13:天敵
封神 飛虎+聞仲





古今東西王様とは宴が好きなもので、紂王もその例に漏れず、そしてまた都合が合えば紂王の側に国の重鎮である太師と武成王が護衛も兼ねて参加するのも決して珍しいことではなかった。
それが何の名目だったかは誰も覚えていないが、その日もいつものように宴を開いていた。
ふと紂王は、聞仲が酒を全く飲んでいないことに気がついた。思い返せばこの不老の太師は、先王つまり紂王の父の代からそうであったように思う。いくら勧めても断るのだ。
嫌だ嫌だと言うならなおさら飲ませてみたいものである。それが人の心というものだ。
紂王は召使に酒を持ってこさせ、
「聞仲、酒を飲まぬお前のために特別な茶を取り寄せた。是非受け取って欲しい。いつも水だけではつまらないだろう」
「私のために…、ありがとうございます」
「予への忠誠の誓いの盃だと思って是非ぐぐっと飲んでくれ」
側にいた姜妃が紂王の企みに気付き止めようとしたが目配せで黙るように示した。 そのときには飛虎は席を外していて、他に止める者も居らず、聞仲はそれと気付かないまま酒をあおった。
するとみるみるうちに顔に朱がさし、
「陛下、これは…」
「ははは、これは禁城にある一番辛い酒だ。まさかおぬし下戸か?」
その言葉を聞き終わるか終らないかのうちに聞仲は眠りこけてしまった。

少しして飛虎が帰ってきた。もちろん聞仲の様子がおかしいことにすぐ気がついた。
「ど、どうした聞仲?! うわ酒臭っ」
「なに、この付き合いの悪い太師に少し飲ませてやっただけだ」
それを聞いて飛虎はすぐに青ざめた。
「飛虎、どうかしたか?」
「聞仲はすごい酒乱なんですよ! 俺も前に飲ませたことあるんですが…」
考えることは皆一緒らしい。
「…たまたま武装してなかったのが不幸中の幸いってほどの暴れっぷりでした」
「何っ!? 確か今聞仲は…」
二人同時に気がついて、聞仲の重いマントを捲ると、主の護衛も兼ねているのだろう、当然のように禁鞭が鎮座していた。
さっさとそれを放り投げて武装解除したいのはやまやまだが、いかんせん二人とも仙道ではないためこのスーパー宝貝には触れることも出来ない。
心中はちょうど、解除出来ない時限爆弾が手元にある心地である。
「…とりあえず、こいつが起きないうちにこの場から離します!御身のためにも、以後どうかこのようなことはなさいませんよう」
「承知した」
紂王も青ざめて頷いた。いつもの理性的なときすら怒れば相当なものなのに、我を忘れて暴れる様子なんて想像に余りある。
「黒麒麟、居るか?」
「なんでございましょうか、武成王さま」
「こいつを至急家まで送って欲しい」
「かしこまりました」
そして飛虎は寝ている聞仲を担ごうとし、彼の両肩を持つと、
「ん…んん」
時限爆弾が目を覚ました。
「げっ」
「貴様、誰だ」
「この距離で俺を見間違えるなよ…」
起き抜けの思いがけない台詞に、こぼれた呟きをこの酔っ払いが聞いてるはずもなく。
「夜襲か!盗賊か! 貴様ごときが私に手を触れるなど500年早いわ!」
そう言うが早いか、とても酔ってるとは思えない身のこなしで距離を取り、禁鞭を構えた。こういうときに日頃の鍛練が裏目に出る。
いつの間にか、一連の流れを聞いていた紂王や姜妃、召使達は逃げていた。

「ちょっ…待てって!」
「問答無用!!」

びしばしばしばし…
がしゃぁんがらがらがら…


騒音がおさまった後に人々が見たのは、ほぼ全壊の四阿と瓦礫に埋もれる瀕死の飛虎だった。

四阿の修繕費は太師の給料や貯蓄からは決して出ないものではなかったが、完全に修繕されるまで聞仲は激しい自己嫌悪に陥ったという。






最初思い浮かべてた「天敵」とは別の方向に走ってしまった…。とりあえず、予定調和?
ていうかあのAGM公開されてから1ヶ月経ってこのネタってどうなのよ。自分の遅筆が憎い。
飛虎ファンに心から土下座。