ろまいつ・甘め 「お前が作るカプチーノがどうしても飲みたくて」 そんな風に言われたら、弟の友人なんだからもてなさないわけにはいかないだろ?(けっして、あの威圧感のあるむきむきを追い返す勇気がなかったとかじゃないんだからな!) だから、俺が供したカップに口をつけて、ほっと顔をゆるませるのに気づいてしまったのも、思いがけずその顔がかわいいと思ってしまったのも、そういうえばコイツはゲルマン国家の末弟なんだっけとおもってしまったのも、俺のせいじゃない。 こんな、俺よりもでかくて、むきむきで、強くて、カタブツなこの男が、可愛いなんて、そんなそんな。 「なあロマーノ、これのレシピを詳しく教えてくれないだろうか。エスプレッソマシンを買って作ってみたんだが、どうもこの味にならないんだ」 そう言いながらやや上目遣いにそういうこの男から、さっと目を逸らす。フォームミルクの泡をつけたままなことに気づいてないその唇を舐めたいという衝動からも目を逸らして。 「門外不出のレシピだからな!そうそう簡単に出してたまるもんかよ!」 「そうか。いちいちロマーノの手を煩わせることになるのが心苦しかったんだが……」 「べ、べつに、何度だって来ればいいだろ。たいした手間じゃないし、作ってやるよ。……、――!! 弟の友達だし金払いのいい観光客だからな!」 慌ててごまかしているのに気づいたのか気づいてないのか、奴は目元を緩ませて笑う。 「じゃあ、何度でも来よう。カプチーノを飲むために」 そんな些細な、きっとリップサービスであろう言葉をうっかり真に受けてしまったから、俺は毎日あいつがうちに来ることをいまかいまかと待っている。 俺からあいつの家にいく勇気は、まだない。 ふぉろわさんがろまいつ語りしていたのを見て軽率に書いたろまいつ習作。 この二人には有り余る時間をぞんぶんに使った両片思いをしてほしい感がある。 |
ろまいつ・パラレル・やや苦め 客のまばらな店内のカウンター席の隅、いつのも場所に座る男の前にロヴィーノはカプチーノを置く。 「ほらよ、いつもの」 「ああ、ダンケ」 ブラックコーヒーの方が似合いそうなこの男、ルートヴィッヒは顔に似合わずカプチーノが好物らしい、というのは3日連続で同じものを頼まれればすぐにわかった。いつも男性客なんか、顔すら覚えないのに。 どこもかしこも堅そうな彼はカップに口をつけた瞬間、表情がフォームドミルクのようにふわっと優しくなる。その変化が好きで、いつからかロヴィーノはルートヴィッヒがカプチーノをひとくち飲む瞬間を見守ってから仕事に戻るような習慣がついていた。 なのに今日はカップを手に取ったまま少し考え込んでいるようだったので不思議に思って声をかけた。 「どうした、冷めるぞ」 「ああ。――ロヴィーノは、女性相手だとあんなに明るく笑うんだな」 「はっ!?あ、ああ……あれな」 ルートヴィッヒが入店してきたとき、すぐ前に女性客二人が居たのを思い出す。にこやかに出迎えて店の奥に誘導し、その笑顔の残りを張り付けたままルートヴィッヒに応対したものだから、少し気まずい思いをしたのだった。 「そりゃ……ベッラはそこにいるだけで場が華やぐんだから、丁寧に接するのはあたりめーだろ」 半分以上は趣味だけど、なんてことは言わないでおく。友人や弟の前だったら平然と言えるけども、彼の前でそんなことはなんとなく言いたくなかった。 「ふむ、つまり、女性客はその存在自体が店の利益になるから、その対価として笑顔で迎えるというわけか」 「そういうわけじゃ……ねえけど……。ていうか!文句あんならもっとサービスのいいとこ行きゃいいだろうが!」 「ロヴィーノが作るカプチーノが一番好きだから、その選択肢はありえないな」 「そう、かよ……」 不意打ちの「好き」にたじろいでいる間に、ルートヴィッヒは少し冷めたカプチーノに口をつける。まだ何か考えているらしい彼は難しい顔のままで、フォームドミルクの笑顔が見られなかったことが、ひどく残念だった。 ルートヴィッヒが去った後、テーブルを拭きがてら、彼の置いていったチップを手に取る。手触りがいつもと違うなと思ってよく見ると、ユーロ札がいつもの倍あった。 これは、チップをはずむから彼女たちと同じ扱いをしてくれということだろうか。 ロヴィーノは眉根を寄せて、ユーロ札をくしゃっと握り込む。こんなに貰っても、彼の望むサービスなんてきっと提供できない。 明るく振る舞えば好きになってもらえるのはわかりきっているのに、ほんとうに好きな相手にだけはそれができない不器用な自分が大嫌いすぎてどうにかなりそうだった。 同じモチーフでパラレルにした瞬間妙に暗くなったのは書いてて以外だったパラレルろまいつ。 このあとフェリちゃんが口出したり出さなかったりでごたごたしたあと幸せになるはず。 |
エリゼ組・パラレル 過去の遺物となりつつある一式のカードを手にし、ポーカーに興じる王が二人。 ひとりはハート国の王・ルートヴィッヒ。 もうひとりは、ダイヤ国の王・フランシス。 かつてこの世界の4国の仲が良かったころに作られたこの54枚のカードは、各国の高官の絵姿をあしらったもので、全ての国で広く売られていた。だが今は販売はさしとめられている。というのも、4国の仲が険悪になりつつあるからだ。 きっかけはほんの些細なことだったと彼らは記憶している。ちょっとした口喧嘩。その口喧嘩をしたのが、スペード国の王とクローバー国の王だったのがいけなかった。この世界で誰が一番強いかなんていう子供みたいなやりとりから喧嘩に発展した二人は、両国の軍事力も含めて強さを争い、今、にらみ合いを続けている。 ハート国とダイヤ国はとばっちりを受けた形だが、この2国の王の友人や親戚がもう2国に居るものだから立場は危ういものになっている。 「もちろん君は僕の味方だよね?」「当然君は俺の味方だろう?」と言われ続けてごまかすのもそろそろ辛くなってきた。 「やっぱりここは中立を貫いて、自国の防衛を固めるべきだと俺は思うんだよ」 フランシスは山札を二人に5枚ずつ配る。 「その意見には賛成だが、お前と手を組むのは危険だと俺は思う」 ルートヴィッヒは配られた手札を見、ふむ、と頷いた。 「なんでだよ!俺自身はまあ置いておくにしてもさ、うちの軍事顧問は優秀なの、ルーイも知ってるだろ?」 フランシスも手札を見、僅かに眉根を寄せた。 「勿論。こと守ることにかけては他の追随を許さない男・バッシュはお前にはもったいないくらいだ。うちのフェリシアーノにも見習わせたい」 「だからさ、バッシュを一時派遣してそっちの防衛力をあげてやろうって言ってるのに。お前ったら観光ばっかり力を入れて、軍事力はポンコツだろ」 「ポンコツ言うな。派遣代が高すぎる、とさっきから言っている」 「いーじゃん、お前金持ってんだもん」 「金があるのは俺じゃなくて、俺の国、だ!国庫をそう簡単にあけられるか」 フランシスはさっさと手札を3枚捨て、3枚山札から取った。 「うち今年不作で財政厳しいんだよぉ、助けると思ってさあ」 「お前がもう少し信用のおける王だったら、そうしたかもな」 「ひどい!」 「ひどいものか。輸出入は今まで通り続けると言ってるのに」 「そうじゃなくてさぁ」 話ながら少しだけ悩んだルートヴィッヒは、1枚チェンジと言って手札をひとつ捨て、フランシスから新しい札を受け取った。 そして目くばせして二人はオープンする。 「役はあんまり良くないけど、なかなか絵面の素敵な役が出来たよ。俺たちの今後を示唆するんじゃないかな?」 フランシスの手札はツーペア。ハートとダイヤのKとAが仲良く並んでいる。残りの1枚もダイヤのクイーンで、色合いがきれいだ。 「ここは俺たちで手を組めって言ってると思うね」 「お前の言うように手札が今後を示唆するというなら、俺の手札は自国のみでどうにかするべきだと言っているように思う。ああ、やはりこんなときばかり俺は勝負強いな」 そう言ってルートヴィッヒが広げた手札は、ハートの9からKのストレートフラッシュ。フランシスの手に渡っているハートのKの場所には、彼とどこか似た顔をしたジョーカーが不敵に笑っていた。 コンビワンドロ【エリゼ組】【トランプ】で書いたものでした。 これを基盤に『トリックスターがほしいもの』ができあがったという。 |
酒乱組・ほのぼの 小麦粉、バター、砂糖、卵を1ポンドずつ。混ぜて焼くだけ。それがごくごくシンプルなパウンドケーキの作り方だ。 「なのに、なんでこんなものができるんだ」 「俺だってしらねえよ!」 呆れるドイツの目の前には、イギリス謹製のパウンドケーキ……であるはずのものだ。真っ黒過ぎて石炭にしか見えないが。何故か金属光沢のようなものまであって、切り分けて中を見るのもためらわれた。ゾーリンゲンの包丁が可哀想大事名ので。 ドイツが菓子作りが趣味だと聞き付けて教えを請いにきたイギリスに、普段作ってるものをいったん見せてみろ、と言った結果がこれである。 「失敗する余地なんてどこにあるんだ」 「それを聞きに来てるんだろうが」 「まあいい。では、一緒に作ってみるか。おかしいところがあれば逐一指摘していく」 「おう、頼んだ」 そして2時間後。 「で、できた……ちゃんとしたのが……」 二人の目の前にはきれいな焼き色のついたパウンドケーキができていた。 「なんだ、ミスなんて火加減がちょっと強くしすぎるくらいじゃないか。そこだけ気をつければ、これくらいならできるようになるだろう」 「そ、そうか……!じゃあ家でもやってみるぜ。その、今日は、一緒にありがとな。うまく出来たら一番に見せてやるよ」 珍しく素直でてれくさげに言うイギリスに、遠慮する、とはきっぱり言えず、ドイツは「期待しておく」とだけ答えた。 その数日後。 『教わった通りにしたのにまた焦げたんだけど』 という文面でドイツに送られたメールに添付されていたのは、あの金属光沢と怪しげなオーラを纏う暗黒物質だった。 どれだけ手順よく作っても、イギリス邸に棲むいたずら好きな竈の妖精が悪さをしていることには、ドイツは勿論イギリスすら知るよしもなかった。 クリスマスオフ会のワンドロにてお題「料理・お菓子作り」で書いたものでした。 30分+フリック入力クオリティ。 |
露独・ほのぼの 呼び鈴が鳴って扉を開けたドイツは、来客の顔を見た瞬間顔がこわばるのを感じた。 「ズドラーストヴィチェ!ドイツくん」 連絡もなしに訪れた来客は、にこにこと玄関先に立っている。 「グーテンターク……あー、なんだ……入るか?」 「もちろん!おじゃまするね」 最近これといった用事もなく頻繁にくる、ちょっと苦手に思うこの同僚の扱いを、ドイツはいまだにどうしたらいいのか決めかねていた。 間が悪い、とドイツは思う。 いつもだったら兄に接客を任せて自分は給仕係に徹することができるのに、今日は昔馴染みと飲みに行くといって昼間からでかけているのだった。 「あー、コーヒーでよかったか?」 「うん、ありがと。それとこれ、お土産ね」 そう言ってロシアが出したのはビール缶のボックスだった。 「ビール……!」 「うちといえばウォッカってイメージみたいだけど、ビールも人気なんだよ。うちで一番メジャーなバルチカ、どうぞ。プロイセン君と一緒に飲んでもらえるとうれしいな」 「ありがとう、いつももらってばかりだな」 「気にしないで。僕がしたくてしてるんだから」 もらった箱をじっとみつめその味に思いを馳せていたドイツは、その間送り主たるロシアを放置していたことに気づいて、失態に頬を染めながら謝罪した。 「す、すまない……」 「ふふ、喜んでもらえたようでうれしいな」 ドイツの様子をにこにこと見つめていたロシアはそう言って、更に笑みを深くした。その様子にドイツはさらに怪訝になる。先日も同じようなことを言っていたのを思い出したからだ。 そのときの手土産はチェブラーシカのぬいぐるみだった。見た目のわりにかわいいものに目がないドイツはそのときも内心とても喜んで受け取った。そしてそのぬいぐるみは今も寝室に飾ってある。 正直に言って、最初こそは苦手な相手だった。でもこうやって足しげく通ってくれて、いろいろと手土産ももらうと嫌な気はしない。むしろ嬉しいとすら思うようになった。 だが、国交的な話はともかくとして、プライベートでここまでよくしてもらうようなことは何もなかったはずだ。戦時中こそ彼には「ここは天国だよ」なんて言われたこともあったけれど、今ではどちらももっと南の暖かいところが好きなはずだ。 「なあロシア」 「うん?なぁに」 「俺に何かしてほしいことでもあるのか?こんなに良くしてもらう理由なんてないと思うんだが」 そう言えば、ロシアはアメジストの瞳をぱちくりとさせて、照れくさげにへへっと笑った。 「えっと、言ってなかったかな」 「何をだ」 「僕、君のこと、好きなんだ。だから、君にも好きになってもらいたくて」 とっくに言ったつもりでいたんだけど、ごめんね、なんて言われてドイツは首筋まで真っ赤にする。 彼といるときのこの落ち着かない感じは「好き」という感情なのだと、知ってしまったから。 「ツンしてた相手にだんだん好きになってくルッツ」というネタ振りをされて。 どいつさんがツンするような相手というのにはあんまり心当たりがないんですが、ろっさまにはちょっと苦手意識がありそう。 |