BW エメクダ

※ エロくはないけど露骨にシモいのでR-15




はぁ、と溜め息がひとつ落ちる。
「なーんで、いっつもあいつは……」
両肘を机につき指先を組んだ姿勢で吐かれた言葉は、静かな部屋にしっかり響きノボリの耳にも届いた。
「どうしました、クダリ。ゲ○ドウさんみたいになってますよ」
「僕あんなダンディになった覚えないんだけど」
「ポーズの話ですよ。――で、エメット様と何かあったんですか?」
「なんでわかったの」
それはクダリが「あいつ」と呼ぶのはエメットしかいないからという至極単純な理由であるが、あえて言わず、あたかも「弟のことはなんでもお見通しですよ」と言わんばかりの笑顔でノボリは微笑んだ。
「あの方と喧嘩でも?クダリを泣かせるようなことがあるなら瞑想積んだシャンデラにジュエル持たせてご挨拶に行く所存ですが」
「それきっと消し炭も残らないよ……っていうか、喧嘩なんかじゃないって!だけど……うーん……ちょっとね」
「悩みなら聞きますよ」
「…………生々しい話だけど、いい?」
口元を苦く歪めながら言えば、ノボリの瞳はぎらりとやる気にきらめいた。
「なんですか!猥談ですか!ばっちこいですよ!照れ屋でウブなクダリの口からえっちな話が聞けるなんて!」
「ちょ、ちょっと待って兄さん、ぐいぐい来すぎて恐いよ」
にじり寄るノボリから、寄られた分だけクダリが距離をとる。
宥められたノボリがびしっと聞く姿勢を取ると、それはそれで話しづらいのかクダリは頬を掻きながら言いよどむように唸り、しばらくしてようやく口を開いた。
「僕とエメット、付き合ってるじゃない」
「ええ」
「で、まあ、することもしてるんだけどさ。僕がいつも、女役側っていうのかな、入れられる方してるんだ」
知ってますよ、時々うなじにキスマークついてますもの、とは言わない。言えばきっとエメットの鳩尾にひとつ痣が増えることになる。
「その、してる最中、盛り上がってくると、エメットが僕に恥ずかしい言葉言わそうとしてくるのがね、なんていうか……萎える」
「なんですかそれ……」
一気にげっそりとやる気をなくしたノボリに、クダリは机をばしばし叩いて訴えた。
「ノってあげろよって思うでしょ?そりゃあ僕も思うよ!おねだりして、くらいだったら喜んでノるよ?でもさ『おっきい×××ほしい』とか『えっちなみるくちょうだい』とか『淫乱スケベ穴にください』って言えって言われるとね、すっごい恥ずかしいし、照れが一周周って、なんか……ぶっちゃけムカつくんだよ!」
「ほんとにぶっちゃけましたね!っていうかエメット様には言えなくても私には言えるんですね」
「だって状況説明だもの。その程度の羞恥心は粗大ごみに捨ててきたよ。」
「あなたいつの間にそんな成長を……。で、恥ずかしい言葉に萎えちゃうクダリは、いつもその後どうするんですか?」
問えば、クダリはまた言いよどむ。ここまでぶっちゃけておいて、何を今更恥ずかしがることがあるのかとノボリは思った。
「……兄さん、引かない?」
「引くか引かないかは分かりませんが、とっても聞きたいです」
「兄さんがそう言うなら続けるよ。――実際恥ずかしい言葉言ってってねだられるのも嫌なんだけど、その後イラッとした衝動のままエメットにひどい言葉いっちゃうのが本当に嫌なんだ」
「ひどい言葉?」
「『一人で抜いてれば』とか『入れさせてほしいのはそっちの方でしょ、何様のつもり』とか『男の身体触ってるだけでおったててる君は淫乱じゃないんだ?じゃあ何なの?変態?それともしつけのなってない馬鹿犬かな』とか」
「お、おお……」
「引いたでしょ」
「ひ、引いてなんかいませんよ!ただ、すごいなぁと思って。つかぬことをお聞きしますが、お兄ちゃんに隠れてその手のいかがわしいアルバイトなんか、してません、よね……?」
「してないよ!!僕自身どこからか電波でも受信してるのかと思うくらいだもん!この間なんか『この雄豚が!』って罵ってエメットのアレ踏んでたし……。もう、一晩経って我に返ったあとに自己嫌悪がすごかった。翌朝のエメットの笑顔が眩しすぎて地中深くに埋まりたくなった」
ひどいこと言いたくないんだよう、ほんとはやさしくしたいんだよう、僕どうすればいいの、とぐずぐず呟きながらクダリは机につっぷした。そこだけ切り取れば好きな女の子にいじわるしちゃう男の子の悩みのようだが、言っていることとやっていること少々えげつない。
へこんでいる弟を横目に、ノボリははてなと小首を傾げた。
「笑顔ということは、彼は嫌がってないんですね」
想定外な指摘だったのか、むくりとクダリの顔が起き上がる。
「……そうなのかな」
「もしかして、クダリに『ひどいこと』言われているときのエメット様って、お顔がぽーっとしてたり紅潮してたり妙にうっとりしてたり、しませんか?」
「なんでわかったの」
今度ばかりは「何でもお見通しですよ」なんて余裕ぶった微笑みも作れずぎこちなく笑う。
「あと頼んでもないのにやたらと自分を卑下するような言葉で懇願してくる」
うわあこれガチですね、とノボリの笑みが更に歪んだ。
「要するに、エメット様がクダリにえっちな言葉言わせようとするのが嫌で、それにキレてひどい言葉言っちゃうのも嫌、ってことですよね」
「うん」
軽く肯定が返ってきて、脱力感にはあああ、と長い溜め息をついた。
「じゃあ、二人の立ち位置変えて最初からクダリ主導でやれば解決じゃないですか?」
暫しの沈黙。そしてクダリはぱちくりと瞬いて一言。
「兄さん、天才」



「インゴ、天才」
ユノヴァの兄弟が、同じような会話を繰り広げ同じ結論に至ったのは、奇しくも同時刻のことだった。






「尻いじられてるだけでおったててる受けをからかう攻めっているけど、男の乳と尻いじってるだけでおったててるてめーはなんなんだよ」っていう疑問を彼らにぶつけてみた。結果、エメットがドMになった。ごめんね、エメットくん。
エメクダに限らず、SKYが書くホモにおける攻めは「受けにだったら尻貸せるけど、受けが可愛いから男役やりたいな」っていうスタンスです。(ex.エメットくんが下克上の交渉をする話(インエメ))