01:前兆
封神 飛虎聞





昼間なのに薄暗い寒空の下を大きい図体を竦めながら、飛虎は禁城の中に入った。
すると丁度聞仲と鉢合わせた。手には小包を持っている。
「よお、聞仲。何持ってんだ?」
「飛虎か。これは両殿下がくださったのだ」

そのときも聞仲は廊下を歩いていて、太子達と出会った。
「ぶんちゅう、マントの中に入れてー!」
「入れてー」
突然のことに驚いたが、二人があまりに薄着なことにさらに驚いた。
「こんなに寒い格好で…!風邪でも引いたら大変です」
「さっきまで剣のおけいこしてたのー」
「だからぬいだのー」
「それは感心なことですが…ほら、これを」
と聞仲は外套を脱いで小さな二人に巻き付けた。
「ぶんちゅうはきなくていいの?」
「私は道士だから平気です」
「へぇー。ありがとー!」
そう言って二人は自室へ駆けていった。
数時間後。
また聞仲の名を呼ぶ声がした。振り返ると、今度はきちんと防寒服を着た太子二人が、幼い彼らには手に余る長いマントを抱えていた。
「貸してくれてありがとー!」
「ありがとー!」
自ら出向いてくれたことに嬉しく、聞仲は笑みをこぼした。
「そんな、使いの者に渡しておいてくださればよかったのに…」
「わたしたいものがあったの」
「かしてくれたおれい!」
そう差し出されたのは、2つの蒸したての肉まんだった。
「さめないうちにたべてねー!」
言い残して二人はまた駆けていった。
そうして今に至る。

「ふぅん」
経緯を聞いて納得した飛虎は、いつの間にか聞仲の執務室に着いていたことに気付いた。
聞仲は普段通り仕事机に向かう。そして、手元のまだ湯気の立っている肉まんを見、万年夏服の飛虎を見、また肉まんを見た。
「飛虎、食べるか?」
そう言って片方の肉まんを差し出した。
「へ?」
暫しの沈黙。
「ひとつ食べる間にもうひとつ冷めては殿下のご好意が無駄になると思ったのだが…いらないなら私が一人で食べる」
「いや、もらう」
しばし唖然としていた飛虎は、慌てて受け取った。
この聞仲という男は確か、陛下や殿下からいただいた物はどんな些細な物でもこれ以上なく大切にする奴だと思ったが…。
と、そこまで考えて、指先から温もりを感じながら、飛虎は誰かから聞いたひとつの言葉を思い出した。
冬は寒いから暖かさを求め人に優しくなれる、と。
ああ、そうか。
「何をにやにやしてるんだ、気持ち悪い」
「いや、なんでもない」
飛虎は思わず弛んだ頬を引き締めるつもりはなかった。
こんなことを言えば、聞仲は照れて意地でも肉まんを奪い返すだろう。こいつはそういう奴だ。
「冬も悪くないな」
肉まんを頬張って飛虎が呟く。
「ああ、確かに冬も悪くない」
飛虎の考えていることも知らず、聞仲が同意する

いつの間にか外には冷たくて暖かい雪が降っていた。






あんま「前兆」関係無い…
道すがら聞いた「冬は人にやさしくなれる」ということばを使いたかっただけです。
脳内聞仲ツンデレ祭り開催中(開催期間無期限)