20:欲望
封神 乙・ナタ・雲・雷





封神計画が終わって数年経ったある日。太乙の洞府で、お土産を持ってきた終南山師弟が洞主と一緒に夕食をとっていた。弟子の方は文字通り『遊び』に、師匠の方は宝貝研究のこととなると生活全てを忘れる友人をからかいに心配して。

「あ、この揚げ物美味しいね」
「そうかい?確かこれはこの間遺伝子組み換えした南瓜だったかな。育ちも従来のより13倍ほど早かったし、蓬莱の土壌にあってるのかも知れないねぇ」
「…もしかして、私は実験台にされたのかな?雲中子」
「私も一緒に食べてるんだからいいじゃないか」
「……。」
「オレはもう雲中子の実験台になるのは嫌だからな!!」
「といいつつ君が今口に入れてるのも私が育てたんだけどねぇ?」
「げ、この苺もかよ! ここにはまともなモンはねぇのか!!」

そんな長閑で賑やかな空間を、キィィィィンという音が割った。 間も無く窓から現れたのは、買い物袋を提げたナタク。
「おかえり、ナタク。ごくろうさまー」
太乙に買い物袋を渡して、食卓の方を見遣り、ナタクは少しだけ不機嫌そうな顔をして部屋の端に座った。
それに気づいた雷震子が問う。
「ナタクは飯食わねえのか?」
「必要ない」
「別に機械油で動いてる訳じゃねえんだろ?」
「私が創ったんだから、勿論人間の生命活動は全部できるようになってるよ」
「だったらナタクもこっち来いよ。こんな馬鹿師匠の作ったモンでもそれなりに美味えぞ」
「要らない」
「なんでだよ!」
「オレは宝貝人間だ」
「ンなこと知ってら」
「『人間』とは違う」
「……」
「人間と違って効率よく動くようにできている」
「……」
「体も人工の物だから、蛋白質もビタミンも要らない」
「……」
「エネルギー源と熱を冷ますだけの水分があればオレは動ける。だから要らない。オレには無駄なも――」
「あ゛ーもう長ぇ!!」
大した時間ではなかったが雷震子は堪えきれずに、食卓の握り飯を喋ってる途中のナタクの口に押し込んだ。
「むぐッ!」
「効率がどうとか無駄だとか、ンなことはどうだっていいんだよ!
飯を食うってのは要るか要らないかじゃねえ!現に何日か食わなくてもやっていけるウチの馬鹿師匠や他の仙人も毎日3度の飯食ってんだろ!」
そしてナタクが握り飯を嚥下したのを見届けて、雷震子は訊いた。
「どうだ、美味いか?」
「…美味い」
「だろ? 食いモンもできるだけたくさんの『ひと』に美味いって食われるのが一番幸せなんだよ」
「『ひと』…」
「分かったら早くこっち来いよ」
雷震子に招かれるままに、ナタクは空いた席に腰を下ろした。

「君も大概強引だねぇ… 全く誰に似たんだか」
「無断で他人いじるよりか、強引でも向こうが納得してんならいいんじゃねぇの?」
「いつまでそのネタ引きずる気だい」
「オレ様の気の済むまでに決まってんだろ。
じゃ、ナタクも加わったことだし、気を取り直して」
「「「「いただきます」」」」







雷震子は、もともと孤児だった云々もあって、何をするにも「家族的」なのを大切にすると思うんですよ。それをちょっとずれた形で拘らせてみました。 いつのまにか太乙ンちの食卓リードしてますよ、この子。