21:懺悔
絶望先生 准望





とある小さな高校に、糸色望という名前の先生がおりました。
望先生にはとある困ったくせがありました。
それは、どんなささいなことにも絶望して死にたがることでした。

そのときも、望先生は生徒に少しからかわれたというだけで死にたがっていました。
「生きてる限り恥をかき続けるなんて…耐えられない。死んでやる!」
「それは何年後くらいにですか?」
「え…っと、10年くらい?」と答えてから、望先生が独り言が会話になっていることに気づきました。
うつむいていた顔をあげると、目の前には明日卒業式を迎える教え子である久藤准君がいました。
久藤君は言いました。
「じゃあ10年後に迎えに来ますから、それからの先生の20年間を僕に貸してください。一緒に古書店でも開きましょう」
その申し出は望先生にとってはとっても唐突で、すぐには答えられないものでした。
「10年後のこの日この場所で待ってます」
久藤君は望先生の返答を聞かないまま立ち去ってしまいました。
1本だけある早咲きの桜が舞う春の日でした。

それからは、望先生の死に支度にも磨きがかかっていきましたが、衝動的に死のうとすると久藤君の言葉が思い返されて、次第に死にたがりのくせは薄らいでいました。

そして久藤君からの申し出から10年が経ったころ、ずっと変わらない望先生の不真面目な授業風景に―本人にしてみれば大真面目なのですが他の人から見たらとてもそうには見えなかったのです―業を煮やした学校が望先生をクビにしてしまいました。
すぐにではなく、その年度が終わったらやめるという約束になりました。
次の仕事がなかなか見つからない望先生は、気がついたらあごに手を当て猫背で校庭を歩き回るようになっていました。もちろんそれで問題がどうにかなるわけではないのですが。
そしてまた望先生はあの早咲きの桜の木の下にいました。それは久藤君の言葉のせいであったのかもしれないし、それよりも前からのくせだったのかもしれないし、新任のころに首吊り縄をくくりつける木を探していた記憶がそうさせていたのかもしれませんでした。
「お悩みのようですね、先生」
柔らかい声がしました。
望先生が振り向くと、知らないようで知っている男の人がいました。
それはかつての久藤准少年でした。
しかし目の前にいる男の人は、その声色は年月を経て少し深みを増していましたし、顔も身長も同じように年月と経験を越えて成熟し、今では立派な青年に成長していました。
でもその感情が読みづらいけど全てを包み込むような笑顔は昔と同じでした。
「10年前考えなしに勝手に約束してしまってごめんなさい。しかし僕今は自信をもってこの言葉を言えます」
ひとつ大きく息を吸って、
「貴方を迎えに来ました。貴方の時間を僕に貸してくれませんか?」
久藤君が望先生に手を差し伸べました。
「君を死神とでも思うことにして」
そう言って望先生はその手をとりました。






ずっと前にどこかのスレで拾ったやりとりから、広がったけど形にならなかった妄想が、絵本口調にした途端さくさく形になった!ふしぎ!
そのスレもスレタイ覚えてないしもうとっくに沈んじゃった(はず)だから原典抜粋できないんですけどね。
てか、お題が懺悔なのに「懺悔=ごめんなさいすること」って思ってるものだから、さっぱり悔い改まってないや。
ここで一応この話は終わりだけど、蛇足的なそれからのふたりが知りたい方はこちら