27:三分の理
ケロロ軍曹 ギロ夏(擬人化)





ある日家に帰ったら見知らぬ人が歩き回ってたら、誰でも多少なりとも警戒するだろう。しかも、丈の足りないピンクのジャージを着て、高い背を持て余すようにしていて、ときどき鴨居に頭をぶつけて呻いている男なんて。
こんな怪しい者でも客だったらいいが、そうでなかったら叩きのめしてから通報してやろうと構えて、夏美は声をかけた。
「あんた誰…じゃなくて、どなたですか?」
「な、夏美…」
聞こえた低い声は、確かに聞き覚えのある、庭先居候の・・・
「ギロロ!?」
「そうだ」
180cmを越えるがっしりした体躯や浅黒い肌には彼の姿は見る影もなかったものの、瞳と同じワインレッドの髪はケロン体の時と同じ色だったし、いつも怒ってるような鋭い目つきや左頬にかかる傷、無愛想な口調は夏美の知る他の誰でもなかった。
「どうしたのその体!」
「クルルの野郎に実験台にされた・・・」

それは数刻前。ガンプラ買いたさにケロロが駄々をこねたことから始まった。地球人スーツじゃかっこ悪いし動きにくいから嫌だと言い出したのだ。
そんな「面白そう」なことをクルルが逃すはずもなく、命令される前にさっそく蛙地球人化銃<ヲトメノモウソウドコマデモガン>を作った。
どうやら成功したらしく、ケロロは早速銃の光線を浴びて止める間も無くおもちゃ屋に直行したのだが、たまたまその場にいたギロロも「センパイもどうです?」とかなんとか言われて光線を浴びてしまった。 そして怒ったギロロがクルルに掴みかかって、勢いで銃が落ち、壊れてしまった。治るまでに最低1日かかるそうだ。

「その顔と格好で外に出たら不審者として通報されない保障はないぜぇ。そうしたら地球侵略計画はどうなるかな・・・くっくっく」
あのカンに触る笑い声を思い出したギロロは、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「それにしても、その服どうにかならないの?それママのでしょ?」
「すまん、これしかなかった」
もともとあの銃はケロロのために作ったものなので、ギロロの分の服を用意してあるはずは、当然、無い。 後ろめたい気分はしながらも腰にシーツを巻いて必死で漁った結果がこれだった。
そして夏美はギロロをじっと見て、ちょっと待ってて!と言い終えるか終えないかのうちに二階へ消えた。しばらくばたばたと音がして、どこから出したのか男物の服を抱えて戻ってきた。
「これに着替えて!」
その服を押し付けられて、ギロロは風呂場に押し込められた。

数分後、
「これでいいのか?」
筋肉の付いた腕を惜しみなく露にした黒い無地の襟首広めのノースリーブ、迷彩柄の長ズボンに身を包んだギロロが、当惑気味に出てきた。手には、暖かいこの季節に室内で着るにはやや暑そうに見える、ジーンズ生地の上着。ケロン体のときにたすきがけしてかけていたベルトは、長さを調節してズボンのベルトにしてしめてある。
「あ、上着は腰に括って。そうそう・・・うん、いいんじゃない?ちょっと地味だけどさっきより数段マシね」
満足そうに夏美は微笑んで、それを見たギロロは少し紅潮する。
「そうだ、これ忘れてた。ギロロ、ちょっとしゃがんで」
「? こうか?」
言われて、片ひざを折る。
「そのままちょっとじっとしててね」
そして夏美はギロロの首に抱きつく格好になった。
「な、なッ・・・なつ・・・・・・ッ!!!」
驚いて立ち上がろうとするのを、夏美が制す。
「動かないで!」
止まりはしたものの、あまりの顔の近さに照れて頭から湯気が出ている。 夏美がギロロの首のうしろで何かやっているのは頭の奥ではわかっているが、耳元で「あともうちょっと」などと聴こえる夏美の声に、既に意識朦朧としていた。
「よし、出来た!これならもう街に出てもはずかしくないわよ」
夏美が離れたあとには、胸元に銀のプレートがついたシンプルな銀のネックレス。
「それ、私のだけど合わなかったからあげるわね。明日靴とか他のアクセみつくろうから、ちゃんと来なさいよ!」
そう言い残して夏美は自室に帰った。
先ほどの湯気の余韻も残る中、デート(?)の約束までしてしまったことを理解したギロロは、またボッっと湯気を出して、帰宅した冬樹に発見されるまでその場に座り込んでいた。

「くっくっく・・・本来ならもっと騒ぎが大きくなるはずだったが、相手があの日向夏美なら仕方がない」
日向家に各所に設置された監視カメラの映像を見てラボで一人呟くのは、事の起こりの黄色い蛙。
「本当にあのオッサンは見ててあきねぇぜ。この調子なら錠剤型や獣体変化とかもいけるな・・・くっくっく・・・」

『地球侵略』の名の下に実験体にされる運命の、哀れな恋愛初心者に幸あれ。







嗚呼、愛するがために書いてしまったよ、ギロ夏。専門外なのになー。
髪色がワインレッドは夢見すぎですね。オフィシャルはくすんだ色だった(笑)
ちなみに、もらったネックレスをギロロはケロン体のときにはベルトの中に写真と一緒にいれている、という後日談があったりなかったり。