うちトコ 愛知+岐阜

※ 愛知さんと岐阜たちの生態を捏造しまくってます(個々の岐阜に名前があるなど)
※ 方言はフィーリング 指摘歓迎
※ 本文内カッコ書き部は岐阜の台詞です 耳には多分「ぎふー」と言っているように聞こえてます





何度か通ったことのある雪の積もる獣道を、美濃地方の岐阜たちと共に行けば、いつも通りカエルの着ぐるみを着た岐阜のひとり"下呂"が出迎えてくれた。
「やっとかめ、下呂」
(ひさしぶりー、愛知。ゆっくりしてってな)
「もちろん!」
道を先導する下呂の背中に「げろ」と書いてあるのに愛知は目をとめ、首を傾げた。
「その着ぐるみ、前のと変えた?」
(僕の名前とカエルの鳴き声が掛かってるって気付かん人もおってな、わかりやすいようにしてみた)
「普通分かると思うけどなぁ?――まあ、些細なことでも『改善』はええことだで」
トヨタの基本概念のひとつを持ちだして一人納得しているが、岐阜たちは「なんか違う気がする」と思いつつ黙っていた。
そうこうしているうちに茂みの中から湯煙と簡素な小屋が見えてきた。この地を担う下呂を筆頭とした岐阜たちと、限られた岐阜県民と、愛知しか知らない秘湯だ。



肩まで湯に浸かり大きく息を吐けば、聞こえるはずのないかぽーんという擬音が聞こえたような気すらする。
「ふぁあー、生き返るー」
(愛知、おっさんくさい)
「うっさいわ。1000年以上生きてりゃおっさんどころか爺さんにも婆さんにもなるがね」
(今日はどっち?)
「あー、今日は爺さんかな」
(なぁんだ残念)
「残念ってなんなん、失礼な」

日本三名泉のひとつであり宿泊施設も充実している下呂の地で、彼らが獣道を分け入ってわざわざこの秘湯に来る理由。それは偏に彼らの体質に依るものだ。
第一に、岐阜たちの体格。身長30cmで大きめのさるぼぼのような体格の彼らが観光施設に出入りしていれば、否が応にも目立ってしまう。県民に見られるのはさほど気にしないが、人見知りするきらいのある彼らは他県民からも奇異の眼差しで見られるのを嫌がった。
二つ目に、愛知の性別。都道府県の概念である面々には性別不詳で通っている『彼』は、時折『彼女』になる。つまり、変動するのだ。しかもその日時はランダムである。
おおよその傾向として、「男性からは女性に見られ、女性からは男性に見られることが多い」らしい。あくまで愛知の主観による観測結果である。その法則に則れば、公衆浴場のどちらの湯に居ても変態扱いされることは明らかだ。
普通の人間どころか概念の面々から見ても異質な彼らとて、日本人である以上広い風呂でゆっくりしたいことだってあるし、露天であればもっといい。
誰にも見られず咎められず、かつ顔パスで融通のきく都合のいい場所。それがここ下呂の秘湯であった。

「別に爺さんでも婆さんでも気にするこたぁにゃーでよ。また最近またよー訊かれるでかんわ」
(そうなん?)
「いちいち説明するのが面倒だで伏せてんのになぁ」
(どうせ50年もしたら忘れるのにね)
(だよね)
長い時間を生きる彼らは、実はもの覚えがあまりよくない。住んでる人の記憶や感情に大きく左右されるからだ。故に、地理的に遠かったり縁の遠い事柄から順に忘れていくし、記憶の残り具合は世代交代によって移り変わる。
(でも気にされるだけましやて)
(僕らなんか個々区別がついてる人のが少ない)
(愛知の頭にくっついてるのが"大垣"とか"各務原"とかで、背中にくっついてるのが『恵那』だって言っても、だぁれも覚わらん。みんなまとめて岐阜扱い)
(うちらは飛騨と美濃の違いすら知られてない地味な県よ)
「世界遺産も観光地もあるのに地味っていうのがうちにはよーわからんけどなぁ。そういや、白川とか高山とかは来んの?」
(白川は忙しくて無理で、高山は来れたら来るって)



そんな身のあるのだかないのなか分からない話をゆるゆるとしていると、たたたっと軽い足音が近づいてくるのが聞こえた。
噂をすれば影がさすとやらなのか、足音が途絶え茂みから姿を現したのは岐阜のひとりである"高山"だった。
「おー、高山!やっとかめー」
(ひさしぶりー)
(都合ついたんやねぇ)
(富山からブリもらったから、せっかくだしみんなで食べよまい)
(ぶり!)
(ぶりきた!)
(愛知は海あり県なのに魚もってこないもんな)
「名古屋港は貿易港だもんで、漁業には門外漢だでしゃーない」
(でも魚欲しい。うちらは魚を求めとる)
(愛知の甲斐性なしー)
「だぁれが甲斐性なしか」
(海なし県がどんだけ美味しい魚介に飢えてるのか知らんな?)
(流通良くなっても、うちらの山国気質はとれとらんで)
(それに、日本人は大体美味い飯に釣られるんは鉄則)
「じゃあこんど一色うなぎ持ってくるで、それでええかね」
(うなぎ!)
(うなぎ!!)
(土用の丑の日に集まろっか)
「うなぎの旬は初冬だがん」
(今じゃん!)
(いやちょっと過ぎてる)
(明日!明日持ってきて!)
「明日はちょっとなぁ」
(来週!)
(愛知は忙しいんだで無理いったらあかん)
「来週な。わかった。頑張って都合つけるわ」
(ほんと!?)
(やった!)
(来週はうなパ)
(来てない他の子も呼ばなな!)
途端に浮かれ出す岐阜たちに釣られて、愛知も笑う。
「ははは、うなパってなんなん。まあ、都合つく限りようけ持ってくるで楽しみにしときゃ」
(うな重ーう巻ー兜焼きー)
「ひつまぶしー」
(ひつまぶしー!)
(うなぎもいいけど、今日はぶり!)
(ぶりとー、あとこれ!)
高山がどんととりだしたのは、その小さな身体のどこから取り出したのか不思議なくらいに立派な一升瓶だった。
(遅れたお詫びー。飲みやすいから愛知や美濃たちもどうぞ)
高山はにこにことして、一合升まで用意して差し出してきたが、どうぞ、と言われた側は若干顔が引きつっている。徳利と猪口でないあたりが下戸に厳しいチョイスだ。
(飛騨たちと違ってうちらが下戸なのしっとるくせにー!)
「でもまあ、勧められたら一杯は飲まなかんわな」
(愛知無理せんでええよ)
「……倒れたらよろしく」
(よろしくって何を?!)
(僕らで看病しろと!?)
(せめて、せめて湯から上がって!倒れたら溺れるから!)

岐阜の下戸組がにわかに慌てるそばで高山と下呂がマイペースに一合升に酒を注ぎすいすいと空けていく。
その横でちびちびと酒をすすっていた愛知が、升を半分も乾さないうちに湯あたりと酔いのダブルコンボで目を回すまで、さほど時間はかからなかった。






たいして役に立たない解説

愛知さんの性別が確定されてない理由を考えてみた。最初は「尾張は男・三河は女」とか考えてたけど、カナちゃんに口説かれてた場所が名古屋市科学館だったので本文のような感じに変更。
彼らは一緒にいるカットはいっぱいあるけど、絡みがあんまないのがちょっと寂しい。岐阜たちはもっと喋ってもええんやで……