刀剣乱舞 日本号×審神者 ※ 創作男審神者注意 ※ 「夢うつつ」と同一本丸・時系列に関係性は無し 誰かと騒ぎながら呑む酒もいいものだが、一人静かに呑む酒もいいと日本号は思っている。 なんとなくそういう気分だったとき、丁度綺麗に月が出ていたものだから、ふと思い立って一人自室の縁側で月見酒としゃれこんでいた。勿論、月が出ていなくても何かしらをネタに一人酒をしていたのだけど。 夜もとっぷりと暮れてしたたかに酔いもまわり、もうそろそろ寝るか、と思った頃。た、たたっ、たっ、と明らかに千鳥足な足音が聞こえた。 大広間で誰か宴会でもしていたのだろうか、と其方に視線をやれば、思いがけない人影が現れた。この本丸の審神者である。 「おいあんた、こんなとこで何してんだ」 応える声は無い。顔はほんのりと赤く、千鳥足のまま日本号の方へゆっくりと近づいている。 おいおい大丈夫かよと思いながらひやひやと見守れば、案の定途中でぐらりと体幹が揺らいだ。予測していたこともあり、すかさず駆け寄って手を差し伸べれば、案外軽い体は簡単に日本号の腕の中に納まり、縁側から転げ落ちることは避けられた。 「おおっとォ!怪我したらどーすんだよ……」 ほとんど独り言のようなその呟きにも答える声は無い。腕の中の彼は何が起こっているのか認識できていないのか、ぼーっとした目であたりを見回してからふっと上を見上げる。すると日本号とばちりと目が合い、瞬間、彼の顔が脂下がるようにして緩んだ。にこりともにやにやともつかない曖昧な笑顔で、しかし心から上機嫌そうにくすくすと笑っている。 「何がそんなに楽しいのかねえ、って酔っ払いに言っても無駄か」 彼からかおる酒の匂いはわずかだが、審神者が少量の酒で酔うのを日本号は知っている。いや、たった一口の酒でぶっ倒れるところを間近で見るまでは信じられなかったが、どうやら彼はそういう体質らしい。甘酒程度で酔える聞くからなんとも経済的だ身体である。 ともかく、こんなところまで迷い込んで来てしまった酔っ払いを部屋に送り届けないといけない。 「あんた、歩けるか?」 「んー、ふふふふふふ」 「ああ、こりゃあダメなやつだなァ」 相変わらず上機嫌な審神者は、猫が甘えるように日本号の胸板に頭をおしつけてぐりぐりとしている。髪が首筋にあたってくすぐったい。酔っ払いの身体を支えながらどうしたものかと悩んでいると、ふと、腕の中にある身体から力が抜けてずしりと重くなった。彼の顔を伺い見れば、瞳はすっかり瞼の中に隠されすぅすぅと寝息を立てている。 いよいよ面倒になってくるりと日本号は自分の部屋の方を見る。障子が開いたそこからは、すぐに寝れるようにと先に敷いておいた布団が見えた。大柄な長柄男士用に誂えたかなり大きなそれは、日本号とあと一人標準体型の者くらいは寝られそうである。 「……しょーぉがねーなぁ」 日本号の体格と腕力をもってすれば、審神者を抱え上げて部屋まで運ぶのなんて簡単だ。しかし今はしたたかに酔っている、安全に運べる保障はない……と自分自身に言い訳をして、彼を抱え上げすぐそばの障子に向かっていった。 雀が鳴く声で彼は意識を浮上させた。普段とは違いなんだか体が自分以外のもので温かい。 不思議に思いながら目を開けば、真っ先に視界に飛び込んできたのは鎖骨。そして筋肉質な胸元。その胸元を飾る大きなペンダントまで視界に入り、顔を見ずとも目の前にいるのがだれなのか瞬時に理解した。 「……!……!??」 衝撃が大きすぎて声も出せず驚き、ぎくりと体をこわばらせる。 そして次の瞬間、これは夢だと判断した。 昨夜甘酒に少量の日本酒を加えながら飲んでいて、寝る前に厠に向かったところまでは覚えているが、そこから目の前に想い人がいる状況になるはずがない。唐突すぎる。だからこれは夢だ。 身体全体から伝わる体温、太く筋張った首からかおる汗の匂い、自分が到底飲めやしない強い酒精の匂い、ペンダントが揺れてちゃらりと鳴る金属音。これも全部夢だ。 何かに気付いたらしい日本号が子供をあやすように背中をぽんぽんと叩いているのも全部夢だ。そうに違いない。 限界までぐっと目を瞑る。この目を再び開けたら夢は終わっていつもの自分の部屋に寝ているのだと信じて。 某所で某男審神者が愉快な夢をみたらしいので、その2。 同衾しておきながらいかがわしいことが何もない、というのが逆にイイと思う。 |