携帯獣BW インエメ
※ いわゆる「ぼくのかんがえたさいきょうのサブボス」状態
※ インゴ(兄)が不良口調で口下手、エメット(弟)がおしゃべり好きな元プレイボーイ





「たまには役割交換しようよ」
唐突に切り出されたエメットの提案に、インゴはぽかんとした後、少しばかり嫌味っぽく返した。
「こんな歳になったら兄も弟も変わらないと思いますがね、エメット兄様?」
「ちーがーうって、そういうんじゃなくて、なんでいっつも僕がネコなのかなって」
猫と聞いてチョロネコやらニャルマーが思い浮かんだ後、ああ、と呟いて納得した。
「なんで、ってお前が『どっちでもいい』って言ったからだろ」

二人が初めて体を繋げようとした晩、口火を切ったのはエメットだった。
「インゴとできるなら、僕どっちでもいいよ」
あまりにさらりと言われた台詞に少しばかり面食らいながら、ならその言葉に甘えて男役の方の体勢に移ろうとした瞬間、それを悟ったエメットの、
「で、でも僕、男相手初めてだから、優しくしてね」
熱に浮かされたような表情で、照れながらも嬉しそうに囁かれたその言葉に、一瞬にして理性が飛びかけたのをインゴは昨日のことのように覚えている。

「インゴが求めてくれてるってだけで死にそうに嬉しかったし……そのときは、その晩だけのつもりだったし……」
ぶつぶつといじけだしたエメットを横目に、インゴは思案する。
お互いへの片想いを長年抱え込んでいたのは二人とも一緒なのだが、他人に興味のなかったインゴとは違い、エメットはプレイボーイで名を馳せていたし、器用なことに片想いを抱えながらそれとは別に数々の恋愛を謳歌していた。
となれば、懸念事項がひとつ、無いわけではない。
「下手糞か、俺は」
恐る恐る聞けば、へ?と間抜けな声を上げたあとエメットは一気に紅潮した。
「いやいやいや、そんなことはないよ!むしろすっごくイイよ!だって、僕の大好きな蒼いぎらぎらした眼に見られるだけでぞくぞくして興奮するし、吐息交じりの声で名前呼んでくれるともう融けそうになっちゃうし、最近噛まれても感じるように――」
「もういいやめろ」
いつまでも続きそうなエメットの言葉を遮ったインゴの眉間に、幾筋も皺が刻み込まれる。インゴといつも顔を合わせる鉄道員をもってして「控えめに言っても威圧感が服を着て歩いているよう」と言わしめるその表情は、20年以上連れ添った片割れにはそれがただの照れ隠しであるとあっという間に看破された。
「だから、たまには僕がいつもされてるぶん、インゴのそういう風に照れた顔とか、理性ぶっとんでとろとろになった顔見たいなぁって!だから、お兄ちゃん、お願ぁい」
媚と期待を隠しもしないきらきらした瞳ですり寄ってきたエメットの、その頭をはたいた。いだっ、と鈍い声が聞こえたが気にせず、そのまま押し付けるようにして頭を撫でた。

インゴとしては、別に立場に拘るつもりはないし、普段無体を強いている自覚はある。だから片割れにだったら尻のひとつやふたつ貸してやるのもやぶさかではない。エメットなら、きっと自分がしている以上にどろどろに甘やかし満たすように愛してくれるだろう。
だけども。
エメットの金糸がさらさらと指に絡まるのをじっと見ながらインゴは思う。同じ色であるはずの瞳をエメットが「インゴの蒼い瞳が好き」と言うのと同じように、インゴはエメットの髪が好きだった。
春の太陽のように明るく輝くベビーブロンドは、あどけない仕草をするエメットによく似合っていた。その美しい金糸が、エメットの色ともいえる白に散る様がたまらなく好きだった。
白いシーツに溺れるように髪を散らし、心底幸せだと言いたげなとけそうな笑顔で、すがるように抱き着いてくる瞬間が、どうしようもなく好きでどうしようもなくそそるのだ。
それを口にしようか逡巡している間に、ぐりぐりと強く撫でていた手は梳くように優しい手つきになっていた。
そんなことしたって懐柔されてなんかやらないよ、とエメットは拗ねたように言いながら、口調は随分と上向いている。

「わざわざ変えなくても、今の立ち位置がベストだろ」
「そんなのやってみなきゃわかんないじゃん」
「まあ、俺の我儘にもうしばらく付き合え」
梳いた手をそのまま掬うようにして思慕のキスを落とせば、あー、とか、うー、とか意味のない鳴き声のようなものを上げてエメットが折れた。
「もうしばらく、だけだよ」
あの瞬間あの光景に飽きるまでの『しばらく』だな、と思いながら、飽きることなど永劫にないような気がした。






サブボスはリバ気味なくらいがいいと思った上でインエメに固定した場合の基本系。いつかエメイン側も書いてみたい。
キャラ付はふんわり『蒼玉色の時間』と同じだけど明確に繋がっているかと言ったら……どうなんだろう。