BW エメクダ





クダリは腕を組んで考え込んでいた。
「休憩時間は仕事から思考を離して休憩すべき」というのはクダリの持論だが、この考え事は仕事がらみではないのでセーフということにしておく。仕事と100%関係ないという訳でもないのだけれど。

というのも、同僚兼親友であるエメットから告白されてしまった、というのがクダリの目下最大の悩みなのだった。それもほんの2,3時間ほど前、昼休み中にいきなり、何の脈絡もなく。
彼の言う「好き」を最初こそ友達として普通の好意だと勘違いしていたが、その表情が明らかに「言ってしまった」という顔だったので、普通の意味でない「好き」なのだと瞬時に悟った。
びっくりして何も言えないでいると、エメットはすぐさま、
「ごめん、今言ったこと忘れて」
と言い残して、脱兎のごとく部屋を出て行ってしまった。



まさに青天の霹靂だった告白を受けて硬直した思考回路は、昼休みの終了を告げるアラームによって再稼働した。そしてひとまず目の前の仕事に打ち込んで、休憩時間になった今エメットの告白のことをようやくゆっくり考えられるようになった。

なんで今日という日のあの瞬間だったのかということは、まあ気になるが放っておく。クダリには分かりっこないからだ。

次に自分はどうなのかということだ。彼にとって最上の返答は、クダリが告白を受け入れて恋人になることのはずだが、自分はそれを受け入れることができるのか。
そこも正直に言ってわからないことだった。正確に言えば「ピンとこない」。親友だと思っていた相手が、自分のことを親友だと思ってなかったというのは少し寂しいが、それ以上の好意があったという事実は嬉しい。少なくとも気持ち悪くはない。

それでもピンとこないものはしょうがないので、「自分はどこまでの接触なら可能だろうか」ということに論点を移す。
手をつなぐのは、おそらく何の抵抗もなくできる。というかハグまでだったら日常的にやっている。クダリからすることはほとんどないが、元々エメットはスキンシップが激しいたちらしく、それを受け入れていた。まさかそのボディタッチに下心があったかもしれないなんて、今まで思いもしなかったが。
キスはどうだろうか。1度だけ頬にキスされたことがあるが、クダリがびっくりして固まったのを見て「あっ、こっちでは挨拶のキスってしないんだっけ!ごめんね」と謝られて、それ以来されてはいない。頬にされたときも驚きはしたが別に嫌ではなかった。口に、というのを考えると、思考に靄がかかってよく分からなくなる。
そこから先の性的な接触もそうだ。一番「ピンとこない」部分である。だが、エメットが言った「好き」が恋愛的な意味である以上、そこをおして想像しなくてはいけない。そもそもエメットがベッドの上においてどっちの立場でしたいというところまで聞いていないのでどちらも考えることにする。
まずはクダリが男役である方の想定。知識が深くあるわけではない上に靄がかかる思考の中で考えた結果、「正面からヤったらあの長い足が邪魔くさそう」という結論が出た。あまりに色気がない。そもそも自分より背の高い男相手に勃つのかと言う部分も懸念事項だった。雰囲気や押しに流されやすい自覚はあるので、そのときになってみないと分からないが。
次にクダリが女役である方の想定。行為自体は相手に任せておけばいいと投げやり気味に結論づけたが、最終的に「痛そう」というあまりにもあんまりな感想が思い浮かんだ。


「うーん……」
どれだけ考えても「よく分からないが別に嫌ではない」以外の考えが思い浮かばない。しかし嫌ではないから大丈夫かと問われれば、それもよく分からなかった。
「うーーーーん……」
腕を組んだままデスクチェアに最大限にもたれかかって、目をつむって深く深く考え込んでいたせいで、クダリは近寄る人影にまったく気づかなかった。
「クダリ、大丈夫?」
声をかけられて反射的に目を開ければ、視界いっぱいにさっきまでいろいろと妄想していた相手が目に映ってクダリは思いっきり動転した。
「ひゃっ!?う、うわああああ!!」
「クダリ!!」
椅子ごと後ろに倒れそうになったクダリを、エメットが腕を引いて抱え上げる。背後で硬い音を立てて椅子だけが倒れる音がした。
「あ、危なかった……ありがとう、エメット」
「いえいえ。――すごい唸り声あげて考え込んでたけど、もしかしてボクのことで悩んでた?」
「まあ、ね」
「やさしいクダリのことだから、どうやって傷つけないように断ろうかとか考えてたのかもしれないけど、そんなの悩まなくていいからね。クダリの正直な気持ちを伝えて。できれば、友達でいることはやめないでほしいけど……」
「元々友達やめるつもりはなかったよ。それに――」
断り方考えてたわけじゃなくて、と続けようとして、口が止まった。見たこともなかったエメットの表情から目が離せなくなった。
いつものにこにことした笑顔よりよほど薄い笑みなのに、いとおしくてしょうがないという気持ちがあふれ出ているのが一目でわかる表情だった。
もしかして自分の視界の外でもこんな顔で見つめられていたのかな、と思うと靄がかかっていた部分が一気に開けたような気がした。一気に頬に熱が集まるのが分かる。そしてそれら全てが「嫌ではなかった」。
ならばクダリが言うべき言葉はひとつしかない。勝手に諦めムードに浸ってる親友を引っ張り上げるためにも。


「エメット、あのさ――」






「ブロマンス」という単語を調べてエメクダであてはめた時、バッと思いついたものをガッと書き上げた2時間クオリティのブツでした。
つけったーでつけたタイトルなので意味はありません。