09:ナイフ 思わぬ置き土産は、銀に煌く光と紅が眩しい甘味だった。 赤い兎
「おはようございます!」 いつものように朝、獄寺は沢田家に行く。 しかし家から出てきたのは待っていた相手ではなくその母親で。 「ごめんね獄寺くん。ツナ今日は休みなの。熱だしちゃって・・・」 「今寝てるんだけど、それでもいい?」という彼女の問いに丁寧に答えて、たった今超高速で買いに行ったフルーツ詰め合わせを携え、獄寺はツナの部屋に入った。 当然のことだが、ツナは寝ている。顔は紅く、額には濡れタオルが置いてあり、うなされているのか表情が曇っている。苦しそうな様子に、思わず「大丈夫ですか十代目!」と叫びそうになって、寸前で止めた。起こしてはいけない。 少々じれったい気分になりながら、せめてもとタオルを取り替えた。心なしか息が落ち着いたような気がしてほっとした瞬間、はたと気づいた。 『お見舞いって何をすればいいんだ・・・?』 幼少の頃は姉のポイズンクッキングでよく病院送りになってはいたがほとんど寝込んでて記憶は無く、成長してからは見舞いに行くほど親しい友は居なかった。 学校は勢いでずる休みしてしまったし(しかし本人はズルという気は毛頭無い)、でもツナの傍を離れるのが嫌で、少し考えてから指輪をはずし懐から万能ナイフを取り出して、買ってきたリンゴを手持ち無沙汰に剥く。いつもは火薬や銃を触っているその指は驚くほど器用に手早く仕事を終えた。また、暇になる。 部屋のものを漁るのは流石に失礼なので、なんとなく枕元にぐっと近寄ってみる。安らかな寝顔。 『今なら、あれ、大丈夫かな・・・』 「あれ」というのは、頬にキスをすることである。ツナと知り合ったばかりの頃、イタリアでは挨拶だったそのままのノリでツナにもしようとしたら物凄く照れられて、それ以来自粛していたのだ。 『起こさないように、そーっと、そーっと・・・』 顔と顔の距離が、30cm… 10cm・・・ 5cm・・・ 4・・・ 3・・・ 2・・・ 1・・・ 「う〜ん・・・」 タイミングがいいのか悪いのかツナが起きはじめた。獄寺は驚いて思いっきり飛び退り、後ろにあったテーブルにぶつかって盛大な音を立てた。 「誰ッ!?・・・獄寺君?」 「あ、すいません十代目!起こしてしまって・・・」 「別にいいよ。 それにしても、その手・・・!?」 ツナの視線の先には、血で紅く染まった獄寺の指。深く切れたのか、意外とどくどくと勢いよく血が出ている。 「ああ、さっきぶつかった拍子にナイフで切っちゃったみたいですね。大したこと無いですよ」 「でも結構血出てるじゃない!手、貸して」 いつにない強気な調子で言われて、おずおずと手を差し出す。 「早く止血しなきゃ。化膿したら大変だよ」 ぺろん。 いきなり切った指をなめられて、獄寺はまた驚き大きく飛び退った。頬が紅潮している。 「ど、どうしたの?」 「いや、いいですッ!!自分で出来ます!では!」 「獄寺君?」 呼び止める声も聞かず、獄寺は猛ダッシュで部屋から飛び出していった。 「どうしたんだろう? あーあ、部屋ぐちゃぐちゃ・・・」 獄寺のオーバーすぎるリアクションでものがいろいろ散らばっている。いや、その前からたいして整頓されてはいないのだけれど。 その中に、さっきまでいた客の痕跡がちらほら。 いつも獄寺がつけている銀の指輪。イニシャルの入った万能ナイフ。そして見慣れない紅い物。 「これ・・・りんごうさぎ?」 いいとこ育ち故の癖なのか、彼なりの気遣いなのか、可愛らしいフルーツが奇跡的にもきちんと皿に載って残っていた。 いつも殺気立ってるダイナマイト・ボムの、意外な一面を見た気がして、ツナはくすくすと笑い、 『明日会ったら、忘れ物と一緒にお礼も言っておこう』 きっと彼は、忘れ物を届けさせてしまったことを悔いたり慌てたりしてお礼の言葉を受け取るところじゃないだろうけど。 そんな様子が容易に想像がついて、またくすくすと笑って、ツナはもう一度ベッドに入った。 ツナが別人で、ご め ん な さ い !!自分が他人の視点でコレ読んだら、「誰だお前!」って問い詰めるよ! もうちょっと膨らませたかったのに、半端に不完全燃焼で鬱。でも獄寺はこれくらい初心だといいです。 原作でも風邪ネタやったとかどうでないとか聴きましたが読んでないので知りませーん。2巻までしか読んでませーん。 とりあえず獄ツナは原作者公認CPだと思います(待て |