うちトコ 愛知+三重(愛三重気味)

※ さらっと捏造設定盛ってます
※ 方言はフィーリング 指摘歓迎
※ 愛知さんを「彼」と呼んでる箇所がありますが、便宜上のものであって性別を確定させているつもりはありません





ぽっかりとできた休日は、ちょうど梅雨の晴れ間だった。
なんとなく愛知に会いたくなって連絡とると、彼は今西三河の神社にいるという返答が来たので、暇に任せて三重はそこに向かった。
こういったとき、三重はあえて時間を決めて待ち合わせることはしない。施設や現在地を教えてもらえれば、具体的にどこにいるかが勘で分かるからだ。これが土地の概念の皆に共通する能力なのか、彼女個人の巫女としての神通力に依るものなのかは分からないが、便利なことに変わりはないので多用している。



聞いていた神社に足を踏み入れて直感が指し示す方に向かえば、紫や白の花が咲き誇る外苑、小さな東屋のそばに見慣れたスーツの後ろ姿が見えた。
その背中にそっと近づいて声をかける。
「綺麗に咲いとるね、花菖蒲?」
「カキツバタだがん」
「ああ、県花の」
こくりと首肯するのが横目で見えた。
花菖蒲は三重の、カキツバタは愛知の県花だが、どちらもアヤメ科アヤメ属の植物なだけあって、花や葉の形はよく似ている。
『いずれがあやめ、かきつばた』なんてことわざもあるくらいだし見分けなんてつかないけど、と三重が思っていると、その考えを読んだように愛知が補足を挟んだ。
「花びらをよく見りん。根本んとこが黄色くなってたら花菖蒲、白かったらカキツバタ。ついでに言うと、網目模様が入っていたらアヤメやね」
「へえ、そうなん?」
その知識そのものよりも、彼がそれを知っていることが意外で三重は瞠目したが、前にも同じように驚いた記憶が浮上する。
無意識に派手好みで成金趣味みたいなところのある愛知の県花がこの花だと知ったときは、そのミスマッチさに少し驚いたものだった。
だが、「どちらかわからない」「見分けがつかない」というところは愛知本人にどことなく似ているような気がすると、今では思う。そこをつついて聞き出そうとすると面倒くさそうな顔で話を濁されるので、深くは訊かないようにはしているのだけど。

「今日はなんでここに来たん?」
「ここの例祭がGWにあったんだけど、忙しくて来れんくてなぁ。忙しいのが一段落したら6月になってたもんで、だったら花だけでも見とこうかと思って」
この日に暇だったのは愛知も同じだったようだ。
「三重と一緒にこうやってかきつばたを眺める日が来たっちゅーのも、感慨深いなぁ」
「うちと何か縁があったっけ?」
「『三重』というより『伊勢』とだけどな」
不意に呼ばれた旧名から記憶を辿れば、遥か昔の歌人とその代表作が思い浮かんで、三重はひとつ苦笑した。
「はるばる来ぬる、ってほど遠くもないね、うちらは。今はお隣さんやし」
「ああ。だからこうやって二人で見ていられる」
深い声で肯定され、花畑から目を移し隣のひとを見れば、見たこともないくらい優しい眼差しで見つめられていて不覚にも心臓がどきりと跳ねた。
「時間をかけてじっくり旅をするのも悪いとは言わんが、うちはこうやって顔を合わせて話したい。いつだって、何度だって」
「な、なに言うとるの」
「本心だがね」
てらいのない言葉に顔が赤くなるのを止められず三重はそっぽを向いた。こういうとき「あげておとす」ことをしないあたりが、近畿とは違うなと思う。そもそも「なんとなく会いたくて」という理由で車を飛ばしてきたのは彼女の方だから、この言い合いは分が悪い。
そこまで考えて、ふと車に置いてきた手土産のことを思い出した。
「あんまからかうと持って来た赤福あげんよ」
この一言は、あんこ好きの甘党の彼には覿面に効いた。一気に顔が崩れ、期待に目をきらきらさせながら三重にねだる。
「赤福!あるなら早よ食べよまい!」
「愛知はほんと赤福好きやねぇ。名古屋にも売っとるのに」
「あれは名古屋土産用だで。三重が直接持って来たんとは別だがん、こう、感覚的に!」
平然と名古屋土産と言い張るところにはもうつっこまないことにした。愛知のジャイアニズムは今に始まったことではない。
「じゃあ取ってくるで、東屋で待っててな」
こくこくと子供のように頷く彼を置いて、三重は駐車場に向かった。



少し早めてた足を緩め、三重はつらつらと考える。
変に照れてしまってその場から離れたかったがための言い訳だったから、不自然だったり演技くさかったりしなかっただろうか。いつか「愛知さんはシュッとしとらんといかんの」と言ったこともあったけれど、あんまりシュッとされても困るだなんて、勝手すぎるかもしれない。
でも、ひとのものを自分のもの扱いするどころか三重そのものを自分のもの扱いして少し鬱陶しく思うこともあるけれど、隣人のそんなところがなんだかんだで気に入っているのだ。
あんこに目を輝かせたり、酒にやたら弱かったり(これに関してはひとのことを言えないが)、せっかくこっちがレースクイーンの恰好をしてるのに半泣きで半纏かぶせてくるような情けない姿を見せてくれているほうが、変に格好つけられるより余程いい。
「絶っっ対本人には言わないけど!」
決意するように三重はひとり呟く。それでやっといつもの自分が取り戻せた気がした。

その「いつもの自分」が、赤福を食べる愛知を優しい眼差しで見ていることを、彼女はまだ知らない。






役にたたない解説

友情以上恋愛以下(未満ではない)な関係の二人が好きです。
花菖蒲についてもつっこんだ話させたかったけど、花菖蒲か県花になった理由が検索してもひっかからなかった。