加玖 side:Canada あの人がいわゆる『身内』と喋っているのを聴いたのは偶然だった。 彼らと同じ訛りで喋る彼。それは僕にとって初めて見るもので、どうしようもない寂しさを覚えた。彼らとの関係には多少の複雑な感情はあれど、それは今までの過去や歴史の上に成り立った絆だと思い知らされたから。 同時に一つの壁が彼との間に出来たように見えた。『身内』との対応と僕との対応が違うということは、僕は彼にとって『他人』なんだ。ずきんと心が痛む。国としての関係も良好だし、個人同士の付き合いもこの上なく良いと、親友以上とすら思っていたのに。 「あ、カナダじゃねえか。いたなら声かけてくれよ」 その言葉遣いにまた心が痛んで、きっとひどい顔色をしているだろう僕を気遣ってくれる言葉にも上手く普段通りの返事ができない。 とても仲良くなったと思ってたのに、そう思ってたのは僕だけだったのかな。 side:Cuba 自称親分達と喋っているのをあいつに見られたと気づいたとき、正直しまったと思った。どうも奴らと喋ってると地が出るというかガラが悪くなるというか、あまり積極的に見せたくはない部分が出るからだ。特に一番好きなあいつの前には出したくはない。怖がられそうで。 動揺した心を取り繕いながらいつも通りに振る舞って声をかければ、ぎこちなく挨拶をかけられた。何か悩んでいるような、心の中を隠したがっているのは直ぐに分かった。こいつは嘘が下手だから。それが分かるくらいには一緒にいたつもりだ。 一番傍にいるのは俺のはずなのになんで悩みを打ち明けてくれないんだ。 キューバさんは河内弁っつーのはオフィシャルだっけ?でもカナダさんと喋ってるときは普通っぽかったので、親分譲りの方言隠してるといいなー。 |
朝菊・コメディ 世界会議の休憩中、力自慢大会もどきが始まったのはイタリアの一言(?)からだった。 「ねえねえスペイン兄ちゃん聞いてよー、この間俺と兄ちゃんが変なやつらに絡まれてた時にさ、ドイツがたまたま通りがかって俺達を小脇に抱えて逃がしてくれたんだよー!すごくない?ねえすごくない?」 ドイツだからそりゃあできるだろう、という思いと、それなりに動く成人男性二人を抱えて移動するとか自分にはできないだろう、という思いと、まあ片方だけなら……?という思いがその場にいたほぼ全員によぎった。 そこからなぜかイタリア兄弟リフティング大会がにわかに始まって、片方すらだっこできなかった者、だっこできても走れはしなかったもの、両方抱えて動けた者などふりわけられていた。 言い出しっぺのイタリアはひっぱりまわされてずいぶん楽しそうだったが、ロマーノは完全に巻き込まれた形で、でも逃げ出すこともできず青ざめた顔をしていたのがはた目にも可哀そうだった。 その様を、やや遠くから眺めていた者が2人。日本とイギリスだった。二人とも力自慢をするには程遠い体系であるために、傍観を決め込んでいたのだ。 「ばかなことで盛り上がってんなあ、あいつら」 「楽しそうなのだからいいじゃありませんか」 「もうすぐ休憩時間終わるってのに議長があん中にいるのは問題だろ」 はあ、と大げさにため息とついて見せたイギリスに、日本はちいさく笑う。 「な、なんだよ」 「貴方が、本当はあの輪の中に入りたがっているように見えたので」 「はああ!?あんなパスタ野郎抱えて楽しいことなんかなんもねえだろ!べ、べつに体力で負けるのが怖いとかそういうのなんかじゃないんだからな!」 「おや、そうですか」 「そりゃああいつらに比べたらちょっとはあれだけど、日本くらいならだっこできるんだぞ」 「え、はッ?!何いってるんですか!私だって多少筋肉は――」 「この大英帝国様ナメんなよ!」 そう言ってイギリスは立ち上がって、有無を言わせず日本の膝裏を右手で掬い左手でその背中を支えた。いわゆるお姫様だっこだ。 えええええ、とうろたえる日本を見、イギリスは満足げに笑う。 「ふ、ふははは!ほらできた! お前は軽いな!羽根が生えてるみたいだ」 顔を近づけてにっと笑ってそう言えば、日本は恥ずかしがるどころかどころか少し青ざめて見えた。 「え、あ、悪い……そうだよな、いきなり足が浮くの怖いよな」 「いや、そうではなく……すいません、おろしてもらえますか」 「ああ」 ちょうどタイミングよく議長であるアメリカが会議の再開を宣言し、そのやりとりはそれっきりになった。 後日。 「私、知らない間に随分とやつれてしまったみたいなんです……鍛えてもらえませんか」と日本がドイツに依頼したこと。 「お前見た目ゴツくないのに怪力だよな、どうやったらそんなパワーがつくんだ」とイギリスがプロイセンに相談したこと。 そしてイギリスがあのとき「紳士たるもの惚れた相手のひとりやふたり軽々だっこできなくてどうする!」とやせ我慢していたこと。 その全てをその目敏さ耳敏さで知ったフランスが、それぞれにどうやってアドバイスしようかひとりでこっそりと悩んでいたのだった。 ふぉろわさんが「朝なら菊さんを抱えて『羽根みたいに軽いな』って言いそう、まじ紳士」と呟いていたので、勝手に拝借して短文。 島国はこういうわけのわからんすれ違いをしている印象があります。 |
芋兄弟姉妹・コメディ ※ 東西芋兄弟姉妹が同じ家に住んでる設定 ある昼下がりのバイルシュミット邸。 ユールヒェンとモニカはリビングのソファで雑誌を読んでいて、ギルベルトは同室の椅子に座ってスマホをいじっていた。ルートヴィッヒは自室で持ち帰った仕事をしている。 ふいにギルベルトが、お、と声を上げ、ユールヒェンに近寄った。 「なあユール」 「なに」 「お前ってコレできる?」 そう言って持っているスマホの画面をユールヒェンに向ける。それを見た彼女は、心底呆れた、という顔をこれでもかというほど作った。(ギルベルトは自分がよくウザイと言われていることを知っているが、彼女のこういう顔も相当煽り力高いと思っている。言わないが) 「あんた、何見てんの。てか何見せてんの」 「いや、こんなタグあったら、そりゃあ見るだろ」 「まあ見るけど」 「だろ?」 「えー……うーん……?」 ユールヒェンは改めてまじまじと画面を見つめ思考する。 「コレみたいに薄着でスマホならワンチャン?」 「おお、マジか」 「てかこういうのならモニカに訊けよ」 「俺様が訊いたらセクハラじゃん」 「あたしはいいのかよ」 「だってユールだし」 「そうだけど」 「だろ?」 「あんたが訊いたらセクハラだけど、あたしがやったらイケるな」 「お前天才かよ」 「当たり前よ、褒めていいぜ」 そんな暇人二人のよくわからない会話を近くで聞いていたモニカは、じとりとねめつける。 「兄さん、姉さん、聞こえてるんだけど」 「聞いてたならちょうどいいな。ちょっと付き合ってもらうぜ」 同意も得ずユールヒェンはにこっと笑い、モニカは眉間の皺を深めた。 「変なことなら私はしないからな」 「たいしたことじゃないって。――ちょっとこっちきて、座ったままでいい、背筋伸ばして、ちょっと胸張る感じで、そう」 しないと言っておきながらも姉の迷いのない指示に従うことに慣れているモニカは、言われるままの姿勢をとった。 「ん、これは余裕だな。ギルベルト」 「はいよ」 ほんの僅かなやりとりでもって、ギルベルトはユールヒェンの望むものを手渡した。つまりは、サイドボードに置いてあった眼鏡を。 そしてユールヒェンはそれをおもむろにモニカの胸の上に載せた。モニカの豊かな胸はそれをしっかりと受け止め支え、落ちる気配はみじんもない。 「「おお……」」 「…………何をしているんだ」 「「たわわチャレンジ」」 普段はしょうもない喧嘩ばかりしている兄と姉は、こんなときばかり息ぴったりに声をそろえる。 「なにそれ」 「見ての通りだ。胸の上に物が乗るかどうかっていう挑戦だな。しっかりあるそそうやって物が乗るし、逆にぺたんこだとすとんと落ちるって寸法だ」 ギルベルトが説明している間にユールヒェンは自分のスマホで眼鏡が載ったモニカの胸を写真と動画で撮っていた。 「くだらないことを……」 「なにがくだらないもんか!滑りやすい服の上から、接着面積の少ない眼鏡を支えられるのは本物のたわわだ!その素敵なおっぱいは我らゲルマン民族の宝だぞ、誇っていいぜ」 ユールヒェンがぐっと親指をたてて自信満々に言うのを、モニカは「主語がでかい」と切り捨てた。 「ユール、あとでそのデータこっちに送れ」 「承知」 「念のため言っておくけどネットに上げたりなんかすんじゃねえぞ」 「当たり前だろ、モニカのおっぱいはあたしたちのもんだ」 「ならよし」 「ならよし、じゃない。私の胸は私のものだ」 何かが通じ合っている暇人二人を前に、モニカは深くため息をつく。 そしてリビングの扉近くで、彼女と同じ表情でため息をつく者がもう一人。 「ところでそろそろ俺の眼鏡を返してくれないか」 たわわチャレンジなるものを知ったとき、モニカっぱいなら余裕でクリアできる!と思ったので。 |
ギルッツ・ほのぼの 最近の兄の流行り事は、絵を描くことなのだろうか、とドイツは思っている。 クロッキー帳にがりがりと何かを描いては唸り、ページを捲ってまた描いては唸って、ということを繰り返していた。 「何を描いているんだ?」とのぞき込もうとすると、あわててクロッキー帳を抱えて隠し、「ケセセ、ひーみつ!」と言うものだから深追いはしなかった。手先の器用な兄のことだから好きなものを描いて楽しんでいるのだろうと思ったからだ。 そんな一時のブームが過ぎて少しした頃、プロイセンがにやにやとしながらちょいちょいと手招きした。 「なんだ?」 「ちょっと贈りたいものがあってよ。手、出せ」 「贈りたいもの?」 言われるままに手のひらで器をつくるように両手を出せば、その片方、左手だけを取られる。そしてその薬指にするりと滑り込ませるようにリングをはめられた。 軍服の襟元につける鉄十字と同じ意匠に蔦が絡んだようなデザインのそのリングは、ドイツの白い手によく映えるつややかな黒で、華奢なようにも見えるけども簡単には壊れないような丈夫な作りであることがすぐに分かった。 「これは……?」 「ペアリング!俺たち、一緒に住んだ後にコイビトになったからさ、贈るタイミングなかったよなーって思って」 手の甲をかざしたその薬指には、そっくり同じデザインの指輪があった。 「もしかして、兄さんがこれを?」 「そうだぜ!このへん俺様の得意分野だからな!こっちの指輪の裏側にはサファイヤ、そっちにはルビーはめこんであるんだぜ!ちっちゃいけどな。俺とお前の目の色!」 そういってプロイセンは自分の指輪を外し鉄十字の裏側を見せると、確かにそこにちかりと光る青い宝石があった。 彼が器用なのは知っていたが、まさかこっそりとこんなことまでするなんて本当に予想外で、薬指を眺めながらしばし呆とした。 それきり何も言わない弟に、プロイセンは首をかしげる。 「どした?気に入らなかったか?あー、お前外出るもんな。恥ずかしいか。中指用にサイズ変更しようか」 そう言ってリングを抜き取ろうとする手を、あわててドイツは押さえて止める。 「いや、違う!待ってくれ。その、嬉しくて、びっくりして、言葉を失っていただけだ。上手く言葉がみつからなくて。ああ、ほんとうにうれしい。ほんとうに。ありがとう、兄さん」 押さえた手に指をからめ柔らかく握る。そして薬指にはめ込まれた宝石と同じいろの目にそっと唇を落とした。 フォロワさんがじゃんぷらのアクセづくりできる兄さんを見て「絶対ペアリング作ってる!」って言ってたので。 最近の兄さんはほんとなんでもできるスーパーマンすぎて惚れる。 |
エリゼ組・パラレル 過去の遺物となりつつある一式のカードを手にし、ポーカーに興じる王が二人。 ひとりはハート国の王・ルートヴィッヒ。 もうひとりは、ダイヤ国の王・フランシス。 かつてこの世界の4国の仲が良かったころに作られたこの54枚のカードは、各国の高官の絵姿をあしらったもので、全ての国で広く売られていた。だが今は販売はさしとめられている。というのも、4国の仲が険悪になりつつあるからだ。 きっかけはほんの些細なことだったと彼らは記憶している。ちょっとした口喧嘩。その口喧嘩をしたのが、スペード国の王とクローバー国の王だったのがいけなかった。この世界で誰が一番強いかなんていう子供みたいなやりとりから喧嘩に発展した二人は、両国の軍事力も含めて強さを争い、今、にらみ合いを続けている。 ハート国とダイヤ国はとばっちりを受けた形だが、この2国の王の友人や親戚がもう2国に居るものだから立場は危ういものになっている。 「もちろん君は僕の味方だよね?」「当然君は俺の味方だろう?」と言われ続けてごまかすのもそろそろ辛くなってきた。 「やっぱりここは中立を貫いて、自国の防衛を固めるべきだと俺は思うんだよ」 フランシスは山札を二人に5枚ずつ配る。 「その意見には賛成だが、お前と手を組むのは危険だと俺は思う」 ルートヴィッヒは配られた手札を見、ふむ、と頷いた。 「なんでだよ!俺自身はまあ置いておくにしてもさ、うちの軍事顧問は優秀なの、ルーイも知ってるだろ?」 フランシスも手札を見、僅かに眉根を寄せた。 「勿論。こと守ることにかけては他の追随を許さない男・バッシュはお前にはもったいないくらいだ。うちのフェリシアーノにも見習わせたい」 「だからさ、バッシュを一時派遣してそっちの防衛力をあげてやろうって言ってるのに。お前ったら観光ばっかり力を入れて、軍事力はポンコツだろ」 「ポンコツ言うな。派遣代が高すぎる、とさっきから言っている」 「いーじゃん、お前金持ってんだもん」 「金があるのは俺じゃなくて、俺の国、だ!国庫をそう簡単にあけられるか」 フランシスはさっさと手札を3枚捨て、3枚山札から取った。 「うち今年不作で財政厳しいんだよぉ、助けると思ってさあ」 「お前がもう少し信用のおける王だったら、そうしたかもな」 「ひどい!」 「ひどいものか。輸出入は今まで通り続けると言ってるのに」 「そうじゃなくてさぁ」 話ながら少しだけ悩んだルートヴィッヒは、1枚チェンジと言って手札をひとつ捨て、フランシスから新しい札を受け取った。 そして目くばせして二人はオープンする。 「役はあんまり良くないけど、なかなか絵面の素敵な役が出来たよ。俺たちの今後を示唆するんじゃないかな?」 フランシスの手札はツーペア。ハートとダイヤのKとAが仲良く並んでいる。残りの1枚もダイヤのクイーンで、色合いがきれいだ。 「ここは俺たちで手を組めって言ってると思うね」 「お前の言うように手札が今後を示唆するというなら、俺の手札は自国のみでどうにかするべきだと言っているように思う。ああ、やはりこんなときばかり俺は勝負強いな」 そう言ってルートヴィッヒが広げた手札は、ハートの9からKのストレートフラッシュ。フランシスの手に渡っているハートのKの場所には、彼とどこか似た顔をしたジョーカーが不敵に笑っていた。 遅刻組でしたが、コンビワンドロ【エリゼ組】【トランプ】で書いたもの。 クールでオシャレを目指して……!某芋領動画主さまの影響で、どいちゅさんはカードの引きがいい印象があります。 |