刀剣乱舞 日本号×審神者

※ 創作男審神者注意
※ 「夢うつつ」「迷い足」と同一本丸・時系列に関係性は無し






他の本丸ではどうだか知らないが、この本丸には刀剣男士には飲兵衛が多く、ことあるごとに酒宴が開かれている。ことがなくても開かれている。それこそ「何でもない日おめでとう」のような頻度で。
大層な下戸である審神者がそれに参加することはほぼ無いし、主催側も誘うことはしない。少し寂しくはあるが、想い人である槍が楽しそうにしているのであえて止めるようなことはしない。
そんな訳で、夜も更けた頃に酔い覚ましで庭を散歩する酔っ払いの声が聞こえてくることがしばしばある。



大広間で行われていた酒宴がお開きになったようで、にわかに本丸が騒がしくなり、それぞれの部屋に戻ったのかすぐに静かになった。そしてしばらくして審神者の部屋にまで聞こえてきたのは、低く色気のある声で調子っぱずれに響く黒田節であった。
そろそろ寝ようかと想っていたところにかの槍の声が聞こえてきて、なんとなくいい夢が見れそうだといい気分になって寝支度を始めたが、部屋の明かりを落とした頃、ふとあることに気付いた。

声が、近づいてきている。

乱れまくった音程と低音で黒田節だと判断していたものが、歌詞まで聞き取れるくらいまでに近づいている。日本号の部屋は本丸の反対方向とまではいかなくても、審神者の部屋からはそれなりに遠い。なのになぜ此方に来ているのか。
さすがに妙な予感がして庭の様子を見ようと障子まで近づけば、いつの間にかその声はすぐ傍まで迫っていた。そしてがたがたと縁側でやかましく物音がし、手をかける寸前に障子がすぱーんと開いた。
障子を開けようとした膝立ちのまま、目の前に仁王立ちする影を見上げる。月の逆光で見えづらいが、頬はいつになく赤く口元は緩みながらも弧を描き、普段以上に垂れた目はとろりと据わっている。そして強くかおる酒の匂い。完全に泥酔している。
「ど、どうした、号さん。部屋はこっちじゃないだろ」
「いーんだよ」
「え、何――がッ」
意味を問おうとした声は、日本号の唐突なタックルで遮られた。否、本人にタックルのつもりはないのだろうが、筋肉質で長身の男が中肉中背の男に抱き付けば、それはタックルに相違なかった。つまり、抱きつかれた審神者は見事に後方に倒れた。布団を敷いていたおかげで頭をしたたかに打ち付けることはなかったが、脚が不自然な方向に曲がりかけ、思わず呻く。
「い゛っ……!ちょ、号さん!何してんだよ。ち、近い近い!」
思わず日本号の方を向けば藤色の瞳と間近で目が合って、反射的に顔を背ける。
「別にいいだろォ、男同士なんだからよ」
よくねーよ!!とは口にはできない。なぜなら本来ならば日本号の方が正論で、一方的に審神者が抱えている想いだけが最大の問題だからだ。こんな至近距離で触れ合っているというだけで、心臓が相手に聞こえそうなほど煩くばくんばくん鳴っている。
「とりあえずもうちょっと離れてくれないか……うん?号さん?おーい……おーいってばー」
件の酔っ払いは目の前の審神者の動揺など些事とばかりに、くかーっと寝息を立てていた。不自由な体勢のまま体をゆすってみても声をかけてみても起きる気配はない。
はあ、とため息をついてからそろりそろりと日本号の顔を見る。常に自信と余裕を映し出している藤色の瞳はすっかり瞼に閉ざされ気迫を隠し、寝顔はいつもよりあどけなく見える。
だからだろうか。今なら少し大胆になれる気がした。

意を決して、顔を少し近づけ、彼の耳元に口を寄せる。そして。
「すき」
そっと吹き込むようなその一言がごく小さな声だったのは、はっきり伝えるほどの度胸が足りなかったからだ。その代わりに、唇をもう少し寄せて軽く口づけた。
「今に気付かせてやるからな」
つぶやいた言葉は、日本号に向けてというより自分自信への鼓舞のようなものだ。次こそは、こんな風に眠っているときではなく、起きているときに真正面から想いを伝えられるように。
その一言でとうとう気力が尽き、ぱたんと力なく倒れた。日本号の下敷きになっているような状態から抜け出すだけの気力もない。
諦めてこのまま寝てしまおう。うるさく鳴る心臓をおさめられる気はしないが、寝てしまおう。
そう思って審神者は目をつぶって睡魔が訪れるのをじっと待った。


故に彼は知らない。
日本号の瞳がうっすらと開いていたことも、その耳が酔い以外の理由で赤くなっていることも、彼がほとんど口のなかで「とっくに知ってるってぇの」と小さくもごもごと呟いたことも。






某審神者が愉快な夢(ry・その3
この二人はくっつかないくらいのリリカルホモ感が適度だと思っているので、このシリーズは多分これで一区切りです。