010:catch 封神 ※if設定 038:lifeと034:keepの続き オリジナルキャラ注意 あのひとを引き止めなきゃいけないと直感したときには黒衣の男は騎獣に跨って天高く飛び去ったあとだった。何故そう思ったのかも、どう声をかければいいのかもわからないまま、仮面を握り締めたまま彼が去った空を呆然と見詰めていた。 その不思議な感覚の理由を訊きたくて父親に事の顛末を話したら、今までやったどんな悪戯の仕打ちよりもひどく叱られて、結局『聞仲』と名乗った彼は本当に仙人界に通じる人でこの国のすごく偉い地位にいることしか分からなかった。 その日から俺は心を入れ替えたように勉学に励んだ。 親父の跡を継ぐためでもなく朝歌で立身出世するためでもなく、懐かしそうな安堵したような寂しそうな瞳で見つめてきたあのひとに会いたいからという理由だったけど、それ結果的に親の意向に沿っていたから言われたままに歩んでいた。 敷かれた道筋から唐突に逸れたのは、俺が成人した日。親父が俺をこんな辺鄙なところの跡継ぎにすると言い出したから、後先考えずに飛び出してしまった。止める家人の声も聞かず、簡単な手荷物と長年触れ続けてぼろぼろになってしまったあの日渡された仮面だけ持って俺は朝歌へ向かった。 「おぬし、ちょっと占いしてみんか」 朝歌で俺を引き止めたのは、食えない笑みを浮かべた占い師だった。 「…俺のことか。悪いがそんな道楽に費やしてる金はないんだ」 この言葉に嘘はない。ほとんどこの身一つで出てきたようなものだったから。 「なに、わしの興味ですることよ。金は取らぬ」 「本当だろうな」 「なんだったら王の前で誓ってもよいぞ。――ふむ、やはり面白い魂の色をしておるのう」 「……?」 「波乱の多い生であったのに、碌に休まず早う帰ってくることもなかろう『飛虎』」 「…?なぁ、占い師なら分かるように話せよ」 俺の言葉は聞かず占い師は俺の手にあるものと王宮とを見比べて、勝手に得心したように頷いた。 「なるほど、そういうことか……おぬし、城へゆくのじゃろ。この国の太師に会いに」 「――ああ」 唐突に言い当てられてぎょっとして後退ると、占い師は穏やかな眼差しを向けていた。 「身分が身分じゃから形式に則って人を通してから畏まって会おうとしているのかもしれんが、おぬしなら無礼なくらいに直接乗り込んでいっても構わぬ。むしろあやつは砕けた口調を喜ぶかもしれんのう」 俺は王宮を見上げる。あれに乗り込んでいく、なんて俄かには信じられない。でも。 「アンタあの人を知ってるのか?」 再び占い師の方を向くと、両目の下に奇妙な形の痣のあるそいつは居た痕跡すら残さず消えていた。 朝歌について役人に仮面を見せると、あっさりと太師執務室に通された。こんな簡単でいいのかと思うくらいに早く。いや、通ってきた距離も警備兵の人数もそれなりに居たから、ザル警備なのではなく仮面の威力が凄いのは馬鹿な俺でも分かった。 ただの約束の証と思っていた物の偉大さに驚き、広い王宮を闊歩するのは初めてでは無い心持になって更に驚いた。脳裏にさらさらと流れていく風景と間取りは違えど、この感覚はむしろ慣れ親しんでいる、と歩くうちに疑惑から確信に変わった。何か大切なことをぼんやりと思い出しかけている。ガキの頃のあの日にあのひとが俺に仮面を託した理由と占い師の不思議な言葉がゆっくりと理解できかけていた。 大きな扉の前で立ち止まる。案内をしていた兵士はもう居ない。 この向こうにあのひとがいる。昔会ったときの独特の気配がある。 俺はもう初めに言うべき言葉を知っていた。だから俺は躊躇い無く扉を開いた。 「久しぶりだな、聞仲」 「catch:捕まえる・追いかける」 突発思いつきから始まったif設定ですが、一応これで完結です。 シメがオリジナルキャラ視点ってどうなの、と自分でも思いますが勘弁してください。 |