BW エメクダ♀





※アニクダくんが女の子



「僕、チャラい男って嫌いなんだよね」
エメットの人生初めての告白は、そんな一言でばっさりと切り捨てられた。
真面目に何かを伝えるのが苦手で、冗談めかしてしまったのがいけなかったのだと後に自己分析した。ノリとセリフはほとんどナンパのようだったと気づいたけど、後悔してももう遅い。
しかし、たった1回のチャレンジで諦めるほどエメットはヤワじゃなかった。
何もしなくても異性が寄ってきて不自由しなかった彼が、自分から行動して手に入れようと思った初めての相手がクダリだったのだ。これは運命だ、とエメットは勝手に思っていた。
バトル廃人は粘り強くて負けず嫌いでないと務まらない。「諦めたらそこで試合終了ですよ」どこかの誰かも言ってたし!とエメットは今日も決意を新たに果敢に挑む。

『君のこと好きな子いっぱいいるんだろうからそっち口説けば?』
『今のところ恋愛に興味ないんだ』
『笑えない冗談だね』
『めんどくさい』
『いらない』
『結構です』
そんな言葉でにべもなく断られた回数は、2回目以降数えてない。はっきりと「迷惑」だとか「やめてくれ」とは言われてないからやめる理由はなかった。
後半はセールスを追い払うような言葉で断り続けていたクダリが否定の言葉以外を述べたのは、告白の回数が両手両足の指の数を超えようかという頃だったように思う。何せ数えていないので。
クダリは、あきれたように苦笑して、ぽつりと言った。
「君、ほんと悪趣味だね」
「へ?なんで?」
「こんな面白味のない女口説いて何が楽しいの?」
「口説くのが楽しいんじゃなくて、クダリに振り向いてほしいからこうやって必死にアプローチしてるんだけど……」
「ふぅん」
「うわぁ、さらっと流された」
「『告白するふりして相手の反応見て笑う遊び』って何年経ってもなくならないものなんだなあって思っちゃってさ」
嘆かわしいとでも言いたげな溜息をついているクダリを、エメットはまじまじと凝視する。聞き逃せない衝撃の一言がさらりと出たことに驚いていた。
「……え、ちょっと待って、なにそれ」
「何が?」
「『反応見て笑う遊び』って……」
「僕、昔からクラスメイトの女の子を中心によく疎まれてたんだよね。多分、兄さんが僕にべったりで女の子を無碍にするような振る舞いをしてたから、その八つ当たりだと思うんだけど。で、僕を嫌ってた子たちは友達の男の子も巻き込んで、そういう心の柔らかいところに攻撃するような意地の悪いからかいを頻繁にしてきてたんだ。よくあるでしょ、こういうの」
「『よく』は無いんじゃないかな?!」
「そうなの?――まあ、最初はびっくりしたし遠くでくすくす笑ってるいじめっこグループの視線に傷ついたりもしてたけど、何度もやられたら流石に慣れるし、『くだらない連中に構うなんて時間と気力の無駄ですから、何を言われても無視しなさい』って兄さんにも言われたから、そうやってスルーしてきて今に至る、って感じ」
クダリの鉄壁のスルー能力は寂しい過去から学んだ自己防衛なのだと思えば、胸が締め付けられるように痛んだが、それとこれとでは話が違う。
「ってことは、今まで受けた告白、全部断ってきたの?」
「当然。まあ、社会人になってからも『遊び』の標的にされ続けたのはちょっと驚いたけど」
それは遊びでも嫌がらせでもなく、正真正銘本気の告白だったのもたくさんあったんじゃないだろうか。そう思ったがエメットは口にしなかった。言ってしまうとこれから言う言葉の重さが軽くなってしまう気がした。
「でも、ボクの告白は全部本気だよ。神に誓ってもいい」
「あーはいはい」
「第一、こっちに来て日が浅いんだから『遠くでくすくす笑ってるいじめっこ』みたいな子と知り合いになることもないし、毎日忙しいんだからくだらない『遊び』してる暇もないよ。どれだけ忙しくても、どれだけ時間を無駄にしても、どれだけ振られても、それでもクダリに振り向いてほしいし好きだって言い続けたいんだ!」
思わず声が大きくなってしまって少し恥ずかしかったが、当のクダリはそんなのことにも気づかないのかぽかーんと驚いた表情で固まっていた。

青い視線と銀の視線が真正面から合ったまま数秒が経過し、はっと気づいたような顔をしてクダリは言う。
「あ、あー!そういうことか!」
「ようやく分かってくれた?」
「ねえエメット、僕の頬つねって?」
「え、なんで」
「いいから、早く。あ、頬が嫌なら……えーっと、手でもいいよ。はい」
唐突な依頼にエメットは嫌な予感しかせずに及び腰だったが、ご丁寧に手袋を外された手を差し出されて思わずその手を取ってしまった。指を絡めてぎゅっと握ってしまいたい衝動はぐっとこらえる。クダリが今求めているのはそんな甘やかなふれあいではない。
「つねればいいの?」
「そう、ぎゅっとね」
「ぎゅっと、て言われても……」
クダリに痛い思いをさせたくないエメットは、戸惑いながらクダリの手の甲をつまんだ。
「こ、これでいい……?」
つままれた手の甲をクダリはじっと見つめ、しばらくして、納得したように深く頷いた。
「痛くない。――ということは、これはやっぱり夢か」
「え?!」
「あーびっくりした!僕に本気で告白してくる人がいて、しかもそれが『あの』エメットとか、あり得ないよね!もー、こんなリアルな夢見たの初めてだよ」
「ちょ、ちょっと待ってクダリ!何言ってるの!」
「明日エメットに会ったときに変な顔しちゃったらやだなー……起きた時にうまく忘れれてるといいんだけど」
「夢じゃないからね!」
「目が覚めるまですることないな。とりあえずデスクワークしておこうか。それとも、ちょっと早いけどシビルドンたちのごはんにしよっかな」
「聞いて!お願いだから!!」



そこから「これは夢ではなく現実である」とクダリに納得させるのにエメットは1時間を要し、その際ノボリとインゴまで巻き込んだために、『好きな人と恋人になる』ことと『恋人を家族に紹介する』ことを当時に成し遂げてしまったのだった。





お題ったーからの指令は『「青」「悪趣味」「自己防衛」がテーマのエメクダ♀の話を作ってください。』でした。
アニクダくんからDT臭がするというならアニクダ♀ちゃんは喪女なんだろかと思ったらこんなんになってしまった。ごめんね。