鬼滅 さねげん
※ 現パロ 年下実弥×年上玄弥



1.

六つ年上の玄弥が本当は兄ではない、と実弥が理解したのは小学校に上がってからだった。
だって、気が付いたときには実弥の世界に玄弥がいたし、珍しい名字が一緒な上に名前も一字しか違わない。顔立ちだって髪の色以外はそっくりだ。母だって実弥のことを「実弥くん」と呼ぶのと同じように玄弥のことを「玄弥くん」と呼んでいた。
そこまでそろっていて兄弟じゃないなんて思うはずがない。
ただ、昼間一緒に遊んで夕飯や風呂も一緒に入るのに、玄弥だけ隣の家に帰っていくのだけいつも不思議だったし寂しかった。「俺のベッドはあっちだから」と玄弥がいつも言っていたから、隣の家は実弥が暮らす家の『離れ』で玄弥の部屋はそちらにあるのだと思っていた。

どうやら、玄弥の父は玄弥が生まれる前に事故で亡くなり母は病気がちで入退院を繰り返していて、息子の世話をどうしようかと困っていたところ実弥の母が快く引き受けた、ということらしかった。
「実弥くんったら本当に足が速くて体力おばけなものだから、玄弥くんが面倒みてくれて私の方が助かったくらいだわ」とは母の言だ。
父からは「なんで別々の家に暮らしてんのに実の兄弟だと思ってんだ」とげらげら笑われたので、向う脛を強かに蹴り飛ばしてやった。

その翌日、玄弥が学校から帰ってくるのを家の前で待ち伏せた。中学に上がって学ランを着るようになった玄弥の姿はまだ見慣れないけど、実弥を見かけてにこっと笑って駆け寄ってくる姿は昔から見慣れたのと変わりない。
「よっ、実弥くん。どうした? 暇なら遊ぼうか」
玄弥に挨拶を返そうとして、喉の縁まで出て来た言葉が塊になって出てこず、飲み下す。今までは「兄ちゃん」と呼んでいたが、彼が兄ではないと知ったばかりでなんと呼んでいいかわからない。
「お前さ、俺の兄ちゃんじゃなかったんだな」
「あ? えー……ウン、気づいちゃったか」
少し気まずそうにへらっと笑う玄弥に、実弥はむっとする。
「なんだそれ、わざと隠してたのかよ」
「もしかしたら勘違いしてるかな、とは思ってた。でもわざわざ『俺たちはただ家が隣同士なだけで兄弟じゃない』なんて言うタイミングなかったし、いきなりそんな宣言しても寂しくないか」
確かに、寂しい。寂しいと口に出されて、初めて実弥はこの胸のうちの落ち着かなさ心許なさを「寂しさ」だと認識した。寂しかったのだ。世界で一番近しいと思っている人間である玄弥が、隣に住んでいるだけの他人であることを知ってしまって。
「でも俺が玄弥のこと『兄ちゃん』って呼ぶのおかしいだろ」
「えっ! ふ、はは、え、それでいきなり呼び捨てかよ! いいけど」
この兄と慕った相手を呼び捨てるのは勇気が要ったのだが、友達は皆呼び捨てにしてるからそれに倣うべきだと思ったのだ。
「じゃあ今日から実弥は俺の弟卒業だな」
ずっと君付けで呼ばれていたところを呼び捨てされて、心臓がばくんと跳ねる。さっき玄弥が笑ったのが少しわかった。これはちょっとびっくりする。
「でもさ、俺は実弥と本当の家族だったらなってずっと思ってたよ」
照れ臭そうに寂しそうに笑う玄弥に、また心臓が跳ねた。少し大人っぽく見える制服のせいか昨日までの彼と全然違うように見えてしまって、妙にどきどきする。校庭一周全力疾走したような胸の高鳴りは、その日暫く続いていた。





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