057:perfect
BASARA 政小 パラレル・シリアス
018:dutyと同じ設定(吸血鬼政宗・執事小十郎)です
※流血表現あり 小十郎がちょっと外道かも





煌く銀のナイフを投げて、ならず者の動きを鈍らせる。這い蹲るように逃げようとする標的に歩み寄って佩いた黒い刀で袈裟斬りにすれば、獲物は完全に動きを止めた。それが今夜の護衛兼狩りである仕事の最後の一太刀であった。
その一太刀で噴出した返り血を手だけ念入りに拭って、小十郎は背負った袋から硝子の水差しを取り出した。口の部分が竜の頭になった誂えのそれは政宗のお気に入りのひとつだ。
そこからの作業は慣れ故に手早い。血が乾かないうちに伏した骸の首を裂き水差しに血を注ぐ。今夜この山に近づいた身の程知らずは5人だったので、繰り返すこと5回。回収率の悪いこの作業も、これだけ揃えば大き目の水差しが2つ分血液で満ちた。
「これだけあれば半年くらいはもつだろうな」
小十郎は紅がかかった顔でニィと笑って、二つの水差しの時間を凍らせた。そうすれば中身は酸化することなく鮮度を保った真紅のままであり続ける。

ふぅ、とひとつ大きく息をついてから回収したナイフと水差しを袋に戻そうとしたそのとき、頭上から声が降った。
「小十郎、こんなとこに居たのか」
空を飛んでいた政宗は小十郎の横にふわりと着地して、着脱式の羽を外した。蝙蝠の翼を模したそれは眼帯と同じく政宗の体の一部であってそうでないもののひとつであったが、悪魔みたいじゃねえかと言って政宗は好んでいない。しかし長距離移動をするときに空路はやはり便利なので、被っていた埃を払って時々引っ張り出すこともある。
「政宗様……一人でお出かけですか?」
「ああ、松永に本を返しにな。小十郎は食糧確保か」
「ええ、たった今終わったところです」
「ふぅん、派手に浴びたモンだな」
「無駄に活きのいい輩共でしたので。お陰で大漁でしたが」
「ごくろうだったな。でも、お前が能力使えばこんなどろどろにならなくても済むんじゃねえか?」
政宗の何気ない問いが一瞬小十郎の動きを止める。
「――多少の緊張感がなければ退屈すぎてやる気になりませぬ」
それは半分事実であったが、それが全てではない。
館を守るため敵を屠るのに少しばかりの緊張感を求めるのもあるが、世界の時を止めて戦えば止めた分小十郎だけの時が進む。果てしなく長寿の政宗と共に生きようとする小十郎にとって能力を使うということは、少ない命を更に削ることに他ならなかった。
しかし小十郎はそれを政宗に明かす気は毛頭無い。たかが一臣下の思い煩いなど主が気にかけるべきことではないと思っているからだ。
「俺の完全で瀟洒な従者も随分と好戦的なんだな。知らなかったぜmy sweet」
そう言って政宗は小十郎についた返り血を舐め取り頬に口付けた。
「政宗様、汚れます!」
「これが汚れってんなら俺の食いモンも汚いってことにならねえか、小十郎?」
「それは…!」
「ああ、でも乾かないうちに洗ったほうがいいかもな。よく似合ったこの羽織が染みで駄目になるのは勿体無ぇ」
「確かにそうですな。ではこの辺で失礼いたします。政宗様も下手に長居して朝日に焼かれることのなきよう」
「お前……俺が何年吸血鬼やってると思ってンだよ。――分かった、用事済ませたらさっさと帰るぜ。じゃ、いってくる」
「いってらっしゃいませ。どうかお気をつけて」
「おう」
ひらひらと手を振って、再び羽を背負って政宗は飛び立った。



「完全で瀟洒……俺をそうさせているのは、他の誰でもない貴方ですよ」
短い人の生のうち、肢体が思うように動く時代は更に短い。だが政宗がそれを望むなら小十郎は出来うる限りそう在ろうとする。出来る限り政宗と共に生きたいと思う気持ちと、せめて政宗の記憶の中だけでも「完全で瀟洒」で在り続けたいと思う気持ちが激しく鬩ぐが、今はそうしている場合ではなかった。
政宗が気に入ったという羽織を一際丁寧に畳んで、乾かないよう水差しと同じように部分的に空間を凍結させた。
そして時と感情に急き立てられるように小十郎は館へと駆けた。






「perfect:完全・完璧」
この設定やたらとお気に入りです。吸血鬼と従者って設定自体がえろい。
何故か当初政宗様にまたジョジョネタ喋らせようかと思ってたけどやめました。GJ俺の理性。