゃないだろうか。
そのことに思い至った瞬間、かっと顔に血が上り、一瞬でさっと青ざめた。

男同士のセックスは慣れないと痛いと聞く。そしてこの流れだと、僕がネコをやる可能性が高い……気がする。
別に彼と性的なことに及ぶのに嫌悪感は無い。
問題は、僕は痛いのが壊滅的に大嫌いだということだ。
どれくらい嫌いかというと、何かの混合ワクチンを受けることになった日、当時ハイティーンだったのに泣いて嫌がったくらい。大人になった今でも、インフルエンザの予防接種(毎年半強制的に受けさせられる)の季節になると、予約日1週間前から鬱々としだして、当日はぎりぎりまで布団に引きこもっている。
ノボリ兄さんからは「マラソン大会を控えた子どものようですねえ」なんて笑われるけど、痛覚っていうのは命を守るためにあるんだから、しょうがないじゃないか!
なんだかんだ言っても、痛みへの恐怖心で情けない思いをするのは僕一人だったから特に気にしていなかったけど、今回ばかりは大切な人を巻き込むことになる。
最初が痛かったりしたら、豆腐メンタルを自覚している僕のことだ、そのことがトラウマになってセックス恐怖症になりかねない。そんなのエメットに申し訳なさすぎる。
それに僕も男だから当然男役の方をやりたいわけで。まあ、恋人になってからこちら、全然かっこいいとこ見せれていないのだけど。
交渉の余地あるかなー、無理かなー、流されそうな気がするなー、痛いのやだなー、なんてぐじぐじ考えているとあっという間に時間は過ぎ、久しぶりに恋人に会うっていうのに鬱々とした気分で約束の日を迎えた。
色っぽい雰囲気にさせなきゃ乗り切れるはず、という僅かな希望を胸に抱えて。



なのに、なんでこうなった。

下手にレンタルDVDなんて見たらいわゆる「良い雰囲気」になるんじゃないかと思って、ここ数か月のバトルビデオを職場から持ち出してリビングにある大きなテレビに映して、それこそ友達みたいにゆるゆると喋っていたはずなのに。
一通り見終わり時計を見て「夕飯どこかに食べに行こうか?」なんて言おうと思った、ほんの一瞬の隙が僕の計画を完全に狂わせた。
そういう雰囲気にさせなきゃいい、なんて甘かった。腕を引かれてエメットの方を向いた瞬間、視界も呼吸も全部奪われて、官能を無理矢理呼び起させられるキスをかまされてしまった。
薄く目を開けば、焦点を結ばない程近くに恋人の顔。それが少し離れて、ようやく大きく息を吸えば、それを見越したかのようにまた唇を塞がれて、再び僕はエメットに翻弄された。
唇を食まれ舌を絡め唾液を啜られ、間近に聞こえる水音が問答無用に体温を上げる。
これはいよいよピンチじゃないか?とは思うけど抵抗する意志はだんだんと削られて、頭がぼうっとしてきたのは、酸欠のせいか快楽のせいか、もう分からなくなっていた。

口をまた離されてぎゅっと抱きしめられながら、エメットは僕の耳に吹き込むように囁いた。
「クダリ、えっち、しよ?」
うっかり流されて首肯しそうになったけど、その言葉に反応できたのはほぼ奇跡と言っていい。めろめろのとろとろにされた思考を慌てて叩き起こして、力の抜け切っていた腕でエメットの身体を押し返した。
「それは、ちょっと、早いんじゃないかな」
「なんで?」
「なんでって……そりゃあ、もうちょっと段階踏んだりとか……心の準備とか、さ」
「ボクはとっくに心の準備できてるよ?」
でしょうね!!こっちができてないの!多分永遠にできないけど!なんて情けなくて言えない。
「今日のことすっごい楽しみにしてたし、勉強も準備もいっぱいしてきたんだ」
近すぎた距離が少しだけ離れて視界が焦点を結び、その瞬間後悔した。
前からイケメンだとか王子様みたいな顔しやがってとかは思ってた。だけど、熱できらきら潤んだ瞳や紅を刷いた頬や人を惑わすような笑みが、男相手に言うのも変だけど、すごく色っぽく見えた。
「だから、したいな……だめ?」
エメットの あまえる! クダリのぼうぎょが がくっとさがった
そんなアナウンスが聞こえた気がした。「あまえる」で下がるのは攻撃だろ!ばか! でも僕のガードは実際緩くなったみたいで、気付けばソファの上に押し倒されていた。
「い、痛いのは嫌、です……」
みっともなくて言いたくなかったことを白状すれば、エメットがこてんと首を傾げた。くそっ、あざとかわいいな!
「痛くなんかないよ?きもちいいよ?全部ボクに任せて」
「そう言われると逆に怖い!」
「怖がらないで」
そう言って微笑むエメットは静かに、だけど明らかに発情していた。僕からは何もしてないのに、どこにそんな興奮するようなことがあったんだよ、もう!
ちゅっちゅっと音を立てて頬や目元を啄まれ、また深いキスを一発。まためろめろにされてぼんやりしてたから、エメットの手が僕のズボンにかかっていることに気付かなかった。
「なんだ、クダリもたってるじゃん」
「……しにたい」
『僕を(というか僕の身体を)その気にさせる』という小目的が達成されたからか、融けたような満足げな笑顔が眩しい。言いたくはないが魔法使い一歩手前の童貞男子に、エメットのキスは刺激が強すぎた。羞恥心に耐えきれず顔を逸らせば、はぁ、と熱い息が耳元で聞こえて、頬に更に熱が集まる。
服の上からでも分かるふくらみを揉まれ声にならない悲鳴を上げた瞬間、エメットの言葉に全ての想定がひっくりかえった。

「早くこれ、ほしいな」

「……え?」
耳を疑うような発言に、思わず逸らしていた顔を正面に向けた。驚く僕の表情にエメットも驚いたのか、蒼い瞳がくるりと丸くなる。
「どうかした?」
「今エメットなんて言った?」
「えっとね、早くクダリのちんk」
「うあああ言わなくていい!!」
「どっちなの」
「言わなくていいです!」
どうやら幻聴ではないようだ。
「えっと……僕が男役、やっていいの?」
「そのつもりだったけど……クダリ、下が良かった?」
「そんなことは!決して!ないです!」
「だよね。痛いの嫌だって言ってたもんね」
あんまりはっきり言われるとやっぱりちょっと惨めな気分になる。それに、自分が痛いの嫌だからって、エメットにそれを押し付けていいのかっていうのもあるし。
と、そこまで考えてから、ふと気づいた。
「さっき言ってた準備って、もしかして」
「あっちで拡張がんばってきたよ!」
「うっそぉ……」
なんかもう逆に男前とすら言える思い切りの良さはどこから来るんだ。そこまでしてくれてありがとう、という気持ちと、こんな覚悟の足りないヘタレでごめんね、という気持ちが混ざって変な顔になるのが自分で分かった。
でも褒めて褒めてと言わんばかりにキスの雨を降らせてくるから、ありがとうの方だけ口にして金糸の髪をなでると、ぶんぶんと振られる大型犬の尻尾の幻が見えた気がした。
「そういうことなら、しよっか」
だから折れることにした。流されっぱなしなのはちょっと癪だけど。
「やったぁ!」
「僕こういうこと疎いから、お任せすることにするよ……って!脱ぐな!脱がすな!せめてベッド行ってからにしろ!!」
「わかった!クダリの部屋どこ?」
「リビング出て突き当り左……ちょ、担がなくていい!降ろせって!」
横抱きで自室まで連れて行かれそうになったのを全力で阻止して、部屋まで連れて行く。流されっぱなしで危機感しか覚えなかったけど、エメットの余りの積極性にもう抵抗できる気がしなかった。



リビングで延々流してたバトルビデオに映る僕の勇姿(?)に、エメットがずっとドキドキムラムラしっぱなしだった、と本人の口から聞いたのはその3時間後、散々絞りつくされてからだった。






アニクダくんはSKY的に受け攻めシークエンスで一番受け側にいる子なんですが、攻めやらせたらどうなるかなーと思ったらこうなった。悲しいくらいに襲われ系。
エメットくんは受けだろうと攻めだろうとアホエロが似合う子だと思います。
余談:某企画に投稿して下ろされた(下ろさせた?)ものでした。合作でもないのに自分の作品が他人のアカウント内で発表・評価されるとかただの苦行。