ジョジョ5部 ブチャアバ
※馬鹿馬鹿しいパラレルなのに内容は微妙にシリアスという荒唐無稽なものです。これから派生してます。





アバッキオは妖精です。本人のその確信に近い考えが合っているのならば確かに、ティーポットに宿る『妖精』でした。
というものの、アバッキオとおなじような、人間の掌に乗るような大きさで殆どの人間には見えない彼らのような種族は『妖精』と呼ばれているにも関わらず、彼には羽根がなかったのです。



妖精はどこにでもいます。
道端に生えている草花にも、人の作った無機物にでも、それに魂がこもっているのならば、それには必ず妖精が宿っています。

無名だけど堅実な釜が最後に作った作品はとてもシンプルなティーポットでした。跡継ぎの居ない老いた釜の主はそれを売りに出すときに、「持ち主になる人を幸せにしておいで。できるだけたくさんの人を」とぽつりと言いました。その言葉でアバッキオはそのティーポットに宿ったのです。

しかしその釜の主は長いこと叶えられることはありませんでした。めぐり合わせがなかったのか、それともたったひとつの言葉で生まれた、妖精としての力の弱い――羽根は妖精の力の源なのです――アバッキオに人を惹きつけるだけのパワーがなかったのか、彼が宿るティーポットは長いこと埃に晒されたり暗くじめじめした倉庫に仕舞われたりということを繰り返しました。
そんな日々が続くうち、アバッキオは闇が怖くなりました。闇が訪れたらその次には、自分を朽ちさせるだけのざらざらした風と止まっては離れていくだけの視線に晒されるのが分かっていたからです。アバッキオはそういう目に遭うのが自分のせいだと思っていたからこそ、自分への罰のようなつもりで、気配を完全に消しながらティーポットの中に引きこもって過ごしていました。
蓋に空いている空気穴からの光だけが外界を知るたったひとつの糸でした。



アバッキオが眠りから覚めたとき、周りの様子がまるっきり違うのをすぐに感じました。
「これは夢かもしれない」
そう呟きながら彼は空気穴から外の様子を伺い見ます。誰かに貰われて幸せに過ごす夢など、もう数え切れないくらい見ていました。
市場のざらざらした風も痛いほどの日光もなく、それどころかずっと被っていた埃すら拭われていてアバッキオは驚きました。そこまで優遇されていた夢は今までなかったのですから。
「きっと、ひょっとしたら、万が一にも、これは現実かもしれない」
呟きながら恐る恐るティーポットから這い出れば、春先の花の匂いを運んだ優しい風が彼の頬を撫でました。そこまで明確な感覚があって、初めてアバッキオはこれが夢でも幻覚でもない現実だと確信しました。
その次に認識したのは、真っ黒な髪と、同じく真っ黒な瞳でした。アバッキオがずっと恐怖していた闇と同じ色をしたその色は、視界に入った瞬間輝いて見えました。それは彼の理解を超えたとても不思議な体験でした。
ずっとその輝きを視線で追っていると、黒曜石のような双眸がこちらをまっすぐに見据えたままがちりと固定されました。
アバッキオは人間と目が合ったことなど初めてでしたが、言うべき言葉を選ぶのに迷いはさほどありませんでした。『もしそういうことが起こったら』という空想は何度もしていたからです。
喋ろうとした瞬間、彼に命を宿した釜の主の言葉がふと脳裏に甦りました。
――持ち主になる人を幸せにしておいで
その瞬間、この輝くような黒を持つこの人間がその『持ち主になる人』だということを思い出しました。それは、持ち主となる彼が去れといえば去らなければならない、ということをも示していました。それが彼の幸せになるのならば。
それでも構わないとアバッキオは思っていました。闇に怯えるだけの日々を少しでも変えてくれたこの持ち主に何かを還元できるのならばそれがいいと思ったのです。そこに迷いなどありませんでした。
そんな一瞬の思考の後アバッキオは口を開きます。

「言っとくが、オレは――」






なんでこんなん書いてしまったん?という良心の声が聞こえるけど無視することにします。ファンタジーやメルヘンでもいいじゃない。