ヘタリア 普独 この国での挨拶のハグやキスは、ラテンの国々とは違って一定の距離をもってかわすのが一般的だ。だからヴェストもイタリアちゃんと友人づきあいを始めたとき大いに戸惑ったようだった。 何度「近い!」と怒鳴ってもイタリアちゃんはくっつくのをやめなかったし、スキンシップ好きなイタリアちゃんが変に強情だったものだから、最終的には「ドイツのハグは冷たいんだよぉ」と押しきった形で落ち着いた。 だからヴェストは密着されることへの抵抗感はほぼなくなったようだ。二人がちゅっちゅするのに嫉妬しなかったといえば嘘になるけど、ヴェストのパーソナルスペースを極端に狭くしてくれたことに関しては俺はすげー感謝してたりする。 だってそれに便乗して俺もべたべたしても嫌がられないようになったから。挨拶のハグをぎゅうぎゅうしてみたり、酔ったふりして頬に熱烈にキスしてみたり。 前だったらきっと「近い!」って怒鳴られてたようなことをしても、「兄さんまでイタリアの影響を受けたのか?」とか言って苦笑しながら許してくれるようになった。だから狡いようだけど、ヴェストの変化と兄としての立ち位置を最大限利用して、ことあるごとにヴェストの頬にキスしたし、それだけですげえ幸せだった。 ――はずだった。 でもひょんなことがきっかけで恋人同士になってみたらどうだ。今更前みたいな距離感に戻れなんて言われても、絶対無理だって断言できる。 だって、キスする場所が頬から唇に変わっただけでこんなにも幸福感が変わるなんて、思ってもみなかった。 今までだってヴェストの体温には触れてたはずなのに、熱さややわらかさを唇で伝え合うだけで、信じられないくらい幸せで、他のことなんてみじんも考えられないくらいヴェストのことで頭がいっぱいになる。 俺様の大事な愛すべき弟にはには依存性でもあるんじゃないか?ファンタジックな魔法がかかったで魔性の男を育ててしまったんじゃないか?って時々真面目に考えることがある。実際言ったら「勝手に俺を不思議国家にしないでくれ」と呆れられそうだけど。なにを言うか、メルヘンの本場だろうに。 なんてことを考えてたせいで、行ってらっしゃいのキスはいつもよりだーいぶ熱烈にかましてしまった。やわらかいところを全部食んで徐々に食いつくすような、朝っぱらからするような温度でないキスを。 しまった、夢中になりすぎた、と顔を離したときにはもうヴェストの顔はすっかり真っ赤で、ちょっと足元すらおぼつかなくなっていた。 「あ……悪ィ……」 そっと身体を離して首をすくめ怒鳴り声を浴びる体勢をとる。なのに、なにをするんだ、って怒ると思ったのにヴェストは黙っままだ。 「ヴェスト?」 「う……、ああ……いや、何でもない」 キスの余韻を振り切るようにぶるぶると頭を振って、それでもはらえなかった余韻が青い瞳をとろかせる。 たまらなくなってまたぎゅうぎゅう力いっぱいハグすれば、痛いと抗議があがった。 「なぁ、今日仕事休まねえ?」 「馬鹿いうな、するはずないだろ」 「ですよねー!なら、仕事終わったらすぐ帰ってこいよ!」 目がぎらぎらした自覚が自分でもある。その熱を察したのか、口をぱくぱくさせて結局何も言えないままひとつ頷いた。 「……わかった。じゃあ、いってくる」 そして、何事もなかったように取り繕った(つもりで全然できてない)ヴェストを見送って、俺はうずくまる。 「はぁ、早く帰ってこねえかなあ」 今日はそればっかり考えることになりそうだ。 イタちゃんに嫉妬してる兄さんがかきたくて。 この話の幕間的なお話はこちら |