ジョジョ5部 ペシプロ
『傍観者の意見』の続き
※兄貴の過去をぼんやりねつ造





ペッシが黙って財布を返すと、プロシュートは中身が殆ど減ってないことを確認し舌打ちをした。露骨に機嫌を損ねた彼がポケットを探る様子を見せれば、はっとした顔でペッシは新しく買った煙草を差し出した。瞬間、プロシュートは端正な顔を歪めて叫びだか呻きだか分からない声を上げる。
「ドルチェ付き、だな」
「あ゙ぁっ、くそっ……勝手にしやがれ」
プロシュートの吐き捨てるような了承を受けたリゾットは、なかなかにあくどい笑顔を浮かべ部屋を出た。
遠くで「今晩はプロシュートの奢りだ」という声と続いた歓声が聞こえれば、決定的な場に居なかったペッシでもおおよその顛末は理解出来た。

「……すいません、兄貴」
「なんでオメーはこういうときに限って、言い付けた事ができなくて言ってねえとこまで気ぃ回しやがるんだ」
「ごめんなさい」
深々と頭を下げたペッシを見、プロシュートは更に苦い顔になって、やめろというように手を振った。
「……悪ィ。八つ当たりだ。俺があの野郎よりお前を理解してなかったってだけだ。煙草は、まあ、ありがとよ」
そう伝えれば、ペッシは随分と情けない顔で笑って、つられるようにプロシュートも苦笑した。
「コレだけ買ってきたにしちゃあ、随分と長かったじゃねえか」
「一応、あの通りまでは行ってきたんですけど、その、ああいう所に行っちゃったら、兄貴を裏切るような気がして……」
「ハァ?俺が行って来いつったのに、なんで俺を裏切ることになるんだ」
「いや、それは割と二の次というか、その、」
「言いたいことがあるならさっさと言え!!!」
煮え切らない答えに短気なプロシュートはすぐさまキレて、ペッシを思いっきり蹴飛ばしかけ、寸前で止めた。これでも一応恋人を痛めつける趣味はない。
蹴りに備えたとっさの防御姿勢をそろそろと解いて、ペッシは暫し迷った後、口を開いた。
「笑われるか嫌われるかしそうなんで、あんまり言いたくないっす」
「構わん、言え」
「えええー……」
「ここぞとばかりに全力でタダ飯にがっつく奴らの1食分がいくらすると思ってんだ。俺一人に笑われる程度の恥くらい我慢しやがれ! まあ、お前が何言っても嫌ったりしねえから安心しろ」
ほとんど脅しのような要請にペッシはまた逡巡し、もうひと睨みされて漸く白状した。
「ああいうとこって、そういう商売のきれいな人がいるじゃないですか。でも誰見ても、兄貴の方がきれいだな、って思っちゃって」
「はあぁ?」
「そんで、やっぱり『初めて』は好きな人とがいいな、とか思っちゃって。そしたらもうあの通りにすら居れなくて、兄貴の煙草が切れかけてたの思い出して買ってきました」
「……」
「笑うなら笑ってくださいよ!オレ自身青臭い馬鹿みたいな拘りだって分かってんすからあ!」
「いや、笑うっていうか、久々にそんな話聞いたっていう驚きの方が強いな」
感心したように見つめられて、ペッシは赤面して俯いた。
「ハジメテは好きな人と、かぁ」
「ううう……」
「そういうもんか、普通は」
「まあ、普通は」
プロシュートが幼い頃からこの世界に身を浸していたらしい、ということをペッシは聞いたことがあった。だからこそあの『お使い』の指令が出たのだろうが、つい数か月前までカタギだったペッシは心情的にも倫理的にも従うことはできなかった。
「オメーも物好きな奴だなぁ。オレ男だぞ」
「知ってますよ。兄貴以上に男らしい男見たことないっす。でも、兄貴が好きですから」
「……おう」
いつもはきはき喋るプロシュートの声が最後だけくぐもっていて、俯いていた顔を上げれば、視線を逸らし耳まで赤くなった彼の姿が見えた。
「オレらみたいのが、こんな歳になってから童貞と処女でヤるとか笑い話にもなんねえぜ」
「えっ」
「どうなっても知らねえからな!――おめーら、今夜は前祝いだ!遠慮すんじゃねえぞ!」
後半は扉の向こうに居るチームメンバーに向けてプロシュートが大声を出した。
当然皆沸き立って思い思いに騒ぐ。
「言ったな?本気で遠慮しねえぞ」
「店中空っぽにするまで食ってやる!」
「キャー、プロシュート太っ腹ー」
「耳元できめえ声だすんじゃあねえ!」
「前祝いって、何の話だ?」
それを受けて、いつのまにか紅潮も引いたプロシュートが応じ、
「何って、そりゃあペッシのどう――」
「ぎゃああああ!兄貴ィィィ!なんてこと言ってんすかああ!」
ペッシが慌てて遮った。
「じゃあ、秘密だな」
「なんだよプロシュート、ペッシにだけ甘くねえ?」
「みずくさいぜー!」
「俺はタダで飲めるならどーでもいい」
「同じく」
「だよな」
にぎやかに何時もの店に向かう遠慮を知らないろくでなし共と、それを先導するプロシュートのプロシュートの背を見ながらペッシは苦笑する。
あの勢いだと強くもないのに飲みたがる彼は早々に潰れるだろうというのは簡単に想像がついた。そうなれば、『前祝い』の祝われる箇所に当たる行為はきっと後回しになるだろう。
それでもいいとペッシは思う。別に急ぐことではない。件の『おつかい』は、プロシュート共にあれればそれでいいという想いをより強固にしたできごとでもあった。
いつか堂々と隣に立ちたいと思いながら、颯爽と歩く彼の背を追った。






3年越しに続きを書いてみました。
ペシプロペシの詰め合わせを支部にアップしたら、ブクマが30以上ついてびっくりしました。需要あったんだね。