038:life 封神 飛虎聞<死にネタ・パラレル注意> ※「飛虎も聞仲も易姓革命で命を落とさず周の重鎮として生きていたら」というif設定 一つ蝋燭の灯る暗い部屋に、横たわった年老いた男と、その側に座した歳若く見える外套の男が居た。 「なぁ聞仲、俺は仙人骨がありながら人間であるこの身を後悔したことはなかった。仙道になる修行なんて辛くて苦しいモンばっかだっただろうし、下界にいたからこそ家族ができて、お前に会えて、生きることに倦むこともなく暮らしていけたからな」 「飛虎、私は仙道として修行を積んだことを後悔したことはなかった。不老の身になったために、殷のために生き、一貫した志で王の補佐をすることで指導者の変化による世の揺らぎを抑え、周王朝になった今も過去の経験から成る意見を述べることができるからだ」 「だけど俺は今、人間として生きたことを少し後悔してる。俺は人間だから、聞仲、お前と同じ刻<とき>を生きることが出来ない」 「私も今、仙道として生きたこの身が憤ろしい。どんなに親しかった王との別れよりも、どんなに聡明だった王との別れよりも苦しい別れが今迫っているからだ。飛虎、魂の片割れとすら思えたお前と同じ時代同じ刻を生きることが出来ないのが、私の生涯で一番、身が千切れるよりも痛くて辛い」 「魂の片割れ、か。はは、大袈裟だな。聞仲らしくねぇ」 「大袈裟なものか。この期に及んで本心以外の言葉を口に出来るほど私は器用じゃない」 「そうだな。…なぁ、人の魂が地上から消えたあとどうなるか知ってるか?」 「不死の身で此処にある以上、死の深淵を覗いたことは終ぞ無い。どれだけ長い刻を研究や学問に費やして生きようと、それだけは知りえない」 「俺はな、聞仲。人の魂は、天に行ったあとに、前の記憶を無くして新しい命として生まれ変わると聞いたことがある。そしてそうであってほしいと思ってる」 「誰も実証したことのない定説だ」 「もしそうであってもそうでなくても、どうにかして、根性で俺はまたこの地に生まれて来ようと思う。お前に会うためだけに。そのとき、もしかして今の記憶を無くしているかもしれない。それでもお前は俺に、俺の魂である誰かに会ってくれるか?」 蝋燭の灯火が揺らめくだけの暫しの沈黙。その後。 「私を誰だと思っている。殷の時代に王の教育や各州の制圧をしながら300年支え、さらに周王の補佐も努めている聞太師だ」 「その通りだ」 「いかに天下広しと言えど不老のこの身がある以上、何十年何百年経とうと、お前が天の高みや地の果てに居ようとも我が魂のもう半分を探せぬはずがなかろう。必ず見つけ出してみせる」 「そうか……。その言葉だけで俺は安心して逝ける」 「だから必ず帰って来い」 「解った。じゃあ、またな」 「ああ、また会おう」 灯火が消えると同時に、嘗て武成王と呼ばれた男の命がこの世から去った。 儚げな灯りが光を失ったのと同時に、冷ややかな仮面の下から数多の雫が落ちた。 「life:生命・人生」 仙と人がひとところに生きる封神の世界は、東方シリーズの幻想郷に似てると思ったときに、生きる時間が違うシチュが書きたくなった。 ここでも一旦終われるけど、こっちに続編があります |