刀剣乱舞 審神者×同田貫×審神者 ※ 創作男審神者注意 ※ 『その感情の名』の続きです 同田貫を近侍から外して2週間が経った。 顔を突き合わせたら気まずくなると思い、食事の時間もずらし、できるだけ仕事部屋に籠って、道場にも行かなくなった。 結果、同田貫の姿を見ることができるのは戦況を見るための端末のみとなった。 自分で招いた結果とはいえどうしても、足りない、と思ってしまう。当たり前のように存在していた二人の間のあの空気がなくなってしまって窒息しそうだ。 はあああ、と長い溜息が思わず漏れる。 「おんしゃ、根を詰めすぎじゃ」 近侍の陸奥守がそう言って笑った。幸か不幸か、最低限の仕事はもう終わっている。 「こんなとこに籠っとるきいかんのじゃ。散歩にも出かけて元気出しとおせ」 そんな風に半ば追い立てられれば、外に出るしかなかった。 元気がないのは恋の病のせいだ、なんて言えるはずもなく、初期刀の太陽のような笑顔に罪悪感を覚えながら彼は久しぶりに本丸から足を踏み出した。 久しぶりの外の空気にふらつきながら、無意識に足はあの集会所に向かっていった。 扉を開けば、あのときに居た女審神者こと変態その1(仮名)と、これもまた見知った顔の女審神者・変態その2(仮名)がいた。 「おやたぬすき、いいタイミングで来たねえ」 「……なんか嫌なタイミングで来た気がするな」 「いやいや、ちょうど君の噂話をしてたってだけよ。なんかいかがわしい夢見たんだって?」 「いかがわしい言うな。っていうかお前のせいだぞ!お前が妙な呪いかけたからまたヘンな夢見ただろーがぁ!」 「おお、呪いが成就したのか!めでたいめでたい。で、そのヘンな夢って何よ?」 彼女らの目は獲物を見つけた肉食獣の瞳に変貌していて、男は一歩後退る。いつもはてんでばらばらに刀剣男士への歪んだ愛を叫んでいるくせに、こういうときばっかりチームワークを発揮するのはずるい、と思う。 しかし手を組んだ猛獣相手に抗う術は彼にはなかった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ その晩、彼は自室でひとり酒瓶を見つめていた。 あの後、二人に散々問いつめられ散々暴露させられ、結構な長い時間拘束されていた。途中から弁舌が乗って自分から進んでいろいろ話したなんて事実はない、決して。 それでも喋っている間に2週間分の息苦しさがかなり解放されて、大分気が楽になったのは否めない。変態に助けられたとは思いたくはないのだけど。 目の前にある酒は、二人のうちの片方が「いいノロケを聞かせてくれてありがとう、これはその礼だ」と言って渡してきた物だ。彼としては同田貫のかっこいいところや好きなところを促されるままに喋っただけなので、わざわざこんなのもの貰うほどのことはしていないと一度は断ったのだが、いいからいいからと言って押し付けられたのだった。 (もう一人の方も便乗して、彼女らが『動く飴』と呼んでいる、ピンクでちいさな卵型の振動するおもちゃを寄越そうとしたが、こちらは丁寧に固辞した。なぜそんなものを持ち歩いてるのかは考えないことにした) 「たぬきと一緒に飲んで、酔った勢いでヤっちまいな!」と下品なハンドサインと共に渡されたこの酒は、銘柄を調べてみればなかなかに上等なものだとわかった。 酔った勢いなんてものに関しては即却下したものの、確かにこれは一人で飲むのは少しもったいない。好きな人と一緒に飲む酒は、さぞかし美味いだろう。 それでもここ最近ずっと一方的に避けていた相手の部屋に夜いきなり押しかけるのもなんとなく気が引けて、彼はしばらくウンウン唸りながら悩んでいた。 「……とりあえずここを出よう」 まずは同田貫の部屋に向かい、声をかけるかどうかはその場で考えよう。結局気が引けてしまったら、そのままそっと自室に戻って縁側で一人月見酒でもすればいい。幸い今日はいい月夜だったはずだ。 そう決めて、棚から一升瓶を抱え猪口をふたつ取り出し、縁側に出るとそこには。 「……よう」 かの思い人がそこに座っていた。 いつからいたのだろうか。声も物音もしなかったからまったく気づかなかった。 同田貫のそばには、一升瓶と猪口がふたつ置いてある。彼もまた審神者と同じ日に同じように考えて、同じように声をかけるかどうか迷っていたのだろうか。そう思えばふつふつと喜びが湧き上がってきて、思わず笑みがこぼれる。 ここまで「偶然」が重なったのなら、それは運命の導きなのかもしれない。ならばここで腹をくくるしかないだろう。 「一緒に月見酒でもしないか」 ニッと笑って瓶を軽く掲げてみせると、同田貫は少しほっとしたような顔で同じように笑みを返した。 ひとつきっかけを作ってしまえば、2週間の空白なんてなかったかのように会話は進んだ。 もとよりこの本丸で一番近くで共に過ごしてきた二人なのだから、それだけのことで関係が崩れるはずなどなかったのだ。 誰それが最近調子がいいだとか、今日の夕食は旨かっただとか、昔見聞きした奇妙な話だとか、そんなとりとめのないことをぽつぽつ話していると、無意識に緊張していた心の糸がするするとほぐれていくのを感じていた。 ゆるやかな時間がいくらか経って、部屋から持ち出した乾物がそろそろなくなるなと思った頃。 不意に辺りが暗くなって二人が空を見上げれば、こうこうと照っていた月が雲にすっかり隠されてしまっていた。 酒と話に夢中ですっかり忘れていたが、月見酒という名目だったのをようやく思い出した。 同田貫も同じことを考えていたようで、 「放っておかれすぎて、主役が隠れちまった」 と嘯いた。悪戯っぽく笑んだ瞳は闇のなかでも鮮やかで、やっぱり綺麗だな、と改めて思う。 そして思ったことがそのまま口に出たのは、酒の魔力だったのか、否か。 「俺は今でも月見酒楽しんでるよ」 「月ねーのに?」 「綺麗な満月。ふたつも」 「はぁ?」 「いや、だから、その眼、月みたいで俺は好きだぞ」 そこまで言えば流石に分かったのか、同田貫はふっと笑う。 「あー…んじゃ俺はみれねーな」 「じゃあ、俺だけの独り占めだな」 言ってる側としては気恥ずかしいという気分はなかったが、同田貫には照れが出たようで、不思議な沈黙が落ちた。 その瞬間、このタイミングで言い出すべきなんじゃないかと審神者は思った。 「正国」 内心心臓をばくばくさせながら、初めてその名前で呼んでみる。今の関係を変える覚悟のしるしのつもりだった。 「あ?」 「俺から言いたいことがあるんだけど」 「その前に、俺から言いたいこと言っていいか?」 「えっ、ああ、どうぞ?」 出鼻をくじかれたような気持ちで次の言葉を待つと、 「俺、お前のこ――」 瞬間、同田貫が何を言おうとしたのかを悟り、彼の口許に指をあてて制止する。告白は絶対自分のほうからしたかったからだ。 しかし意味が通じなかったのか不思議そうな顔をして続きを言おうとしたために、同田貫の頭を胸元に抱え込んで強制的に言葉を遮った。 こうなれば先手必勝とばかりに、今度は審神者の方が口を開く。 「俺、正国のことが―――」 彼の言葉は、今度は腹部に走った衝撃で遮られる。告白は自分の方から、と思っていたのは同田貫も一緒のようだった。 そして示し合わせたように二人はそれぞれ1歩分後退って間を取った。同田貫の瞳は戦のときのようにぎらりと輝いていて、それをうけて審神者の口許には笑みが浮かぶ。 ほんの数分前まであった穏やかな空気は完全に霧散していて、何をしようとしていたのかも二人の頭からほぼ消し飛んでいた。ただ、このまま取っ組み合いの喧嘩が始まるという直感だけがあった。 そして攻撃を仕掛けにいったのもまた同時だった。 とはいえ、勝負がつくのにさほど時間はかからなかった。 片や日常的に戦場を駆けている最高練度の刀剣男士、片や道場には行くものの引きこもりがちな仕事をしているただの人間だ。 気がつけば審神者は同田貫に後ろ手に拘束され、バックマウントをとられていた。 勝負がついた瞬間、同田貫は息だけでふっと笑った。だが何のためにこんなことをしていたのか先に思い出したのは審神者の方が先だった。幸い、体は拘束されていても口までは封じられていない。 だから、とっさの判断はあまりにも色気がなかった。 「正国、好きだ!」 バックマウントをとられたまま叫ぶようにそう告げれば、背後で「あっ」と苦いうめき声が聞こえた。そして腕の拘束が緩んだ隙に体をひねって仰向けになれば、同田貫が実に悔しそうな顔をしていて達成感が胸に満ちた。 「よっしゃ、言ってやった!」 「くっそ、油断した」 「俺の勝ち、だな」 「ああ、そうだな」 勝利に酔ったような心地で声を出して笑えば、同田貫もつられるようにして笑った。 そうして人心地ついたあと、男の胸のうちにむくむくといたずら心がわき上がる。 したいことはほぼ望んだ形で叶った。それに対する返事ももう言わずともわかっている。だけどやはりそれはきちんと彼の口から聞きたかった。 「それで、お前の言いたいことって何だったんだ?」 「はぁっ!?おま、今更それ訊くのかよ!」 「もちろん。だって聞いてないし」 「ぐっ……」 あまりに予想通りな反応に内心大笑しながら、顔だけはしらっととぼけてみせれば、同田貫は先ほどよりもずっと露骨に嫌な顔をした。 そこで図ったように月が再び顔を出す。月光で照らされたその顔は、すっかり紅潮していて、その苦い顔は照れ隠しなんだろうということは容易に想像がついた。 見上げた視界の中に、満月がみっつ。夜空に浮かぶ本物の月と、戦場の中でこそ一層輝くふたつの月。 本物の方は望むべくもないが、美しい満月の瞳を持つ男はもうすぐこの手中に落ちてくる。そう思えばこの無言の間すら甘露だ。 それでも早くと急かしたい心をどうにか抑えて、彼は唇に弧を描きながら愛しい人の言葉をひたすらに待った。 諸事情により支部別垢で投稿したもの、その2。 これも同じく頂いたネタで7割構成されております。自分の脳みそじゃ思い浮かばない展開提供してもらって、新鮮だったけど難しかった… |