短文まとめ

普独・甘め
普独・甘々
普独・シリアス気味
普独・シリアス気味
普独・シリアス気味


普独・甘め
『あなたがおしえてくれたこと』のすぐあと


とろとろとあまい刺激に酩酊する。酒を飲んだことなんてもちろんないけども、酔うというのはこういうことだろうと思うくらいに、兄さんのキスひとつで、唇同士舌同士を触れ合わせているだけで、思考が使い物にならなくてふわふわぐらぐらしていた。唇から与えられる刺激だけでもいっぱいいっぱいなのに、俺の肩に触れていたはずの兄さんの右手はいつの間にか俺のシャツの裾をくぐっていた。腰骨から背に向かって熱い指が撫で上げる感覚にぞくぞくして足から力が抜ける。
そしてついにカクンと力がぬけてへたりこんでしまい、顔同士が離れた。やっと視界に映った兄さんの表情は、幼馴染としてでもなく師としてでもなく『男』の顔をしていて、その事実にまた鼓動がばくんと鳴った。しかし兄さんはその拍子に一気に酔いから醒めたかのように、『師』の顔を取り戻す。
「ば、ばか! このっ、おばかさんが! 止めろよ! がっつりディープまでしてたら止めろよ! あんまり夢みてえでほんとに夢かとおもって調子乗りすぎちまっただろうが!」
兄さんがあまりにも早口でまくし立てるものだから、ぼんやりした頭では処理しきれなくてぽかんとするばかりな俺に、兄さんは深くため息をついた。
「無防備すぎんだろ……」
無防備だなんて言われても、兄さんに対してなにかを警戒しろという方が難しいと思うのだけど。
「あー……おれは、こういうことはわからないから、兄さんが全部進めるつもりだと……その、『最後』まで」
恥ずかしいことを言っている自覚はあるが、ここまできたら所謂AだろうとCだろうと俺にはさして変わりはない。けども、俺の言葉に兄さんはぱっと真っ赤に頬を染めて驚いた顔をした。照れているようにも見えるのに、こちらに向けるまなざしはどこか鋭い。
「勝手なこと言うんじゃねえよ。ヤりてえさかりに好きな奴部屋に連れ込んで何もしなかった俺様の理性ナメんな」
それはもしかして、兄さんの部屋にこっそりゲームをしにいっていたことを指しているのだろうか。
「お前が十八になってから、ちゃんとお前んとこのおじさんたちに改めてご挨拶して、それからだ、そういうのは」
俺が全く考えもしなかったことまで兄さんは視野にいれていたことに驚いて、俺は感嘆の息をつくばかりだ。
「兄さんは、やっぱり大人だな」
「どこが大人なもんか。キスひとつに夢中になっちまって、ルッツの前じゃ思春期のガキも同然だぜ」
そう言って自嘲気味に笑う顔すら俺から見ればあまりにも大人で、なのにこんな子供の俺との将来を考えてくれていることがまた一段胸を熱くさせた。



そういうところがキチンと大人で責任持ってる兄さんがすき。

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普独・甘々

ドイツが珍しくスマートフォンを手にしてじっと見つめている、ということにプロイセンは気づいた。手が動いている訳ではないから単純に何かを見ているのだろう。動画か何かか?と思ってさりげなく後ろに回りさりげなく画面を覗き込めば、そこに映っていたのはプロイセンの写真だったものだから思わず驚きの声をあげた。
「うえっ!? なんでソレあんの!」
「うわあああ!? に、兄さん! 気配を消して後ろに立つんじゃない!」
「悪ィ、お前が何見てんのか気になってよ。その写真、あれだろ、俺がブログ作ったときにトップページにしてたやつ。十年くらい前の」
「あ、ああ。昔の服をひっぱりだして自撮りしてたから今度は何を始めたんだと思っていた」
「でもあんときアイス零して全部データ消えたと思ってたんだけど?」
「それくらいでクラッシュするほどヤワじゃないだろう……ハードはだめだったがデータだけは救出して外付けHDDに入れていたぞ。このあいだデータ整理していたらこれを発掘したからこっちにも移したんだ。兄さんにしてはよく撮れているな」
「俺にしてはってなんだよ!」
「兄さんが自撮りするとだいたいピンボケするか見切れてるかするじゃないか」
「するけど! まあ確かにコレは俺様渾身の一枚だな」
「だろう?」
そう言って緩く口元に笑みを浮かべたドイツは再び手元に視線を落とす。傍に本人がいるのに画面ばっか見てんじゃねえよ、と俄かに嫉妬心を起こしたプロイセンはゴスゴスと弟の背中に頭突きをした。
「なんだ兄さん」
「俺様がかっこよすぎて困っちゃうのは分かるけどさぁー! なに、またあの服着てくればいい?」
「いや、別に。こういうのはたまに見るからいいんだ」
「なんだよそれ!」
生身の自分より写真の自分の方が大事にされているように思えてプロイセンはくちを尖らせる。そして構ってもらえるまでゴスゴスと頭突きを繰り返すのだった。


丁度俺様ブログから10年だったので。

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普独・シリアス気味

作業の目途がついて、ドイツはエプロンを脱いで部屋の外に耳を澄ませた。
相変わらず寒いというのに今日はプロイセンが朝からそわそわしっぱなしでまとわりついてきたから、鬱陶しく思って「クローゼットの掃除でもしててくれ!また物を増やしただろう!」とどやしつけてキッチンから追い出したのだ。それっきりぱったりと物音が聞こえない。しかし廊下に出れば遠くから鼻歌が聞こえた。ちゃんと言われたとおりに掃除をしてくれているらしい。
彼らが住む家においてクローゼットとは普通のそれとは違う。大きめの部屋を丸々衣裳部屋にした衣類専用物置である。というのも昔から蒐集癖があり派手好みであるプロイセンが過去使った気に入りの服を片っ端からとっておこうとするからだった。それは現役時代の軍服はもちろんのこと、近年撮影に使った特殊衣装からネイキッドバトラーの布切れにまで至る。黄色いことりの着ぐるみまで持ち帰ってきたときはさすがに「元の場所にかえしてらっしゃい!」と叱ったのはそう遠くない記憶だ。
「兄さん? そろそろおやつの時間だぞ」
言いながらドイツが衣裳部屋を覗き込むと、プロイセンはおよそ掃除をするような恰好ではない服で部屋を漁っていた。普段着の上から白いファーのついた真っ赤なマントを着、頭にはハーフアーチのついた派手な王冠を被っている。
「どこから引っ張り出してきたんだ……十年くらい前の服だろう、それ」
「お、ヴェストも覚えてるか! さっき見つけて、今日にピッタリだと思ってよぉ! なあ『本日の主役』タスキどこにあるか知らねえ?」
「知らない。そういうのもここにまとめてるんじゃなかったか」
「だよなあ、見つからねえんだよ」
「だからあれほどこまめに整頓しておけと……」
「あーもう、説教は結構だぜ!」
プロイセンがそう遮るので、ドイツはしぶしぶ口を噤む。その不愛想な顔を見、プロイセンはすっと目を笑みのかたちに細めた。
「ヴェスト、ちょっと軽く屈め」
そう言ってプロイセンは被っていた王冠を手に持って胸に伏せる。なにをしたいのだかがなんとなくわかってドイツはその場で膝を折って跪礼の形をとった。低くなった金髪の上に、そっと恭しく王冠がかぶせられる。部屋いっぱいにかけられた衣装が、一瞬だけ戴冠式の観衆のように見えた。
そしてドイツは少し不安定なそれを支えながら立ち上がり、わずかに眉根を顰める。
「俺《ドイツ》はとっくの昔に『帝国』じゃないんだが」
「ケセセ! それを言ったら俺なんかとっくにプロイセンじゃねえけど?」
一月十八日。プロイセンが公国から王国になった日であり、ドイツ帝国が成立した日であり、プロイセンが『国』ではなくなった日である。土地を持たない騎士団であった兄が必死に築いてきたものを、土地や民ごと自分に譲り渡した日。それを思うとドイツはこの日を祝っていいのかどうか分からなくなることがある。
気難し気な表情からそれをくみ取ったのか、プロイセンはまたケセセと笑う。
「またヘンなことで悩んでやがんな? お互いにおめでとうって言って笑ってりゃいいんだよ、こういうときはな」
笑い飛ばされ毒気をぬかれドイツもふっと笑み、かぶせられた王冠をただの帽子のようにプロイセンにかぶせなおす。するとプロイセンから軽い抗議の声が上がった。
「あなたが『本日の主役』なんだろう。なら兄さんのところにあるべきだ」
「そうかよ。――今日のおやつは?」
「シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテだ。兄さん好きだろう」
「おう! あ、夕飯後ホットケーキも焼いてくれよ、メイプルたっぷりのやつ!」
「更に甘いもの食べるのか! 太るぞ」
「いいじゃねえか、誕生日なんだし好きなもの食わせろ!」
「まったく……」
喋りながら二人は衣裳部屋を出る。キッチンから漏れたトルテの甘い匂いが二人を柔らかくつつみ、微笑みを誘った。


ワンドロ提出用なのでカプ色限りなく薄くしたけど、同一工場で生産しているのでコンタミってる気がしないでもない。
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普独・シリアス気味

どうにもここ最近、自分の子供返りが激しい、とドイツは自覚している。
同居している兄たるプロイセンが、自分以外の誰かと楽し気にしていたり趣味で忙しくしているとどうにもイライラしてしますのだ。先日など、街中で女性と仲良く話している兄を見かけた瞬間、何も考えず咄嗟に呼び止めて彼女と引き離してしまったくらいだった。その彼女はどうやら犬の散歩のときによくあう犬飼い仲間だったらしく、飼い犬の名前は知ってても彼女自身の名前すら知らないような関係だと聞いたときは、気恥ずかしいような申し訳ないような気分でしばらく落ち込んだ。
俺の兄さんなのに、なんで他のやつばかり構うんだ。根底にあるのはそんな癇癪だというのはとっくに分かっていた。別にプロイセンにないがしろにされているわけでは決してない。むしろ鬱陶しいくらいに構われて思わず邪険にしてしまうこともあるくらいだ。なのにその目に他の誰かが映ることが許せない。まるで、母の関心が下のきょうだいに移って拗ねる幼い長子みたいだ。そんなことは分かっているのに、その癇癪や嫉妬は日を追うごとに増している。

「ヴェスト、俺様今度の日曜オフ会行くから一日中外行ってる」
「え、日曜に? 何故?」
わざわざ俺が休みの日に?という気持ちがこもっていたのを見透かしたのか、プロイセンはケセセと笑う。
「そりゃあ普通、みんな週末は休みだからだぜ? お前と同じでさ」
よく考えなくても道理なことを訊いてしまって恥じ入りながら、ドイツは「そうか、分かった」とだけ返した。

そんなことをドイツはぽろっとこぼしてしまった。プロイセンが留守にした日曜、アポイントなしに唐突に訪ねてきたイタリアに。この親友にも兄がいるということを無意識化で分かっていたからかもしれない。
「お前もそういうことがあるか、ロマーノに対して」
イタリアは数秒考える仕草をした後、首を振った。
「兄ちゃんのことは好きだけど、そこまで執着したことはないなあ。女の子と話してるの見かけても、ナンパかな上手くいくといいね、って思うだけだし」
そのあたりは文化の違いが大きそうだが、この胸のモヤモヤは誰にでもあるものではないとしってドイツは少し肩を落とした。いくら年若いとはいえ、自分たちのような者で子供返りを起こすのはきっと異常なのだろう。その落胆を察してイタリアは訊ね返す。
「お前にはお兄ちゃんがたくさんいるでしょ? プロイセンだけじゃなくてそっちに頼ろうとか構ってほしいとか、そういうのはないの?」
言われてドイツは瞠目する。そしてぐるりと思考を巡らせたあと否を返した。
「どの兄も頼れる兄だけど、こんな風に稚気じみた嫉妬をするのは兄さんだけだな。だからこそ困っているのかもしれない。なんでこんなに執着してしまうのか……」
するとイタリアは何かいいあぐねているような、もにょもにょとしたはっきりしない態度をとった。普段は脳を介さず喋っているのかと思うくらいにお喋りで素直なのに。
「なんだイタリア、言いたいことがあるなら言え」
「あ、いや……なんていうか、さ、代わりがいるはずなのにその人じゃなきゃ嫌で、その人が関心を向ける相手に嫉妬するなんてさ、なんか、恋みたいだなって思って」
ちょっと思っただけだよ!なんてイタリアの言葉はもう耳に入らなかった。兄弟に恋するなんて常軌を逸したことをしてしまっている自分に衝撃を受けて、それきりなにも言えなくなってしまった。


無自覚に恋するどいつさんはかわいい(確信)
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普独・シリアス気味
※『彷徨う羊』の前日譚

「ほんっとあいつらウゼエ!!」
そう言いながらギルベルトがリビングのドアを開けると、彼の父の友人である菊がそこに座っていた。父に愚痴をきいてもらおうと思っていたギルベルトはそれにぽかんと拍子抜けしたけども、菊は全く気にする様子もなく手招きする。
「こんにちは、ギルベルト君。あなたのお父様は村の人の人生相談に向かってしまって、今ここに私ひとりなんです。もしよければ貴方の話聞かせてもらえませんか?」
ギルベルトが愚痴を言いたい気分だったのをぴったりと察して菊はそう言う。彼が聞き上手なのをギルベルトは知っていたから、その提案は丁度よく思えた。とにかく否定せずに話を聞いてくれる人が欲しかったのだ。
だから、友人たちが恋をしていたりキスを済ませていたりして、そのことを自慢げにしてくるのが我慢ならないという話をぶちまけた。そもそもギルベルトは恋というものがよくわからない。だから散々喋ったあとギルベルトは菊をぱっと見、明確に答えを得ようとした。
「なあ菊、恋ってどんなのだ?」
あまりにも率直過ぎるその問いに菊は驚きながら、それでも子供に分かる言葉で真摯に応えた。
「明確にこれと定義することは難しいですけども、私が思う『恋』というと……ずっと一緒にいたいとか、傍にいるとどきどきするとか、その相手を守りたいと思ったりすること、ですかねえ」
そして菊はギルベルトをまっすぐ見、にこりと笑う。
「ついにギルベルト君もそんな相手ができたんですか」
「ち、ちげえよ! フランツがあんまり毎日愛だの恋だの言うからちょっと気になっただけ!」
「おやおや、そうですか」
菊はそう切り上げて笑み、追及の手を緩めてくれたことにギルベルトはひっそりと胸をなでおろした。「ずっと一緒にいたい」と思う相手と聞いて、ぼんやりと、誰だか思い出せないけどもそう思えるひとが確かにいた記憶がある。けどもその気持ちを深く追い回すのはどうにも気持ち悪いように思えた。何かひどく辛く苦しい思い出まで掘り起こされるようなきがして。
「今はまだでも、きっと素敵な女の子と出会えますよ」
菊のそんな慰めの言葉で、触れかけていた思い出の感覚が霧散する。これまで女の子と親しくした覚えはまったくなかったからだ。だからギルベルトは今のは何かの思い違いだったのかと首を傾げて、「ふうん」と呟いたきり興味をなくしたのだった。


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