Trans! おまけ集
side:K
side:M-after
side:K&…?
side:M&K



side:K
※政宗様の容姿で転生した小十郎(6歳)の鬱々としたモノローグ



淀んだ眼の子供がじぃとこちらを見ている。生きることに対する希望を見出せない、歳に似つかわしくない老成した瞳。
それは400年以上前の出会いを思い起こす光景でもあるが、あのときと違うのは、その眼差しが鏡の向こうから見つめてくることだ。
魂や転生を司る神が居るのなら、何を思ってこのような過ちを犯したのか。
あの方が居なければ俺の存在価値などないというのに、酷く身近でありながら手の届かない場所に、姿だけが見える。

嘗ていくさばで爛々と輝いていたひとつきりの瞳が、鏡の中から責めるように見つめてくる。
何故天駆ける竜の身体に、貴様のような卑しい獣が棲んでいるのだ、と。

そんな自責をひとときたりとも手放せないまま、息を吸って吐くだけの日々を繰り返している。




続きを書いてみようと思ったらこじゅが鬱々としだしたので頓挫した感じです。ギャグにならない。
こじゅは政宗様の身体を乗っ取っちゃったと思い込んでます。





side:M-after
※Trans!本編の数時間後 高校の入学式の日に佐助と遭う政宗様



入学式といえば新しい出会いへの期待と不安で胸を膨らませるものだと相場が決まっているが、朝に思いがけない出会いをしちまったせいで教室に入るまで完全に気もそぞろだった。どうやって登校したかも覚えちゃいない。
自分の席を探して座って、ようやく辺りを見渡す余裕が出てきた。そわそわしてる奴とか早速友達を作ってる奴とか、いろいろいる。俺も近くの席の奴に声をかけてみようかと思った瞬間、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「あれ、右目の旦那じゃない?」
『右目』の単語に反応して振り向けば、人懐っこい笑みを浮かべた男が近くに居た。
「あ、やっぱりそうだ。久しぶりー!……あ、俺のこと覚えてる?」
フェイスペイントもないし黒髪だったがその顔立ちは、武田の副将にまでなった忍び・猿飛佐助のものだった。
「Of course. ただ、俺は『右目の旦那』じゃねえよ」
そう言って鼻で笑うように口角を引き上げれば、猿飛は露骨に顔を歪めた。
「うげっ、あんたもしかして独眼竜?」
「Exactry!よく分かったな」
「その口調で分かんない方がおかしいでしょうが!あーあ、やな奴に会っちゃったなー。なんであんたがその体に入ってんのさ」
「俺だって知らねえよ。っていうかこの身体が小十郎のものだって今朝気付いたばっかだ」
「え、そうなの?ああ、記憶が断片的にしかないタイプかー」
そこまで話したところで、式が始まる時間になった。一通り「入学式の日」らしいことを終えてから下校がてら聞いたところ、猿飛の知る範囲では何人かあの時代の武将の生まれ代わりが居るらしい。姿も記憶もほぼ保持している奴、断片的に覚えている奴、記憶はあるが姿がすっかり変わっている奴。猿飛の知る範囲で挙げれば、僅かに前世の記憶のある真田幸村は隣市の中学校で部活に生きる日々を謳歌していて、前田の風来坊は今世では雑賀の三代目の姿になって女子力を上げることに腐心しているらしい。……見たいような見たくないような。
「小十郎は居ねえのか」
「居たらあんたを右目の旦那と思う訳ないでしょ」
「そりゃあそうだ」
じゃあどこかで別の姿になって転生してるかも知れないってことか。早く見つけてやんねえとそのうち追い腹みたいなことしかねねえ。
「そういや猿飛は姿が変わってる訳じゃねえんだな」
「ん…?ああこの髪のこと?初日から目立って目ぇつけられるのって嫌じゃん?だから黒染めしてんの。小中んときは赤毛のせいで面倒事に巻き込まれたからねー」
「じゃああれか。忍びだったときより今の方が地味なんだな?」
遠慮なく突っ込めば、背後から拳が飛んできたのでぎりぎりのところで躱した。Good Job 俺の反射神経。
「なんだよ、事実じゃねえか」
「分かってるからムカつくんだよ!あとね、朝も言おうと思ったけどその顔でそういうドヤ顔するとマジで悪人にしか見えないからやめときな」
「いいじゃねえか、小十郎の顔なんだ。coolだろ?」
「そりゃあ欲目ってやつだよ」




政宗様のことがあんま好きじゃない佐助(逆はそこまででもない)という構図が好きです。





side:M&…?
※時系列特になし。ランドセルの有効活用(?)をしてみたかっただけ。



場違いな三つ葉葵の紋が視界に入って、小十郎は足を止めた。昨今色んな柄のランドセルカバーがあるとはいえ、随分渋い紋様を選んだものだと思った矢先、茶色地のそれにふと思いあたることがあって少しだけ足を速める。距離をつめれば、そのランドセルの端からドリルと蜻蛉のストラップが見えて、確信はさらに強くなった。
だが傍まで寄ったところでなんて声をかければいいか分からず、足を止めるとその子供が振り向き紅い双眸がこちらを見止めた。
「えーと、昔会ったことないか?」
言ってから下手なナンパみたいだと小十郎は後悔した。案の定相手は無言で小首を傾げている。
「ああ、じゃあ伊達とか徳川って名前に心当たりは?」
「……!」
するとその子供は小十郎の前髪に隠れた右目を見、手を握ってきた。小十郎は今生で初めて隻眼というアイデンティティに感謝した。
「お前は本多忠勝で間違いないか?」
すると彼はぶんぶんとすごい勢いで頷いた。まさか戦国武将の生まれ代わりが、こんな近い歳で近い場所に居るなんて思いもしなかった小十郎も、つられるようにして笑む。
そしてふと視線を下に向けて視界に入ったものに、驚いて動きを止めた。
「……?」
「お前、今生は女子だったんだな」
後ろから見た時にはバックパックを模したランドセルに視線がいって気付かなかったが、その下にはプリーツスカートが風に僅かにひらめいていた。




この数日後ビニ傘に援護形態のビットを括り付けて援護突進ごっこをする忠勝と「そこまでする必要ないんじゃないか」とぬるく突っ込む小十郎の姿があったとか。





side:M&K



ガキの頃、自分の顔なんて大嫌いだったから碌に見たことは無かったが、こうやって改めて見てみれば、まあそれなりに可愛いじゃねえか。あの時代はハンデや病気が迷信になって今以上に厭われたとは言え、こんなcuteな子供を鬼子呼ばわりしやがって、と今更なことを思う。
ただ、怪訝な顔をこちらに向けているのはいただけない。
「どうした、小十郎?」
「いや、さして申し上げるほどのことでもないのですが」
ふくふくとした子供の唇から硬い小十郎の口調がでてくるのがちぐはぐでなんか笑える。
「なんだ言ってみろ」
「前の世でも散々ヤクザだのなんだの言われてましたが、政宗様のような笑い方をする小十郎は、どうにも不逞の輩のようで」
元が己の顔だと思えばこその、複雑そうな面持ちなんだろうか。
「なんでお前ら揃って似たようなこと言うんだよ…」
「……?」
「なんでもねえ」
今の姿も気に入ってる俺が、なんかマイノリティみたいじゃねえか。




このオチがやりたかっただけ。
こじゅの顔+ドヤ顔する政宗様=小政でよく見る攻め攻めしいこじゅ というイメージです。なんとなく。