ヘタリア ギルッツ+ヴァルガス兄弟
※ 『斯くして楽園の扉は閉ざされた』の後日譚です





行商に連れられて街に出た二人は、真っ先にルートヴィッヒの友人・フェリシアーノに出迎えられた。
「わああああああ!ルーイ!心配したんだよおおおおおおお!!!」
弾丸のように飛びついてルートヴィッヒの胸に縋りつく彼の顔は涙でぐしゃぐしゃで、思わず気が抜けてふっと笑う。
「10日ぶりだな、フェリシアーノ」
「あの森が危険だなんて俺知らなくて、お前が俺を追いかけたなんて知らなくて……ごべん゛ね゛え゛えええええええ!!!」
「ほら、泣くな泣くな。無事帰ってこれたんだから気にしなくていい」
ヴェーと不思議な鳴き声をあげるフェリシアーノは頭を撫でられながら顔を起こし、そのとき初めて肩越しに見えるギルベルトに気づいた。
「あ、森の番人のひと!あのときはありがとう!」
「また会うとはおもわなかったぜ、フェリちゃん」
「そういえば森から出られないとか言ってたけど、出てきてよかったの?」
「まあ、いろいろあってな。ルッツに助けてもらったんだぜ」
「へえええ!ルーイ、すごいねえ」
「いや、たいしたことはしていない」
「謙遜すんなって!ルッツがいなきゃ俺は死ぬまであの場所に縛られたまんまだったんだ」
そう言ってギルベルトはルートヴィッヒの肩をさりげなく引き寄せた。フェリシアーノから引きはがすように。
それを見、フェリシアーノははしばみ色の目を丸くした後、ふふっと笑った。
「ねえねえルーイ、俺、兄ちゃんと仲直りできたんだよ!」
「なんと、それは良かった。せっかく会えた家族と仲たがいしたままだったらどうしようかと俺も心配していたんだ」
「だからちゃんと紹介したいんだ!兄ちゃんの店においでよぉ。そっちの番人さんも一緒に!ほら、その服じゃ目立つでしょ?」
言われて三人の視線はギルベルトの格好に集中した。
「え、これ、なんかヘンか?」
ギルベルトは首をかしげる。全身真っ白い簡素な子供服を縦に引き伸ばしたような姿で。
「ヘンなのがわかんないのが不思議なくらいヘンだよ!」
フェリシアーノは容赦なくそう言い、
「森の中にいるときは驚くほど似合っていたのだが、街に出ると間違いなく目立つだろうな」
ルートヴィッヒは恋のフィルターにかかっているのかフォローなのか判断しかねるコメントをした。



フェリシアーノの兄・ロヴィーノが店長をする服飾専門店に案内され、ギルベルトは旅人らしい服を見繕われることになった。
それをやや遠くでぼんやりと見ながら、吟遊詩人としてコンビを組んでいた二人はぽそぽそと会話を交わす。
「俺の旅の目的はさ、兄ちゃんを探すことだったの、お前も知ってるでしょ?」
「ああ。目的が無事達成されたようで、俺も嬉しい」
「うん、祝福してくれてありがと。――俺、会うことだけが目的でそこから先って考えてなかったんだぁ……。でもね、兄ちゃんが店で俺を雇ってやってもいいって言ってくれたんだ。いろんなとこ見て回った俺なら、この街にしかいなかった兄ちゃんより多角的な視点でデザインを考えられるだろうからって」
「確かに、女性を観察することにかけてお前の右に出る者はそうそういないだろうな」
「そうそう。……あれ、それほめてる?まあいいや。その話ね、俺すっごく嬉しかったんだけど、それを受けたらルーイがひとりになっちゃうでしょ?それが気がかりで、保留にしてたんだ。でも、その心配、なくなったみたいだ」
にこにことそう言われ、ルートヴィッヒはぎくりと肩を震わせる。この気の抜けた顔をした友人は、殊恋愛事については異常なほどな察しの良さを誇ることを今更のように思い出した。
「おかしなことだと、思わないのか」
喉から絞り出すような声で、ルートヴィッヒは言う。ギルベルトを愛する気持ちに嘘はないが、ずっと旅を共にしてきたこの友人に軽蔑されることに耐えられるほど心が強い自信はなかった。
その危惧は驚くほど軽い声音で否定された。
「なんで?俺はもちろん女の子が好きだけど、ルーイがどんなひとを好きになろうと俺は祝福するよ?だってしっかりしたお前が選んだひとだもの」
「そう、か……」
ふう、と大きく安堵の息をつくルートヴィヒに、フェリシアーノはヴェヴェっと妙な声音で笑い、なあんだ、と言った。
「なんだよぉ、そんなこと、気にしなくていいのに。――ねえ、俺、兄ちゃんのとこで働きたい。いい?」
「それこそ気にしなくていい。お前はお前の生きたい道を行けばいいんだ。俺は俺の生きたい道を行く。俺たちの分岐点がこの街だったというだけだ」
「うん、だよね!お前たちの門出を俺も応援するよ。二人に神の祝福があらんことを。気を付けてね、あと、またこの街にきて俺たちに会いに来てね」
「ああ、きっとそうしよう。あの森に寄ることもあるだろうしな」
「へへへ、ならよかった」

穏やかに笑いながら二人は、店の中央にいる二人に目を向ける。
「そんなダサい格好でいいと思ってんのか!」
「戦いにくいガチガチの服なんか着れねえに決まってんだろ!」
「お前一体何と戦うつもりなんだよ!」
「そりゃあ当然亡者……じゃねえや、えっと、暴漢とか?」
「そんなんさっさと逃げりゃいいんだよ」
ややケンカ腰のやり取りをしているのが、ギルベルトの半生を思うと驚くほど平和的で微笑ましかった。






今までに上げたギルッツパラレルものの後日譚、というリクを受けて。
フェリちゃんは彼らが出会ったきっかけになった子なので、二人を祝福してほしかった。