ジョジョ3部 アヴポル
※ これのつづきです





「俺さ、アヴドゥルのこと好きかもしんねえ」
唐突にそう言った隣に座るポルナレフの顔は明らかにアルコールによって真っ赤になっていて、その台詞をアヴドゥルは酔っ払いの戯言と断ずる。
突然の喜ばしい来客にポルナレフは随分とテンションを上げたようで、家庭用ワイン庫から取って置きを引っ張り出したと言ってはかなりのペースでボトルを空けていた。よほど「あまり飲みすぎるな」と言ってやろうかとアヴドゥルは思ってはいたものの、ここは他の誰がいるわけでもないしポルナレフ自身の家なのだから窘める必要もなかった。
そんなラティーノな軽目の友人の戯言としっかり認識していながらも、アヴドゥルは大きくなる心音の素直さに少し忌々しさすら感じる。
「それはそれは、恐悦の至り」
「あ、テキトーにあしらうなよ!大真面目だぞ俺はぁ」
ポルナレフの語尾が間延びするのを聞きながらアヴドゥルは溜息をつく。
「誰が酔っ払いの言葉を真面目に受け取るか、馬鹿者。――まあ補足なりそれに至った過程なりを聞いてやらんでもないが」
「過程?そんなん無えよ。今そう思っただけー」
「そうか」
「なんかさぁ、女の子と一緒に居るのとか大好きだしさ、一人でいろんなことしてるのも嫌いじゃねえ。旅の間、承太郎やイギーにちょっかいかけたり花京院にボコられたりジョースターさんの自慢話をからかいまじりに聞いたりするのとか、すっげえ楽しかった。そりゃあ大変なこともいっぱいあったけど。でもさ、アヴドゥルと一緒にいると、こう…心の落ち着け所?みたいなのがある感じすんだよ。ずっと一緒にいたい、って」
喋るだけ喋って、あーやっぱよくわかんねえ!とポルナレフは頭を振る。
「いいじゃねえか!好きってことに理由なんかいらねえだろ!」
「それも、そうだな」
剣幕に押されてアヴドゥルは少し怯む。何日もかけて心を纏めて迷いを他所へ押しのけ、それでもかき乱されて、伝えようと思っても躊躇っていた言葉を全て言われてしまった。それも、こんなべろべろの酔っ払いに。そのことにアヴドゥルは複雑な思いを抱きながらも、心がコトンとあるべき場所に収まったような気がしていた。
(好きってことに理由なんかいらない。確かに、そうだな)
アヴドゥルは職業柄、いろんな男女を見てきた。どう見ても将来性のない男についていこうとする女を、裕福な家庭を捨てて駆け落ちする男女を、堕ちた女を救い出そうとする男を。彼らは確かに破滅へ向かおうとしているのに、それでも好き合っていることに満足してその道を選んでいたのだ。それらを目の当たりにしながらも『理由なんか』その言葉をこれほどまでに真に理解することなど今までになかった。
「確かに、そうだ」
そう言って、ひとつ大きく息を吐く。
「――私も、お前が好きだ。この世の誰よりも。ここまで会いに来てしまうほどに。離れたくないと思うほどに」
前後不覚寸前の酔っ払いに何を言っているんだ、という理性の声がよぎる。それでもいいと心の声がそれをかき消す。たとえ翌朝ポルナレフが全てを忘れていたとしても、伝えたいことを伝えたという事実が残っていれば良いと思えた。
「なぁんだ、おれたち、りょうおもいじゃん」
ポルナレフはへらっと笑って、そのままこてんと眠りに落ちた。そのだらしない寝顔をアヴドゥルは微笑みながら見つめる。
ほんのひとときでも想いが伝わったのなら、それで充分だった。このまま心残りなく帰る場所に帰れると思った。
きっとこの理由無き想いのために此処まで来たのだと思えた。






801の神様の電波はどうにもランダムすぎて、続かないはずのものがだらだらと続いてしまいました。