刀剣乱舞 たぬさにたぬ

※ 創作男審神者注意
※ 『満月の夜』の後日譚です(『噛み癖』との前後関係はありません)





夢というものは、脳が情報を整理する作業によってみるのだと言われている、らしい。
だからだろうか、俺は刀剣男士達の夢を見ることが多い。それは荒唐無稽なものから、欲求不満の表れだとからかわれるものまで様々だ。(余談だが、それをとある場所で言ったところ、マジな目で男士の夢を見る方法を訊かれた。よこしまな心が邪魔をしているのではないかと俺は思う)
こんな夢を見たのはきっと、親戚の結婚式の動画を見たせいだろう。


その夢で俺は白いタキシードを着て小さな教会の前にいた。
そしてその扉を開くと、同じように白いタキシードを着た正国が立っていた。他には誰もいない。誂えたような状況だが、結婚式をするわけではないようだった。
「あんた、相変わらず細いな」
俺の格好を見た正国がそんなことを言う。いつもは着流しとかで誤魔化しているが、さすがに洋装では無理だった。
こちらばかりからかわれるのは癪で、
「お前も、真っ白の服似合ってないぞ」
とつつけば、うっせー、といいながら叩かれた。
それから俺たちは教会で何をするでもなく、何故か俺の母校を見に行くことになった(この急展開さが実に夢らしいと思う)
見慣れないものの山にきょろきょろする正国に、俺が解説をしながら、誰もいない校舎を歩いていく。芸術科の生徒が描いた絵を見たり、学生時代使っていた部室を紹介したり、体育館で軽くスポーツをしたりもした。
それからいろいろ喋りながら最終的には教会に戻って、またひとつふたつそこで喋って、その夢は終わった。


正国は他のどこよりも戦場に行くことを好むから、一緒にに出掛けることなんてほとんどない。だから夢の一連の流れがなんだか新鮮だった。
それに、結婚願望なんてないし式も挙げるつもりなんかないけど、正国のタキシード姿を見ることが出来たのは嬉しかった。夢の中では似合わないなんて軽口をたたいたけど、本当はかっこいいと思っていたのだ。
不思議な夢だったけどいい夢だった。
だから起きた後も夢の光景を頭でリピートしていたら、それが表情に出ていたらしい。

その日最後の出陣から帰った正国と一緒に、明日以降の本丸のシフト表を作って一息ついた後、思い出したように正国から問われた。
「そういえば、お前今日機嫌いいな。何かいいことでもあったのか」
「えっ、気付いてたのか」
「そりゃあな」
「ははは……いやたいしたことじゃないんだけどさ、今日は夢見がよかったんだ。朝から幸せな気分になれたって、それだけだよ」
そんなにわかりやすく態度に出していたらしいことに少し恥ずかしく思いながら正直に言えば、正国はそうかと言ったきり詮索はしてこなかった。
こちらとしても「夢にお前が出てきて嬉しかった」なんて真正面から言うのはなんとなく気恥ずかしいものがあるので、それでよかった。彼のこういう距離の取り方がとても居心地がいい、と改めて思う。

こうやって、正国に隣にいてもらう、隣にいさせてもらう時間が一番幸せだ。
一時期近侍からはずしたことがあったが、そのときの俺は今になって思えば目も当てられないくらいぼろぼろだったように思う。息をするのも億劫で、今どこに立っているのかもよく分かっていないくらいだった。
そういえば、その頃の正国もあまり調子が良くなかったと聞いた。俺と似たような症状だったらいいなとは思うけど、おそらくは近侍の仕事を外されて生活のリズムが変わったからだろう。
一応は好き合っているのを確認し合った仲ではあるけど、正国の中の俺の存在感なんてきっとそんなものだ。戦がいっとう好きでそれ以外は割とどうでもいい正国が俺は好きだから。正国の隣を許してくれるなら、それでいい。

そこまで思考が回って、夢でも正国に言った言葉を現実でも言ってみようかと、ふと思った。前から心のどこかでは伝えたいと思っていたことだった。
「なあ正国」
「なんだ」
「俺は今までお前にたくさん助けられてきたし、ずっと隣に居てほしいと思ってる。これから先も、俺を照らす光でいてくれるか?」
すると正国は満月のような瞳を一瞬丸くして、すぐ後に眉根を顰めた。その表情が何を言っているんだこいつは、といいたげに見えて内心苦笑した。
「なんで俺がんな面倒くさいことしなきゃなんねーんだよ」
夢の中で返って来た言葉と同じ答えが返ってきた。だよな、と言おうとすると、
「だけどよ」
と次の句が来て遮られた。
「俺がそう言っても、お前は俺の隣に居たいって言って聞かねえんだろ」
「お、おう」
言いたいことをずばり当てられて、少し狼狽える。
「だったらわざわざ俺に言わなくていい。好きにしろ」
突き放したようにも聞こえるその台詞は、普段より幾分やわらかな声音でもって聞こえた。はっとしてその顔を見ると、いつもの不愛想な表情ではなくふっと微笑んでいて、思わずどきりと心臓が跳ねる。
こちらの台詞を予測されていたということと、それを踏まえた上で「好きにしろ」と言われた。その意味を理解するのに少しの時間がかかり、理解したと当時にじわじわと嬉しさが胸に満ちて、頬が熱くなる。
「じゃあ、好きにさせてもらう」
そう答えながら、嬉しさで顔が緩みまくっているのが自分でもわかった。
いつまでもだらしねー顔してんじゃねえ、とつっこむ正国の頬も、夕陽に染まった部屋のなかで更に少しだけ赤かった。






実は『噛み癖』で終わらせて3部作のつもりだったのが、某所で複数人に急かされてうっかり続いちゃったブツでした。
プロポーズまでいったからこれで終了、だと思う。