037:letter
BASARA 政小
こっちを読んでからじゃないと分かりにくいです





早計だったか。やはり命令で侍らせるのは間違いだったのだ。
手元にある政務の書簡は全て目を通し終わり仕事が一段落したあと、そのようなことを考えながら政宗は新しい紙を取り出し筆を握りなおした。

何が契機だったのか、政宗は記憶していない。「閨に侍れ」と言ってしまったことに自分で驚きあまりにも動揺してしまっていたからだ。
即座に断られるかと思っていたのに、色小姓より随分と歳をとっていることを淡々と確認され淡々と承諾されたことが深く印象に残っていた。



「どうもこういったことは慣れなくていけねえな」
求めればなんだって手に入る。だけどいっとう欲しくて代わりの無い、たったひとりのこころが手に入らない。一番短絡的な方法で引き寄せたと思っていたものが、前よりも遠ざかったかのようにすら思える。
そんな懊悩を書きなぐって、最後に思い浮かんだ恋歌を綴る。
「こんなこと伝えてもあいつは喜ばねえんだろうな…いや、その前に本気にされないか」
怒った顔も笑った顔も全て、従者という名の衝立を隔てた向こう側の表情だと思えばますます気が滅入る。
大きく溜息をついた後、墨が乾いた頃合いを見てその紙を綺麗に折りたたみ懐へ入れた。ふと目についたギヤマンの壜を手に取り、向かう場所はひとつ。席を外す旨を置き手紙に残さないのは、少しでも長く小十郎に自分のことを考えていてほしいという子供じみた自己主張であった。



「あのギヤマンが気になるか」
「え、いや…随分と長くあの場所にあったものだと思いまして」
「欲しいなら譲るぜ」
「然様な訳ではございませぬ」
「そうか?これからの商談もそうだが、欲しいモンがあったら遠慮なく言えよ。お前は褒美を受け取らなさすぎるからな」
「……承知いたしました」
少しだけ困ったような声音を含んだいらえに、政宗はまた本音を噤む。『抱えきれない愛情をお前だけに受け取って欲しい』なんて、愛する人をもっと困らせるだけだと思ったから。



小十郎は知らない。宝物庫の奥の奥、闇に目が慣れなければ見つからない場所に黒塗りの箱が幾つもあることに。それらの中には小十郎に出せなかった恋文とが折り重なって詰まっていることに。
手紙の束は二人が共に過ごした年月だけ、焼き捨てる頃合いも見つけられないまま森の落ち葉のように重なっている。ほとんど日記のようになったそれは、この日もまた一葉秘密裏に降り積っていたのだ。






「letter:手紙」
小十郎救済措置in政宗様side
やっぱりすれちがい。