沖田組 本丸の穏やかな朝、清光は安定の部屋を訪れていた。 寝起きの安定に清光は「おはよ」と手を振る。清光の姿を見つけた安定は笑い、「おはよー。今日もいい天気だねー」と青空を眺めた。 同じように清光も青空を眺める。 「ほんっと、すがすがしいほどのいい天気」 言葉とは裏腹に清光の眉根には皺が寄っている。 「何、晴れてたら駄目だった?」 「主がさ、今日の夜はなんか特別な夜で、雪が降ってるとロマンチックなんだって」 「ああ、くりすます、だっけ?僕あんまりよくわからないんだけど」 「俺も。でもさ、主が雪が降るの望んでるみたいだったから、ちょっと残念だなーって」 「そういわれると、確かにね」 そう聞いてしまうと雲一つない澄み切った空が、ちょっとだけ恨めしく思える。 「うーん……?ねえ清光」 「なぁに」 「雪が降ればいいんだよね?」 「そーね」 「今日の夜はすごく冷えるって予報だったと思うんだ」 「ふぅん……あ」 「分かった?」 安定はにやっといたずらっぽい笑顔を見せ、清光は苦く笑う。 「あんまりあれ、信じてないんだけど」 「ものはためしじゃない。頼んでみようよ」 「ま、主のためだしそうしよっか」 二人は連れ立って本丸のはずれ、槍棟の方に向かう。 「「おーてーぎーねー!ちょっときいてー!」」 頼みこんで御手杵の鞘を抜いた結果、見事に雨は降った。夜にはきっと雪に変わるだろう。 しかしそのせいで機嫌が急降下した洗濯係の歌仙から、二人は1日逃げ回るはめになったという。 他の物書きさんが文章の肉付けの仕方みたいな画像を上げていたので、それに起承転結を付けてみた。 「〜青空を眺めた」までがその人の文。 |
源氏兄弟 ※ 『それは緑色の目をした怪物』の数時間後 膝丸が持ってきた卵粥を食べてひと眠りし、起きた頃にはすっかり日も落ち皆もそろそろ寝静まるころかという刻限であった。 栄養と休息をとったからかだいぶ体調は回復しているが、汗をかいたせいで少し服が気持ち悪い。 喉が渇いたため近くに水差しがないかと、髭切は部屋をぐるりと見まわす。すると明かりを暗めに落とした部屋の中に見慣れないものがあった。机の上に置いてあるそれは、詳細まで見えないがさほど大きくない器に入った数輪の花のように見える。 「うん……?あんなの、あったっけ」 ひとり呟いた頃、丁度膝丸が帰ってきた。 「起きたか兄者、体の調子はどうだ」 「うん、かなり良くなったよ。ねえ、そこにある花瓶?はどうしたんだい」 「あれか」 言いながら膝丸は部屋の明かりを明るくする。先ほどまで薄暗くて見えづらかったが、それは普段湯呑を使うために戸棚で埃をかぶっていたガラスのコップと、それに活けられた紫色の花だった。 「ああやっぱり花だったね。寝てる間に誰か見舞いにでも来たのかな」 「見舞いは確かに数人来たが、それを持ってきたのは俺だぞ」 「お前が?」 髭切は驚いて瞳をくるりとまるくする。 「遠征の帰り道に見事な竜胆が咲いていたものでな、兄者にも見せたくていくつか摘んできた」 「へえ、竜胆!」 竜胆と言えば源氏の家紋の意匠になっている花だ。二人の(そして今剣の)紋にも入っているからか、どこか親しみを感じる。しかし竜胆そのものをこの目で見るのは初めてかもしれない。 「だがな――」 膝丸は少し哀し気に眉根を寄せてコップを手元に寄せる。 「兄者が倒れたと聞いて慌てて活けたからな、もう萎れてきてしまった。花には悪いことをした」 「ありゃ……」 コップをのぞき込むと、確かに葉の先や花びらに元気がない。自分が遠因だと思うとこちらまで申し訳なるし、勿体無く思う。 「うーん、今でもきれいだけど、折角の機会だったんだから一番きれいな状態を見たかったなあ」 そう呟けば、膝丸はうん?と首を傾げた。 「なに?」 「いや、また今度、兄者も同じところに行けばいいだろう?俺が場所を案内しよう。切り花も美しいが、川べりに竜胆が一面咲き誇ってるのはもっとずっときれいだ」 「あー……そうか、ふふふ、そうだったねえ」 このところずっと膝丸と別行動だったから、一緒に遠征に行くなんて発想をすっかり忘れてしまっていた。 「だから兄者、早く体調を治すのだぞ」 「ふふふ、そうだね、わかったよ」 「ああそうだ兄者、着替えを用意しようか。それとも、体調が大丈夫そうなら風呂に行くか?」 「そうしようかな」 「ならば俺も付き添おう」 「過保護だなあ」 「心配しているのだ」 「わかってるって」 膝丸が二人分の着替えを用意している間に、久方ぶりに髭切は立ち上がって少し体を動かす。頭が少しふらつくが、まあ風呂に入って戻るくらいなら大丈夫だろう。付き添いもいることだし。 「行けそうか、兄者。……何か嬉しいことでもあったのか?」 「んー?僕の弟がこんなにも優しくて優秀で、嬉しいなって思って」 「……まったく、何をいっているのだ」 むっつりと不機嫌そうな顔を作った膝丸の頬は、風呂に入る前から桃色に染まっている。髭切はそれを見てさらに笑みを深くした。 本編内に竜胆の話をいれそびれたのでその後として。 やっぱりシリアスよりこれくらいふわっとした頭の軽い話の方が書いてて楽。 |
大包平+鶯丸(+蜻蛉+光忠) 現代機器に向かって仕事をしていた審神者が突如叫び声をあげ、近侍である大包平は思わず身構え刀を手に取った。 「どうした、敵襲か!」 「あたらしいこが……あたらしいこがくる……」 「新しい子?……ああ、新しく仲間になる刀剣男士という意味か」 一大事というわけではなさそうで大包平はすとんと腰を下ろす。しかし審神者は息も絶え絶えで立つことすらままならない様子だった。 「とんぼさん呼ばなきゃとんぼさん……あああ、今遠征中だった……あれは何事なのか聞きたかったのにくっそ!なんで日本語不自由そうな子くるの、大丈夫なのあの子」 「なんだ、蜻蛉切に火急の用か」 「個人的にはとっても火急だけど鳩使うほどじゃないッス……。あ、大包平そこの遠征表取って」 「一体何がかかれていたんだ」 審神者の指示を無視して大包平は指さされた方向とは真逆、審神者の方に向かい画面をのぞき込んだ。 『【新刀剣男士公開 千子村正】初代村正(千子村正)の作で、恐ろしいほどの切れ味を持つ実戦向きの打刀』 そんな説明と共に白い長髪を持つ体格のいい男士の姿が表示されていた。 村正といえば妖刀と言われるということで有名だなぁとは認識しているが、それくらいでしかない。審神者みたいな大きな反応するほどではなかった。 つまり、 「なんだ童子切ではないのか。童子切はまだか」 とだけ呟くにとどまった。 が、しかし、その言葉に審神者がぴくんと反応した。 「お前が……」 「ん?」 「お前がそれを言うかああああああああああああああ!!!」 審神者にしばかれたおした背中をさすりながら大包平は遠征部隊を出迎えに行く。 唐突に何かのスイッチが入った審神者に「うぐが!どれだけ!待ったと!おもって!!!」とばしんばしん叩かれ、仮にも主に腕力で反撃するわけにもいかずされるがままになっていた末の有様だった。手入れが必要なほどのダメージではないが、精神的には赤疲労+中傷である。 「はぁ……」 「どうなされた、大包平殿。遠征がえりの我々よりも疲れた様子だが……」 「ああ蜻蛉切か。村正のことで主が呼んでいたぞ」 「なんと。伝言感謝する。すぐに向かおう」 足早に立ち去った蜻蛉切の後ろには、共に遠征に出ていた鶯丸と光忠がいた。(余談だがこの3人を同じ隊にしていたのは審神者のちょっとした遊び心である) 「大包平?何かあったのか」 「まあ、少しな。――鶯丸」 「なんだ」 「ん……その、悪かったな」 「なんのことだ?俺がしまっておいた茶菓子の盗み食いでもしたか」 「していない!いや、主がお前の謝っておけというものだから」 本当に心あたりがないといった様子の鶯丸と、不承不承という顔の大包平を見、光忠は苦笑する。 「鶯丸さん、とりあえずその言葉、受け取っておきなよ」 「そうか。まあなんだ、謝られる覚えはないが、こちらから礼は言いたいな。お前が来てくれてから日々が楽しい。ありがとう」 「……おう」 詫びた相手に礼を言われ、大包平はむっつりと黙り込む。 大倶利伽羅を待たせたことがあり、太鼓鐘を待っていた光忠はどちらの思いも分かるが代弁するのも無粋だと思い、ひとつくすりと笑うだけにとどめた。 冒頭の動揺してる審神者はまんま自分の行動です。近侍が大包平だったのも一緒です。 村正の情報出たときのざわっと感はちょっととうらぶ史に残ると思う。 |
亀甲+薬研 門を抜けるとそこは雪国であった。 というほど文学的な話でもファンタジーな事象でもない。本丸から遠征に向かうために時間遡行門を使っただけの話である。 隊員は薬研と亀甲の二名。何度もこの地に来たことのある薬研とは違い、亀甲は物珍し気にきょろきょろとあたりを見回している。 「ここ初めてか?」 「ああ、そうだね。この地に来るのも、雪を実際にこの目で見るのも初めてだよ……すごいねえ、これは」 「大将は寒いのがめっぽう嫌いで『冬の庭』にはしないからなあ。まあ、気に入ったならよかったぜ。せっかくだから少し雪で遊んでいくか?」 「時代の調査や資材調達はしなくていいのかい?」 「ちょっとくらいなら時間に余裕あるし、いいだろ。ほら」 薬研はその場でしゃがみこみ、手のひらに少し余るくらいの大きさの小さな雪山を作った。そして近くにあった常緑樹から落ちたばかりらしい葉と、小さな緑の木の実をそれぞれふたつ取って来て、雪山に飾り付けた。緑色の目の雪うさぎの完成である。 「へええ、器用だねえ」 「これくらい難しくないぜ。普通は赤い目で作るんだけど南天がなかったから緑目だが、ほら、まっしろなところといいお前みたいだろう?」 少し得意げに薬研がウィンクして見せれば亀甲はぱちくりと目を瞬き、しゃがみこんで雪うさぎをさらにじっと見る。 「確かに言われてみれば、ふふふ、なんだか照れくさいな。ありがとう、薬研」 「どういたしまして」 「そうだ、僕も代わりに君に似せた雪うさぎを作るよ。内番服だと君もまっしろだろう? 紫の実をさがしてこなきゃね」 言うなりぱっと立ち上がって亀甲は近くの茂みに立ち入る。 「おいおい、やめとけって!」 「かわいらしいものを作ってもらったんだ、お返しがしたいんだよ」 「いや、そうじゃなくて」 薬研が引き留め切る前に、亀甲の身長がかくんと下がった――ように見えた。 「あーあ……悪い、もっと先に言っておけばよかった」 薬研は頭を抱え、亀甲は座り込んで呆然としている。座り込んでいるその場所はせせらぎの聞こえる小さな川だった。この季節だと周りの木々と雪がそれを覆い隠して見えにくくなるため、亀甲はその自然の罠に見事にひっかかったのだった。 「ああ、びしょぬれになってしまったよ……まいったね」 「雪っていうのはこういうこともあるからな、次は気を付けような」 「うん、そうするよ……うう、寒い……」 状況を把握した亀甲は立ち上がり川から出る。ズボンはぐっしょり濡れており、上着にもいくらか水がかかっている。雪が積もるような気温のため、濡れた服では指先から凍え芯から冷えた。 「すぐ鳩使うか?」 「いや、ご主人様が防寒着を持たせてくれたからそれでしのぐよ」 「そうか。じゃあ俺がさっさと仕事済ませてくるから、門の前で待っててくれ」 「うん、悪いけど任せるよ」 そう言って亀甲はスーツの上着の上からコートを羽織ろうとする。 「おいおい、濡れた服は脱がないと寒いままだぜ」 見咎めた薬研が慌ててそのコートを奪い取り、濡れた上着にも手をかける。弟たちの世話を焼いてるときのくせでそうしたのだが、その手をぱちんと払いのけられた。 「えっ…」 「あ、ああ…ごめん!悪かった!いや、気持ちはありがたいけど、その、うん、自分でできるから、構わないで行っておいで、時間もないだろうし、ね」 驚いて一瞬固まる薬研に、亀甲は慌てて言い繕う。その動揺っぷりに薬研まで動揺が移り、「お、おう」と促されて調査する里の方向へ駆け出す。 その表情が不可解そうに眉根を寄せたままだったのに気付き、その背中に亀甲は手を合わせて無言で詫びる。 自分の不注意のせいで多大な迷惑をかけてしまい本当に悪いと思っている。それでも『秘密』に触れられるわけにはいかなかったのだ。二つの意味で。 安価でお題を募ったら「亀甲・遠征・ニキと雪だるま」と来たので、雪だるまを雪うさぎにして即興短文。 亀甲は秘密をちゃんと秘密にしてたらきっと清楚な好青年。 |
5こめ |