クダエメ♀ ※ エメット女体化 「あーもう!無理!」 呻くような叫ぶような声が部屋から漏れ出てきて、クダリは足を止めた。その声は確かにエメットのものだが、いつもきゃらきゃらと明るく笑う彼女のものより幾分低かったのは、何かしらのストレスが噴出したからだろう。 別にする必要もないが一応閉じられた扉を軽くノックし、返事も特に待たずクダリは部屋に入った。当のエメットは猫背で何か作業を続けていた。 「何かあったの、エメット」 「んー?ミサンガ編もうとしてたんだけどね、やっぱボクこういうの無理!嫌になっちゃった」 「僕はこういうの結構得意だけどな。代わりにやろうか?」 「それじゃあ意味ないん――」 言いながらエメットの青い瞳がクダリのほうを向き、一瞬の後。 「うわああああああ!!」 「うわああっ?!何?どうした?!」 突然の絶叫を間近で受け、クダリも短く叫びながら弾かれるように距離をとった。 「クダリ?!」 「う、うん、僕クダリ」 「なんでここにいるの!」 「なんでって、出勤してきたからだけど……」 「クダリ今日遅番じゃん」 「う、うん……?いつも時間の1時間前には出勤してるよ?」 「……っ!!クダリの仕事バカ!あほ!いじわる!」 「なんでぇ?!」 突然の幼稚な罵倒にクダリは目を白黒させ、エメットは手にしたミサンガと張り合うくらい顔を真っ赤にしていた。 「しかもこれ意味ないし!もー!」 怒ったようにわめいてエメットは脱兎のごとく駆け出し、部屋を出て行った。 クダリはしばらくぽかーんとしたまま彼女が出て行った扉を見、その後ひとまず机を片づけることにした。 机の上には女性用雑誌が広げられ、そばには赤い毛糸玉が転がっていた。 「あの子毛糸でミサンガ編もうとしてたんだ?」 不可解に思いながら毛糸玉を拾えば、それがただの毛糸玉ではなく『あかいいと』であることに気付いた。 ふと雑誌の方に目を落とせば、広がったページにはミサンガの編み方がわかりやすい図で説明されている。そしてその図解のそばには「『あかいいと』のミサンガをつけて、気になるあの人もメロメロにしちゃえ☆」と少々頭の悪そうな煽り文句が記されていた。 「――ってことは、エメット、好きな人がいるってことなのかな」 ぽろりとこぼれた独り言は、無意識にクダリ自身の胸をちくりと刺した。その痛みの理由さえ分からず、雑誌を閉じながら再び扉を見つめる。 その面持ちがさびしげに暗くなっていたのを、クダリは知らなかった。 『「赤」「いじわる」「はつこい」がテーマのクダエメ♀の話を作ってください』というお題ったーからの指令でした。 はつこい=小学生並の恋愛=おまじないということでひとつ…… |
上下+クラウド ※ 途中で頓挫 残業続きで随分と疲れが溜まった体をぐーっと伸ばしながらクダリは帰路につく。タイミングが合えばノボリと共に帰っているのに、このところずっと兄はとうに家に帰っていてひとりきりだ。人気のない道に響くひとつだけの足音にそんなことを再確認してしまって、クダリは一つ溜め息をついた後、むくれた。 「最近忙しくてノボリが足りない……さみしい。そりゃあ仕事じゃ一緒だけど全然いちゃいちゃできてない!――あれ?」 夜もとっぷりと暮れて近所の家々も灯りがついているところはほとんどない。なのにこの時間なら眠っているはずのノボリの部屋には煌々と明かりがついていた。 「た、ただいまー……?」 扉を開けて言ってみても応えはない。玄関に荷物を置いてから、なんとなく足音を忍ばせてノボリの部屋の前まで行くと、声が聞こえた。誰かと話しているようだった。 「――何をそこまでおびえているんです。大丈夫ですよ。――そんなことで嫌いになったりしませんから。ほら、こちらを向いて。――ええ、良い子」 時折相手を窺うような間があるのに声は聞こえない。ライブキャスターで話しているのだろうか。しかしノボリが『良い子』なんて表現するような人に心当たりはない。友人や部下に対してだって敬称をつけて一線を引いた距離でいるのに、そこまで親しい間柄の人が居ただろうか。 クダリがくるくると考えている間にノボリの話し相手は色よい返事をしたのか、ノボリの声色が宥めるものから柔らかなものに変わった。 「――ありがとうございます。わたくしも、あなたが大好きですよ」 クダリの顔からさっと血の気が引いた。その場に立ち尽くすことしかできなかった。手から力が抜け、持っていた帽子が音もなく落ちたことすら気づかなかった。 どれくらい時間が経ったのかも分からない。何時間も立ち尽くしていたかもしれなかったし、1分もなかったかもしれない。ふらっとよろけてたたらを踏んだ足が、がたっと大きな音を立てた。 「え、クダリ?帰ってたんですか?」 扉の向こうからノボリが少し驚いたように問う。その声にはじかれるようにクダリは自分の部屋に駆けこんだ。 剥ぎ取るようにコートを脱ぎ、ベッドに倒れ込んだ。悲しさよりもショックの方が大きすぎて、涙も出なかった。 「ってことがあったんだけどどうしよう!」 「なんでそれをわしに言うんや」 「だって、ぼくたちのこと知ってて相談できる人そんなにいない。その中で人生の先輩、クラウドだけ」 「さよか……」 はあ、と煙を吐き出してクラウドは頭をがしがし掻く。いつもは異常なほどべったりとしている二人が、今日に限っては同じ部屋にいるところすら見かけないのはそういうことか、と今納得した。 クダリは浮気現場(推定)に遭遇して以来気まずくてノボリを避けているとか、まあ大体そんなところだろうとあたりをつける。そうでなきゃ、煙草を吸わないクダリが喫煙室に入り浸るという現状があるはずがない。 「で、クダリはどうしたいんや」 「どうって」 「証拠集めてノボリを問い詰めるとか、もう一緒に居たくないから別れるとか、我慢してでも現状維持するとか、何かしらあるやろ」 少なくとも前者2つに関しては一波乱も二波乱も巻き起こるのは避けられそうにない。それを察してかクダリはぐっと黙り込んだ。 「わしら鉄道員の要望としては、プライベートなことを職場に持ちこしてほしくないとは思うで。今みたいにな」 「……ごめん」 「だから是非とも穏便に済ませてほしいところやな」 「がんばる」 「おう、がんばれ」 暫しの沈黙が落ちてから、クダリがひとつ大きなため息をついた。 「ノボリ、ぼくのこと嫌になっちゃったのかなあ……飽きちゃったのかなあ……」 「いや、それはないやろ」 「だって浮気してた」 「その現場を見てないからなんとも言えんが、それ、誤解やないか?」 「ぼくにだってあんまり好きって言ってくれないのに、誰かに大好きって」 「少なくともノボリがクダリのこと大好きなんは傍から見てて分かるで。っちゅーか……」 なんで分からないんだ、と思いながらクラウドは今日のことを思い返す。 クダリはノボリを避けるように立ち回り、ノボリはシングルへの呼び出しが相次ぐ中、暇を見てはクダリを探していた。その瞳はうろうろと不安を抱えていて、クダリが傍に居ないのが落ち着かないというのがひしひしと伝わってきた。クダリはそれを見てないから見当はずれな憶測を立てているのだ。 むしろ、今の状況をノボリに見られたら半殺しの目に遭うのは避けられないだろう。クラウドの上着の裾を握ったままぴったりと寄り添うクダリは、俯いて涙目でいる。「わたくしのクダリを泣かせたのは貴方ですか」と凄まれる様子が容易に想像できた。 兄弟喧嘩なんだか痴話喧嘩なんだか分からない揉め事に巻き込まれるのは初めてではないが、歓迎したいことではない。問答無用で消し炭になるのは嫌やな、とクラウドはぼんやりと思った。 「クダリが見たんは状況証拠だけやろ。疑わしきは罰せず。とっとと本人に確認しい」 「う、うん……」 本気で避けるつもりなら了承しないだろう。要するに背中を押してほしかっただけなのだ。概ねいい方向に誘導できたようでクラウドはほっと一息ついた。 ちょうどそのときマルチの呼び出しがかかった。 「ええタイミングや。本気でノボリに非があるなら、わしらもクダリの味方になったる」 「うん、ありがと」 クラウドは今日マルチに配属されているため、吸っていた煙草を消してクダリの後をついて共に喫煙室を出た。 途端、 「「あっ」」 似た声がハモったのが聞こえ、クダリが立ち止まる。途轍もなく嫌な予感がしながらも、立ちふさがった形になったクダリの横から前方を窺い見れば、黒いコートの端が視界に入りクラウドは大きく溜め息を吐いた。 「クダリ、探しましたよ。マルチに呼び出しです」 「知ってる」 「では、急ぎましょう。――それと、後で大事な話があります」 クダリの身体が緊張で強張るのが、後ろからでも分かった。それを無視する形でノボリはクダリの腕を取り、引っ張るようにしてマルチトレインのホームに向かった。 数歩歩いてノボリは立ち止まり、クラウドの方に振り向く。常から不機嫌そうな表情を更に険しくさせ、睨みつけるられる、その眼差しが言わんとすることは「わたくしのクダリに近づかないでくださいまし」だろうか。 クラウドはもうひとつ大きく溜め息を吐いた。 「なんであんなん傍に侍らせて、勘違い出来るんだか」 恋は盲目なのか灯台下暗しなのか、とりあえず消し炭にならずに済んでよかったとクラウドはひとりごちた。 ここから誤解を解くに至る話が続いたはずだけど、めんどくさくて頓挫。 上下も下上も好きだけど、ゲークダちゃんは攻め寄りな気がすると思いながら上下を書くとこうなるという悪例。 |
エメ(クダ)+イン ※途中かけ 抜け殻のようになったようなエメットが、有給をとっていたにも関わらず出勤してきたのは始業時間から2時間経った頃だった。 「どうしたのですか、エメット。白コート着たワタクシみたいになってますよ」 「うん……ちょっとね……」 自虐にもとれる揶揄にも生返事といった声が返ってきて、これはかつてないほど重症だとインゴは認識する。落ち込んでいても復活する余力があれば「インゴ程威圧感迸らせてないよ」くらいの反論はあるはずだからだ。 「なにか、やることない?」 「無いですよ。今日はダブルもマルチも運休ですし、書類仕事も昨日お前が散々消化したじゃないですか。今日のために」 言えば、空っぽの表情だったエメットの顔が我慢するようにぐっと歪んだ。 「それ、なくなった」 「何があったんですか。今日、あれだけ楽しみにしてたデートでしょう」 「いえで、ひとりだと、かなしくて。なにか、してないと、うごいてないと、しんじゃう」 たどたどしく紡がれた言葉は不出来なロボットのようで、エメットが壊れかかってるのは如実に見て取れた。 喜と楽の表現が苦手なインゴとは対称的に、怒と哀の表現が苦手なエメットは昔から無意識に泣くのを我慢する癖がある。それをうまく促すのが長いことインゴの役目だったが、そういえば久しくこんなことをしていなかった。 「幸い今日はワタクシも手が空いています。話くらいなら聞いてやりますよ」 そう言って、インゴは鉄道員に一つ二つ伝言を残して、エメットと共に執務室に消えた。 「全部ボクが悪いんだよ」 そう言いながらぽつぽつと話し始めた内容に、インゴは正直呆れた。 要するに、クダリとのデートの日付を間違えたということらしい。 元々二人は映画やミュージカルの好みが近く、タイミングが合えば観劇に行っていた。しかし仕事の都合や国を跨いだ関係である以上タイミングが合うこと自体がなかなかない。 「せっかく娯楽都市に勤めてるのに、あのミュージカルのニンバサ公演結局いけずじまいだったよ」 と愚痴ったところ、こちらの繁忙期がちょうど終わる頃に同じ演目のライモン公演があり、クダリがいろいろな伝手を使って良い席をとることができた。もちろんそのチケットの日が件のデートの日だった。 「土曜日の講演なのに土曜日にユノヴァ出る予定だったら間に合うはずないどころか閉演してんだろうが、時差9時間あんだぞ」とインゴは思ったが、一応口に出さないでおいた。そんな当たり前のことエメットは重々承知している。 連絡とりたくなって集中がきれるからと言って対クダリ専用機にしているライブキャスターは自宅に置きっぱなしでほとんど放置だったのもいけなかったらしい。 大抵のことは器用にこなすのに、時折ここぞというときに裏目にでるという弟の星のめぐりの悪さを、生まれた時からの付き合いであるインゴはよく知っていた。 とある声優二人の一時期の不仲エピソードを基にした話だったのだけど、彼らがどうやって仲直りしたのかわからなくて頓挫。 エメクダの仲をこっそり応援するインゴさんっていいと思う。 |
エメクダ ※途中かけ ボクの恋人は、えっちのあと冷たい。 普通女の子が彼氏に言う文句みたいだけど、一応ボクが彼氏側……のはず。 散々かわいがりまくってとろっとろにしてちょっといじわるしたりして、トばしちゃえば別にそういうことはない。だけど、終わってすぐ正気を取り戻しちゃうとクダリは不機嫌そうな怒ってるような顔をする。 これでも勉強して試行錯誤を重ねて気持ち良くしてあげてるつもりなんだけど、やっぱり痛かったり無理させたりしてるのかなぁ、なんて。別に立場を交換してほしい、有体に言えばボクにネコをしてほしい、ということはないらしい。 ……ああ、やっぱ生は嫌なのかな。連続でスるとき滑りよくなるし、ゴムの着脱で中断するのも嫌とか色々理由はあるんだけど。 こっちの我儘でさせてもらってることなんだし、後処理手伝うって言ったことはある。そのとき、「エメットが処理だけで終わらせるはずないじゃん」と吐き捨てたときのクダリの心底嫌そうに顰められた顔は忘れられない。恋人としての付き合いはそんなに長くないのに、ボクのことをよく理解していると思う。 それでもボクはベッドの中でいちゃいちゃしてたいなぁ、という夢を捨てきれないわけで。 「クダリ、きもちよかった?」 「見れば分かるでしょ」 彼はときどき素直じゃない言い回しをする。それが照れ隠しなのも知ってる。 「へへ、ボクもきもちよかったよ。いっぱい出しちゃった」 「……だね」 「でも、痛かったり苦しかったりしたら、言ってね」 「大丈夫」 無理をさせてないか本当に心配してるのに、どうも伝わってないような気がいつもしていた。クダリは嘘は言わないけど隠すのは上手い。でも、大丈夫って言うから大丈夫なのかな。 僕のものを余さず注ぎ込んだクダリの薄い腹が愛しくなって、労わりもこめて優しく撫でれば、ばちんと手をふり払われた。そして、ほら、また苦しそうな顔をする。 ぐっと顔をしかめたままベッドを出ようとしたクダリの、腕を掴んで引き止めた。 「何?」 「もうちょっと、余韻とかさ。たまにはべったりくっついて、朝までいちゃいちゃしたいなーって」 「処理怠って、困るのは僕なんだけど?」 「別にベッドじゃなくて、風呂場でももいいよ。もうちょっと一緒にいたい。もう1ラウンドとか誓ってしないから!」 「結・構・です!」 かなり強い口調で断られて、食い下がっていたボクの心はべきっと折れた。折れた心の破片の部分で、クダリの腕にすがるように力をこめたら、聞えよがしな溜め息がひとつ。そして。 「ねえ、エメット。――僕達、別れようか」 その言葉に、ボクの心臓は冷水をぶっかけられたようにすっと冷えた。 □ □ □ □ □ 僕はエメットとのセックスが、好きだけど嫌いだ。何を言っているのか分からないと思うが、要するに好きな物に必ず嫌なものが付随してくる、とかそういう意味で好きであり嫌いなのだ。 エメットとするのはきもちいいし、丁寧に扱ってくれるし、愛されてる実感がある。そういうところは好きだ。でも、事が終わったあとに、毎回お腹を撫でられるのがたまらなく嫌だ。 彼は、自分がどれだけ愛おしそうな顔でそうするのか知っているのだろうか。 彼は、自分がどれだけ残念そうな顔で後処理した僕を見つめているか知っているだろうか。 その表情に僕は、叶えられない望みと謂れの無い罪悪感を覚えてしまう。 僕にはいまいちピンとこない感覚ではあるけど、普通、人はいつか子供が欲しいと思うものだ。 だけど彼が優しく撫でる臓器は、決して次代へ続くものではない。 お互い好きになったという理由で付き合い始めた僕らは、あるべき未来を捨てるだとかそんな御大層な覚悟をしている訳ではない。だけど彼が望む未来があるなら、それを拘束する権限などないことに僕はずっと気付いていた。 彼はどれだけ僕のことを愛しているかをつらつらと語ることがあるけど、やっぱり僕は「君はモテるし若いのに、なんでこんなオッサン1歩前の男になんか惚れたんだよ」と言いたくなる。 もちろん僕もエメットのことを誰よりも愛しているけど、無言の期待を押し付けられることにもう疲れてしまった。 だから、前から過っていた別れの言葉がぽろりとこぼれ出たのが、たまたま今日だっただけだった。 直後、人の顔から一瞬で表情が消えさっと蒼褪めるという少し珍しい現象を初めて目撃した。 「な……ん、で」 何で、なんて。今更訊くことでもないだろうに。 僕にはずっとそこにあって見えていた絵を、エメットは初めて突きつけられたような、そんな顔をしていた。 ここから持ち直す話を書きたかったのに、持ち直す過程がまったく思い浮かばなかった。 エメクダに限らず、アニクダくんはまじめでネガティブというイメージがかなり強くあります。 |
エメクダ 「エメット、すき」 唐突にそう言われて、エメットは危うくバチュルを取り落すところだった。 「え?あ、ありがとう……?」 「へへ、言っちゃった!ノボリに言っちゃダメって言われてたけど、やっぱりぼく、隠し事できない」 とりあえず礼だけ言えば、クダリはいつもの笑みをより一層深くして幸せそうに笑んだ。 いつもならつられ笑いでもするエメットも、今のがどうにも普通の「好き」ではないことに気付く。 「言っちゃダメって、どういうこと?」 「『エメットさまが困ってしまうから秘密にしておきなさい』って、ノボリ言ってた」 「ボクが困っちゃうような『好き』なの?」 「うーん……ちゅーとかしたいなぁ、っていう『好き』だよ」 あたりまえのような顔でにこにことそう言うものだから、エメットは面喰ってしまった。 だってこれまでクダリとはずっと同業者兼異国の友達だった。今だって「高個体値色違いバチュル育てたい」というちょっと夢見がちなエメットの要望に応えるべく、クダリ秘蔵の厳選漏れバチュルを出してもらって譲り受けたい子を選んでいたところだったのだ。 時折やたら熱い視線を感じるとは思っていたけど、そんな目で見られていたなんて露にも思わない。 「……それは、ボクの恋人になりたいってこと?」 じっと考えてようやく出した問いに、クダリは予想外の形で答えた。 「別に、そんなことないよ」 「え?」 「だって、エメットは女の子が好きで、女の子たちと遊んでる方が楽しいでしょ」 「もちろんそうだけどさ」 「ぼくは、無理してまでエメットに一緒にいてほしいとか、思わないもの」 「無理……?」 「そりゃあ、女の子たちに対してうらやましいなあ、って思う気持ちはあるけど、それだけ。彼女たちがエメットにあげられるような楽しさを、ぼくがあげられないの、知ってる。だからね、関係は今のままでい」 クダリは相変わらずにこにこと笑顔のままで、その言葉の裏に読み取れそうな意図は見えない。 「クダリはそれでいいの?」 「……?いいって、今言った」 不可思議そうに首をかしげるクダリに、エメットは釈然としない思いだった。 エメットにとってクダリは特別な人間だった。誰とも仲良くなるかわりに誰とも深い関係を築けなかったエメットが、肉親以外で心を許せる唯一の相手がクダリだった。もちろんそれは友人として、だけども。 エメットは唯一とも言える親友に幸せになってほしいし、その親友はエメットに恋心を抱きながら、エメットに幸せになってほしいと思っている。クダリの考えるエメットの幸せとは「エメットが女の子と結ばれること」だけども、エメットはクダリの想いを無視して普通の恋愛をしても幸せになれるとは思えなかった。 クダリがさらりと口にした恋心はさも当然かのようにそこに鎮座しているが、例えるならそれはおそらく地面に置かれたガラス細工のようなものだ。エメットが拾い上げてから重さに耐えきれず落としてしまったら、きっとクダリの心は砕け散ってしまう。そう思えば、うかつに拾い上げることなどできない。 ノボリはそれを真綿に包んでしまっておくことを選んだ。エメットはそれをどうするべきだろうか。 幸せできゃっきゃうふふしてる彼らが好きなのに、なんでこんなに薄暗いというか明るい未来が見えないのばっかり書いてるんですかね…… |